第11話:吹奏楽"局"?
吹奏楽「部」ではなく、なぜ「局」なのか?
そこには、全校生徒も知らない(?)禁断の事情が隠されていました。
副局長・竜胆楓が語る、「局」の真実とは。
球技大会という春の熱狂が過去のものになると、学校生活の主役は一気に「部活動」へとシフトしていく。
放課後のグラウンドからは野球部やサッカー部の威勢のいい声が響き、体育館からはバレー部やバスケ部のシューズが床を叩くキュッという音が絶え間なく聞こえてくる。
インターハイ予選という、運動部にとっての「聖戦」が各地で幕を開ける時期なのだ。
そんな中、俺が所属する吹奏楽局もまた、にわかに慌ただしさを増していた。
六月には「高文連(北海道高等学校文化連盟)」の発表会があり、それに続いて「定期演奏会」という大きな山場が控えている。
一般的に、この定期演奏会をもって三年生は一度、引退の節目を迎えることになる。
もちろん、進路が早々に決まっている猛者や、学業と楽器の両立を余裕でこなす頭脳明晰な先輩たちは、コンクールを勝ち進み、九月の全道大会まで残ることもあるのだが、まずはこの六月が最初の正念場だ。
さて、ここらで読者の中には、ある「些細な疑問」を抱いている人もいるかもしれない。
なぜ、この物語では吹奏楽のことを「部」ではなく「局」と呼んでいるのか。
実はこれ、同じ吹奏楽局に籍を置く部員ですら、意外と深くは理解していないことなのだが。
吹奏楽局は「図書局」や「放送局」と同じく、組織図上では「生徒会の一部」に組み込まれているのだ。
そのため、俺たちのトップは「部長」ではなく「局長」という、どこか官僚的な、あるいはテレビ局のような肩書きで呼ばれる。
そして、そんな「局」という立場には、他の運動部や文化部が涙を流して羨むような、とんでもない特権が隠されていた。
その最たる秘密は、ズバリ「金」である。
今、だからどうした?
部費の話でしょ?
別にそんなに気にすることでもないしょ?
……って思っただろ?
勘違いするなっ・・! ガキめらっ・・!
金っ・・! 金はな・・・・命より重いんだ。
思わず、中間管理職のおじさんみたいな言葉が出たが、これかなり重要なんだよ。
吹奏楽局には、いわゆる「部費」という概念が存在しない。
活動に必要な一切の経費は、全校生徒から集められた「生徒会費」によって賄われているんだ。
部員たちはごく当たり前のような顔をして練習に励んでいるが、月々の集金は一円たりともない。
それどころか、合宿費や遠征費、遠く離れた会場への宿泊費、さらには繊細な楽器の修理費に至るまで、すべてが生徒会予算という魔法の財布から支払われる。
そして、そんな局の懐事情に、副局長という立場で深く一枚噛んでいるのが、この俺、竜胆楓だ。
うちの局に割り振られる年間予算は、実にデカい。
「局の予算は1300000です」
宇宙の帝王の、約倍の戦闘力を有しています。
なぜそんなことが可能なのか。理由は単純明快、「実績」だ。
わが吹奏楽局は、毎年ほぼ確実に全道大会へと駒を進める、この地域では名の知れた強豪である。
私立のマンモス校ならまだしも、公立高校で運動部も文化部も軒並み苦戦する中、吹奏楽だけは毎年全道行きの切符を掴んでくるのだ。
学校側からすれば、吹奏楽局は「最も効率よく学校の名前を売ってくれる広告塔」なのだ。
実績は金になる。
実に恐ろしい、そして現金な話である。
しかし、そんな巨額予算の使い道ときたら、これがまた「ずさん」の一言に尽きる。
ある日の局内会議でのことだ。
局長:「今年、何か買いたい楽器ある?」
部員:「……いや、特にないっっすね」
これが実情だ。吹奏楽局の部員は、その多くが自分の楽器、いわゆる「マイ楽器」を所有している。そのため、意外と必要な出費は少ないのだ。
だが、予算は使わなければ来年分を削られてしまう。それがお役所仕事というものだ。
そこで昨年からは、副局長である俺が積極的に口出しをさせてもらっている。
「個人で買えない大型の打楽器を充実させましょうよ」
平たく言えば、個人で買うにはあまりに高価で巨大な、高級な木琴や鉄琴といった、音楽の深みを増すための装備に予算を回したのだ。おかげで打楽器パートの設備は、他校も羨むほどの充実ぶりを見せ始めた。
ところが、それでも予算は余る。
余った金の行方は、イベント好きの局長の一存に委ねられる。
「よし、余った金で親睦を深めるための合宿をしよう! あと、夏休みにはバーベキューだ! レクリエーションだ!」
俺は心の中でツッコミを禁じ得ない。
局長、その合宿に本当に音楽的な意味はありますか? そのバーベキューで、俺たちの音色は本当に美しくなりますか?
全校生徒が汗水垂らして払った生徒会費が、俺たちのバーベキューの肉代に消えていく。
まあ、もしこれに文句がある奴がいるなら、年に一度の「生徒総会」で居眠りせず、分厚い予算案の冊子を隅から隅まで読み込むんだな!
そんな、生徒会予算という強力な後ろ盾に支えられながら――。
俺たちは高文連、そして定期演奏会という「自分たちの物語」に向けて、着々と準備を始めるのだった。
もちろん、その音色の中に、少しばかり「肉の焦げる匂い」や「無駄に豪華な設備」の自責の念が混じっていることは、秘密である。
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は吹奏楽「局」ならではの、少し生々しいお金の話でした。
実績があるからこそ許される、魔法の予算。
利根川さんじゃなくても「金は命より重い」と言いたくなる金額ですね。
次回は、この潤沢な(?)予算に支えられた練習風景……
ではなく、あのハルちゃんとの「その後」が描かれるのでしょうか。
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