第7話 君の成長を見届ける
サイクロプスは巨人種の中でも比較的討伐のしやすい魔物である。
防御力は低く、動きは鈍く、目が一つしかないため死角も多い。
冒険者の始まりの街近辺の中で最初に戦う強敵としてはちょうどいい相手といえるだろう。
しかしそんなサイクロプスも厄介な点がある。
極まれに別の魔物と群れていることがある点だ。
種族の違うモンスター同士での群れはあまり成立しないのだが、サイクロプスの魔物に対しては比較的大らかな性格故にほぼ寄生のような形で小型のモンスターが集まる場合がある。
そして我々が今回戦うサイクロプスもホブゴブリンを仲間として引き連れているわけだったのだが……。
「それじゃあ私が今からホブゴブリンを全滅させてくるから、そのあとは君に任せることにするよ」
「一人で全部ですか!?」
「ワイトの時とそう変わらないからな」
ワイトの時は何も考えずに突っ込んで数匹逃がしてしまったが、今回はちゃんと対策していくことにしている。
「対策ってなんですか?」
「私が得意なやつだよ」
ということでイチカの実戦であるVSサイクロプス戦。
その前哨戦であるホブゴブリン殲滅戦が始まったわけなのだが。
私は気配を完全に消していた。
3年間のソロの冒険者活動の末導き出した結論。
それはモンスターの暗殺、正面からまともに戦わないことだった。
冒険者としてのランクを上げると一人で戦うには強すぎる敵も多くなってくる。
仲間がいるのなら連携して正面から倒すことも可能だろうが、一人だとそうもいかなかった。
私の異名?は孤高なる女剣士らしいが、私の戦い方は全く剣士らしくない。
本当に恥ずかしいからギルドで新人の冒険者が名物を見たときのようにそう呼んでくるのはやめてほしい。
私は街道近くの茂みの影から敵情を観察した。
本丸のサイクロプスは街道のど真ん中で昼寝をしている。
無防備すぎて今すぐにでも倒してしまいたくなるがぐっと気持ちを抑える。
その周りを守るようにゴブリンが数匹と見張りのゴブリンが数匹ずつ、間隔をあけて配置されていた。
サイクロプスを中心としたときに一番外周にいる4匹のゴブリン、これに私は一気に近づく。
平原近くの街道なので障害物があまりない。
なのでゆっくり行動していたらすぐにばれてしまう。
ゴブリンの背後から後頭部をナイフで一突きする。
自分が攻撃されたことにも気づかずゴブリンはその場で絶命する。
そして私が近づいたことに気づいた隣のゴブリンが騒ぎ出す前に手で口を押えて正面から脳天をナイフで刺す。
残りの二体も同じように騒がれる前に始末した。
物音はなるべく出さないように行動したが、ほかのゴブリンが気づくのは時間の問題だろう。
私はすぐさま移動を開始し、別の見張りのゴブリンのもとへ向かう。
あとは似たような手順で外周から殲滅していく。
違和感にサイクロプスと取り巻きのホブゴブリンが気づいた頃には、他のゴブリンの処理は終わっていた。
「グオオオォオオオ!!!!」
縄張りを荒らされたことに気づいたサイクロプスが雄たけびを上げる。
その声につられてホブゴブリンも武器を構えて威嚇をしていた。
「こんだけ数を減らせば正面から戦っても討ち漏らす心配はないな」
先程まで使用していたナイフを道具入れに仕舞い、腰のブロードソードを取り出した。
私が剣を構えるのと同時にホブゴブリンが私に襲い掛かる。
その様子をサイクロプスは眺めていた。
「助かるよ、デカイ方は相棒の獲物だからな」
飛び掛かってきた2体のホブゴブリンを空中で胴体ごと切断する。
残りの3体はこちらに突っ込んできた順番に首、胴、頭部を切り裂いて一撃で絶命させた。
「まあさすがにこの辺りの魔物には苦戦することはないな」
取り巻きを全滅させられたサイクロプスだが、あまり頭がいい生物ではないので状況を理解しているかはわからない。
ただ、私への敵意をむき出しにした、文字通り鬼のような形相で私をにらみつけているだけだった。
だが悪いが仲間の敵討ちに付き合うつもりはない。
「イチカー!終わったからもう出てきていいぞ!!!」
「はい!」
少し離れたところで私の仕事が終わるのを待っていたイチカがトテトテと走ってきた。
この前小走りで街へ帰った時、躓いて転んでたから少し心配だ。
「ふぅ~。ベアさん、本当に一瞬でゴブリン軍団を片づけましたね」
「慣れてるんだ。音消して敵を倒すの」
「冒険者じゃくて暗殺者みたいですね」
私の自認は剣士じゃなくて暗殺者よりなので間違った意見ではないな。
「それじゃあバトンタッチだ!あとは任せた!」
「任されました!」
私とイチカはハイタッチをしてポジションを入れ替えた。
相変わらずサイクロプスは怒りに満ちた顔でこちらを見ている。
だがいくら頭の悪い生物といっても私との力の差はある程度理解して動けないでいた。という感じだろうか。
そのサイクロプスの隙をついてイチカが魔法を発動した。
「スプラッシュウォータ!」
イチカの新調したロッドの先端から勢いよく高圧の水が飛び出した。
その水がサイクロプスの足に当たり軽く肉をそぎ落とす。
「魔法の威力が上がっているじゃないか!」
「みたいですね!!!でもこれ中位クラスの魔法みたいなんですけど!!!」
中位クラスの魔法は戦闘の花形だ。
下級よりも火力が出せて、上級以上の魔法よりも溜めの時間が短い。
ただイチカの魔法はおおよそ下級魔法くらいの威力に見える。
以前レイドバトルの際に他のパーティの魔術師が使っていた素人目中位クラスに見える魔法は竜の足を動かす程の威力があった。
やはりスキル『仲間がピンチの時以外は常時魔法攻撃力マイナス50%』によるバットステータスが足を引っ張っているようだ。
「でもこれで終わりじゃありませんよ!フリーズ!!!」
イチカが次に放った魔法は冷気の呪文だった。
杖から放たれた冷気が、先ほどの魔法で水浸しになった地面やサイクロプスの足を瞬時に凍らせる。
凍らせて足を封じる作戦か!
うまいぞイチカ!!!
しかし、サイクロプスは足元が凍り付いたことなどお構いなしに動き出した。
凍り付いた地面を筋肉で無理やり引きはがし、大地に張り巡らされた氷を踏みつぶしながら突進してくる。
「使い古された頭脳プレーじゃダメでした!」
イチカの頭上から振り下ろされたこん棒を回避しながらイチカがそう叫んでいた。
「それでももう一度!スプラッシュウォーター!」
今度はサイクロプスの胸あたりを狙った水圧の攻撃がクリーンヒットする。
動きの遅いサイクロプスでは中距離から放たれる魔法攻撃を回避するのは難しいようだ。
上半身を高圧の水で押されたサイクロプスがバランスを崩すと、足元に残っていた氷で足を滑らせてそのまま地面に仰向けに倒れた。
「今度はこっちの魔法です!雷槍!!!」
杖を持っていないほうの手に雷の槍を作り出し、それをサイクロプスに投擲した。
巨人族のベースは人間なので、雷攻撃は特に通りが良い。
先ほど同様水浸しのサイクロプスは全身に電流を受けてもがいている。
「槍なのに貫通しない感じですか……」
イチカは残念そうにそう言いながら次の魔法の準備に入った。
「さっき覚えた新しいスキル!『チャージ』!」
イチカのロッドに、属性を帯びていない魔力が集まっていく。
スキル『チャージ』は無属性魔法を使用するときに本来よりも時間をかけて魔力を集めることで威力を上昇させるスキルらしい。
サイクロプスが感電状態から復帰して顔を上げたタイミングで、イチカのロッドから魔力の弾が射出された。
その魔力の弾がサイクロプスの頭部、巨大な眼球にクリーンヒットした。
「グおおおおおおお!!!!」
潰れた1つ目を両腕で抑えながら悶え苦しんでいる。
しかしそれでもなおサイクロプスを倒し切れていない。
「……やっぱり私魔法の才能はないのかもしれないですね」
「だいぶ戦闘センスはあるように見えたが」
「こんな戦い方してたら大技出しまくりで魔力がすぐ切れちゃいますよ」
イチカがそういいながら悲しそうに笑った。
スキルによるバッドステータス、それを一日二日でどうにかするのは残念ながら無理だったようだ。
今日一日あんなに努力したのに、イチカの気持ちを考えると胸が痛む。
しかしそんなイチカは気持ちを切り替えたように晴れやかな笑顔でこちらに手を差し出してきた。
「ベアさん!剣かしてください!」
「?」
理由がよくわからなかったが、イチカの指示に従い私の腰のブロードソードを渡した。
別の乱入者が現れたときにすぐ対処できるように魔法の道具入れから別の剣を探しながらイチカに理由を尋ねる。
「魔術師が剣を何に使うんだ?」
「エンチャントします」
そういうと先ほど渡した剣に雷の力が宿った。
エンチャント魔法は武器に属性を纏わせて、特殊な魔法防御を使用する敵の防御を貫通する際にしようされるカウンター魔法のような立ち位置だ。
だが、イチカはスキルによるデバフを除けばかなり高い魔力を持っている術者だ。
しかもエンチャント魔法にはもう一つ特殊な特性がある。
「おりゃあああ!!!!」
イチカがサイクロプスの首元あたりに剣を振り下ろした。
腰の入っていない。ただ剣の重みをそのままたたきつけるような斬撃だが、その一撃がサイクロプスの首を一撃で切断した。
エンチャント魔法のもう一つの特性、それは攻撃に術者の魔力の補正が掛かる。というものだ。
武器による攻撃にエンチャントをかけた術者の魔法攻撃のような破壊力が上乗せされるという仕様だ。
しかしこれはあくまで武器による通常攻撃であって魔法攻撃ではない。
なのでスキルによるマイナス補正の対象から外れているようだ。
首を切断されたサイクロプスはようやく力尽きた。
ドロップアイテムを残しながら光となって消えていく。
私達の冒険者カードからもクエスト達成時の音が鳴った。
「おめでとうイチカ!一人でよく頑張ったな!」
「ありがとうございます」
冒険者生活2日目でサイクロプスを一人で討伐できる冒険者は多くないだろう。
誇るべき成果なのだが、イチカは浮かない顔をしていた。
「うーん……私もしかして魔法剣士とかの方が向いているのでしょうか」
イチカが私のブロードソードを見ながらそう私に問いかけてきた。
「どうだろうな。魔法剣士という職業は器用貧乏の代名詞みたいな組み合わせだ。エンチャントの為だけに無理をして剣を振るうくらいなら、私に前衛を任せてくれた方がいいと思う」
それにイチカの運動能力はお世辞にも高そうには見えない。
イチカは鑑定のアイテムで基礎能力を自由に割り振れるといっていたが、今からわざわざ運動能力にリソースを割いて、さらに剣の修行まで始めるのは最速で強くなりたいと言っていたイチカの目論見とは真逆の行為になるだろう。
「ただ護身用で短剣を懐に忍ばせておいてもいいかもしれないな」
「そうですね!剣はお返します!」
納得のいく答えが見つかった様相のイチカからブロードソードを受け取る。
「それじゃあ今日の特訓はここまでにしてジルの町に向かおうか。宿は事前に取ってあるが夜にやりたいこともある」
「やりたいことってなんですか?」
「それは後でのお楽しみだ」
小首を傾げるイチカに対して、口に指をあてながら私は微笑んだ。
夜やりたいこと、それはお楽しみだ。
私のね。
ムフフと笑いながら散らばったドロップアイテムをかき集める。
イチカも手伝ってくれているが自身の魔法の道具入れがないので効率が悪い。
リーベルに戻ったらまずは道具入れを買い与えてあげようと思った。




