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ぼっち冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた  作者: 神子さん
第一章 パーティ結成編

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第5話 進む君と

 私はイチカとアリスの2人を脇に抱えて家路についた。

 あの後泥酔したアリスは放っておこうと思っていたのだが、お店の人の圧に負けて一緒にお持ち帰りという運びである。

 それにアリスには多少の負い目がある。

 冒険者になりたての頃、彼女の誘いを断った事だ。

 私と一緒に仕事をしたい。

 信頼できる仲間になりたいと、そう思って私に声を掛けてくれたのだろう。

 なのに私はその気持ちを断った。

 そんな負い目が、アリスにはある。

 だから私に抱えられたアリスがゲロを吐いていても……。


 「やっぱ捨てて帰ろうかな」


 私は地を這うナメクジが歩いた後のような湿り気を残しながら、ナメクジのようにゆっくりゆっくりと歩いていたのだった。



 家についたあと、吐瀉物塗れのアリスを着替えさせて2人をベッドに放り投げた。

 一人暮らしなのでベッドは1台しかないが2人にはこれで我慢してもらう他ない。

 私は野宿用の簡易寝袋を道具箱から取り出して、冷たい床の上に設置した。

 危険な外での野宿よりは気を張らなくていい分身体も休まるだろう。

 ちなみにアリスというアクシデントが無ければイチカと同じベッドで寝て……ムフフな展開を期待していた。

 まさかそのムフフな展開を別の女に取られるとは。

 許せねえ……私はアリスが許せねえ……。


 そんな事を思いながら、私は眠りに落ちていったのだった。



「「ご迷惑をおかけしてすみませんでした!!!」」


 次の朝、イチカとアリスが寝起きそうそう私に謝罪してきた。

 朝に弱い私は正直寝起きでそのテンション感でこられても困る。


「ベアトリクスさぁんご迷惑をおかけして本当にぃごめんなさいですぅ」

「気にしないでくれ」


 ベッドでムフフを奪われたことはまだ許してない。

 

「でもぉこれ服までお借りしたみたぃで……もしかしてベアトリクスさんが着替えさせてくれましたぁ?」

「吐瀉物で汚れていたのでな」

「推しの家に寝泊まりしただけじゃなくお着替ぇまでしてもらってたなんてぇ〜」


 そういいながら嬉しいんだか悲しいんだよく分からない表情でアリスは頭を抱えていた。


「昨日も言ってたがその推しっていうのはなんなんだ」

「そのまんまの意味ですぅ!クールでかっこいい孤高の女剣士なんて私達冒険者的には憧れの的なんですよぅ!」

「憧れ?侮蔑の対象だと思っていたが」


 冒険者の憧れと言われると悪い気はしない。

 というか正直途中から引くに引けなくなってカッコつけていた部分もあるのでそれが上手くいっていた事はちょっと嬉しい。


「でもベアさん普段はクールだけどパーティの誘い方だけはナンパみたいでカッコ悪かったですよ」

「それは言うな……」

 

 あの時は気が動転していたんだ。


「イチカさぁん。昨日の飲み会で貴方が悪い人ではないことは分かりましたぁ。でもぉ貴方の実力ではベアトリクスさんの足を引っ張る事は目に見えてますよねぇ?」


 アリスが挑戦的な目線でイチカに視線を送る。


「それは……そうだと思います」

「ですよねぇ〜?ベアトリクスさぁんどうせソロ活動を辞めるなら私とパーティを組みませんかぁ?」

「……」


 断る。と即断出来ないのは3年前の負い目のせい。

 そして、誘いを受ける気もないのはイチカとパーティでいたいからだ。

 この場合どう答えるのが正解なのだろうか。

 私が返答の仕方を悩んでいると先にイチカが声を出した。


「私はベアさんとパーティを辞めるつもりはありません。例え足でまといでも」

「迷惑をかける事を認めた上で、ですかぁ?」

「はい。私は昨日ベアさんに一緒にいてくれと言われました。だから私はその言葉を裏切りたくないんです」

「イチカ……」


 やばい、お姉さん泣きそう。

 感涙で咽び泣きそうな私とは対照的にアリスは静かに冷たい気配を帯びていく。


「一緒にいるのは結構ですぅ。でも、弱いことは罪ですよぉ」

「それは」

「弱い冒険者は死ぬ。ちょっと考えればわかる事が分からなかった人は死んで行くんですぅ」


 アリスが言うことは正しい、だが少々極論が過ぎるのではないだろうか。

 正しい導き手がいるのなら、或いは実力不足を補える程の仲間がいるのなら、弱き者が強さを得るまでの猶予は与えられると私は思う。

 だが、私の言うその猶予を与えられる人間が限られているというのも事実だ。

 実力ある者は同じく実力者と手を組み、後進の育成に励むものは何かしらで戦えなくなった者だ。

 私という浮いたコマを後進の育成で使うくらいなら、実力者として成すべきことを果たせ。

 アリスはイチカと話しているはずなのに私がアリスにそう言われているような気がした。

 だが私は。


「すまないなアリス。私の相棒はイチカなんだ。だから君の誘いに乗ることは出来ない。」


 私はそれでもアリスの誘いを断った。

 何故なら私は、別に冒険者としての矜恃に興味が無いからだ。

 冒険者とは所詮は腕っ節自慢がする仕事のひとつだ。

 それにわざわざ意味を見出す事は重にが増えるだけだ。

 それならば私は好きな人と浅瀬でチャプチャプと遊びながらそれなりの敵を倒し続けるだけでいい。

 というか死んだり怪我しても保険が降りる訳でもない冒険者稼業で強力な敵と戦い続けるのは、余りにもギャンブルが過ぎる。

 報酬の効率がいい強敵と年に数回程度戦えばそれでいいのだ。


 「ベアトリクスさん……」


 アリスが私に2度目の拒絶をされて苦しそうな顔をする。

 だが今回の拒絶は前回とは異なり確固たる意志の元拒絶した。

 無理をしない、それが私の3年間一人で戦い続けた結論なのだから。

 しかし、そんな私の後ろ向きな決意とは裏腹に、イチカは闘志に燃えていた。


「アリスさん。昨日ヨンケンジャー?っていうのを倒しに行きたいっていってましたよね?」

「えぇ。四賢者を倒して魔王への道を切り開く。それは私たち冒険者の悲願ですからぁ」


 冒険者と一括りにされても困る。


「でしたら私とベアさんアリスさんの3人でその四賢者に挑戦するのはどうでしょうか!!!」


「「ええ!?」」


 私とアリスが同時に驚きの声を出した。

 イチカさん!?


「ちょっと待てイチカ。目標が高い事はいい事だが、流石に高すぎる目標なんじゃないか?」

「そうですよぉ!それに私はベアトリクスさんの力は欲しいですがイチカさんの微力は求めてませんよぉ!」

「ごめんなさい!分不相応な事はわかっています!けど私は……前に進むしかないんです」

「前に進むのはいいですけどぉ目標は刻んだ方がいいですよぉ」


 何かを思い詰めているイチカとそれを無謀だと切り捨てるアリス。

 私もアリスの意見に同意だ。

 将来的にイチカが強敵に挑むのは構わない。

 だが近い将来の死闘を見据えているアリスに同行するのは生き急ぎすぎだ。

 しかしイチカの目には決意の炎が燃えている。


「何か事情があるのか?」

「私は……異世界から来たんです!」


 異世界……イチカがよく言っているワードだ。

 なんとなく聞き流していたが、やはり彼女にとっては重要なワードらしい。


「異世界?何をいってるんですぅ?」

「ここではない別の世界から来たんです。私は元の世界に戻りたい!でもその方法が分からないんです」

「来た道を戻ればいいのでは?」

「その来た道も分からないんです……」


 その顔は嘘偽りのない悲しみの顔に見える。


「だから私はこの世界の問題を攻略して、元の世界に帰る手がかりを探したいんです!」


 悲しみの表情が決意に染まった。

 その表情を見た私の心が、疼いた。

 この感情は……。

 

「イチカさんがのっぴきならない状況なんだなってことはわかるんですけどぉそれとこれとは話が違いますよねぇ」


 イチカが覚悟を決めても尚、アリスの心は動かせていないようだ。

 決意の表情を浮かべるイチカとは対照的にアリスは冷ややかな、人形のような冷たい顔になっていく。

 

「それこそ地道に足元の問題から解決していくのが最善なんじゃないんですかぁ?」

「……」


 そういうとアリスは昨日の汚れた服を入れた袋を持って立ち上がった。

 

「イチカさんの事はともかくベアトリクスさんが私のパーティに参加してくれるのは大歓迎ですので、それでは」

「あ、ああ」


 コツコツと木の床を踵で鳴らしながらアリスは家から出て行った。

 自らの決意を、力不足と一蹴されたイチカが落ち込んでいないか心配だ。


 「イチカ、あまりアリスや私の言うことを気にするな。君の目標自体を否定したわけではないのだから」

 「そうですね!というか寧ろ私は今闘志に満ちています!」

 

 落ち込むどころか、イチカはやる気満々といった様子で立ち上がった。


 「アリスさんを見返して絶対私を必要って言わせます!その為にベアさんも協力してください!」

 「……ああ!」


 イチカの決意を聞いた時、そしてあの顔を見た時。

 私の心は動いた。

 それは想い人の覚悟を感じた胸の高鳴り。

 そして、ここではない遠くに帰りたいという、君と一緒に居たいと願った私との決別を望んでいるイチカへの僅かな悲しみの感情だった。

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