第4話 酔っ払いのあいてにもコミュ力は必要
ワイトのドロップアイテムを魔法の道具入れに片付け終わり、私たちは街への帰路についた。
日が暮れると少々厄介なモンスターが出現したりもする。
私1人なら走って逃げれば良いのだが、イチカを連れている状況でその様な危ない真似はあまりしたくない。
ツカツカと、行きよりも早足な私にイチカがトテトテと後ろからついてきた。
「すまないイチカ。少し早く歩きすぎたか?」
「問題ないです!なんなら異世界に来てから体力も増えてるっぽいので走って帰っても大丈夫ですよ!」
そう言ってイチカは小走りで私の前に出た。
そしてコケた。
「アバー!!!!」
「イチカー!!!」
イチカに怪我をさせたくなかったが、こればっかりは仕方がないだろう。
イチカに手持ちのポーションを使ってもらう。
「凄いですねポーションって。膝の怪我が一瞬で治りました」
「余裕がある時はちゃんと消毒もするんだぞ」
「破傷風、怖い」
そんな一幕もありながら、なんとか空が真っ暗になる前に街へ帰って来た。
次からは早めの時間に出発しよう。
次……か。
「そうか……私達には次もあるのか……ふふふ」
そうだ。即席パーティと違って私達には次がある。
それななんて素晴らしい事なのだろう。
しかも!私の運命の人と!
しかしイチカにも何かしらの予定があるかもしれない。
私ギルドに到着するまでの間に明日の予定を確認する事にして見た。
「イチカ。明日はどうする?」
「明日……ですか」
「何か予定があるのか?」
イチカは少し困った顔をしていた。
「予定といいますか……そもそも私今日の宿すらなくて……」
「そういえば宿屋の場所すら分からないって言ってたな」
お金もない、宿屋も分からない。今日の戦闘も魔法職なのに魔法を初めて使ったような反応だった。
イチカがちょくちょく言っている異世界というワード。
もしかして彼女は……。
「なあイチカ。君はもしかして……幻獣界から来たのか?」
「げんじゅうかい?」
「いや、君がよく異世界という言葉を使うのでな。もしかしたら君は高位の精霊とかだったりするのではと思ってね」
精霊ならこんなに可愛い事も頷ける。
幻獣界というのは人の理想や空想が具現化した精霊が住まう場所と聞く。
なのでイチカは私の深層心理の妄想から生まれた精霊なのではないだろうか、という推理だ。
しかしイチカは小首を傾げる。
どうやら私の推測は外れていたようだ。
「この世界にはいるんですね。精霊とかって」
「冒険者でも偶に連れている奴がいてな」
「いいな〜精霊使いとか絶対強い奴だ〜」
「強いかどうかは本人の努力次第だと思うが、戦闘で近接の不利を補う獣の精霊や、魔法のサポートをさせる小人のような精霊等色々種類があるらしいな」
魔法を扱う者は接近されると脆い者が多い。
これは当人の力不足という訳ではなく、強力なモンスター相手に斬り結べる程の実力がある者にはそもそも魔法など必要ない。
つまり中途半端な魔法使いよりも特化型が求められる環境的な要因が大きいのである。
そして、その弱点をある程度カバー出来る精霊使いの技能は、魔法職の中でも人気の高い技能であるそうだ。
「というか精霊はいいとして、私今日宿がまだないんです!」
「すまない、話が脱線してしまったな」
「いえいえ!今日の報酬だけで宿ってとれますか?」
「まあ取れない事は無いだろうが……」
クエストクリアの報酬、ワイトの素材の売却。それら全て込みでもおおよそ5000Gくらいだ。
今回受けたクエストは初心者パーティ向けにギルドから直接掲示されている所謂チュートリアルクエストだ。
なので危険な討伐クエストの割には報酬は少なめだ。
今回の私の報酬を全てイチカに譲ったとして、宿屋代と食事代でギリギリくらいか。
それならいっその事……。
「宿がないならうちに来るか?」
下心はないことも無いが、それよりも実利の面で我が家へお誘いしてみた。
我が家と言っても空き家を仮住まいとして借りているだけなのだが。
私は冒険者としては珍しくこの街を拠点としている。なので宿を借りるよりも家そのものを借りた方が金銭的な効率が良かった。
「いいんですか?」
「一人増えたところで問題はないだろう。寧ろそのままいついてくれて構わない」
「それはさすがに悪いですよ」
将来的には一緒に暮らしたいのだが、流石にそれを伝えるのはまだ早いか。
「ベアさん……ありがとうございます。出会ったばかりなのに何から何まで」
「気にするな。長い付き合いになるんだから」
「ベアさんは出会ったばかりの私にどうしてここまで色々してくれるんですか?」
「それは君とえっ」
エッチなことがしたいからです!
バカか!そんなこと口走ったら警戒されてパーティ解散だよ!
「き……君が初めての仲間だからだよ。初めての仲間だから特別扱いしたい。だから私の勝手な自己満足なんだ。私からされる事に君は何も気にしなくていい」
「……ベアさんってこんなに優しいし顔が良いし強いのになんで今まで仲間が出来なかったのか不思議です」
「ハハハ……まあ色々あるよね」
キョドって誘い拒否って孤高キャラのレッテル貼られただけです。
という真実は、純粋に私の事を尊敬しようとしているイチカに対して告げるのは些か心苦しい。
というかイチカの前ではなるべく冒険者の先輩として振舞っているが、いつかボロが出そうで怖い。
こんな事なら最初のナンパキャラで行けば良かったか?
うぇーい!イチカちゃん今日うちに遊びに来ない?
私にそのキャラはもっと無理があるウェーイ。
「まあこれで宿の心配は無いし、明日もクエストを受注していいか?」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「うむ」
とりあえずイチカの不安をひとつ取り除けたようで何よりだ。
そうこうしている間にギルドに到着し、クエスト達成の報告と、モンスターの素材の買取をしてもらう。
報酬はあえて2:8くらいの割合で分配した。
私が全く貰わないとイチカが遠慮するかもしれないので。
私自体は金銭的には特に不自由していない。
ソロ活動のメリットは報酬を独り占め出来ることだ。
私はこの3年間ずっとソロで活動をしていて、B級高難易度クエストも一人でクリアしてきた。
なので今日貰ったお金も、明日のイチカの道具代で使えば実質イチカに報酬を全部渡したという事になるだろう。
ギルドでの手続きを終えた私達は近場の酒場に移動した。
私はお酒を飲まないし、イチカも未成年だから?と飲酒は出来ない旨を伝えてきた。
イチカはどう見ても15歳以上に見えるのだが本当に未成年なのだろうか?
「リンゴのジュース美味しいです!!!」
「おかわりもいいぞ!」
ひと仕事終えた後のご飯は最高だ。
しかも今日は一人じゃない!
誰かとご飯を食べるのなんて田舎にいた時以来だ。
今日1日、最高の日だった。
今日を記念日にしよう
私が王様なら今日を祝日にする。
などと考えていると、後から店に入ってきた客に声をかけられた。
「ベアトリクスさ〜ん?今日は一人じゃないんですね?」
生意気でねっとりとした喋り方だ。
「アリスか……」
彼女はアリス・アルマーニ。私とは同期に当たる人物だ。
アリスは私とは違い固定パーティを組んで冒険者活動をしている。
ランクは私と同じBランクだ。
パーティをちゃんと結成している冒険者ならこの始まりの街にいる意味はあまりないと思うのだが、どうしてこんなところにいるのだろうか。
アリスは私よりも色の強い金色の髪をツインテールにして、人を舐め回すよう目で私を見下していた。
「ベアトリクスさんってぇ仲間とかいらないっていってませんでしたぁ?それなのにぃ〜なんで魔術師なんて連れてるんですかぁ〜?」
「彼女とは今日運命的な出会いをしてね」
「私が誘った時はにベもなく断って来たのにぃ〜」
そう言ってアリスはイチカに目線を送る。
その攻撃的な眼圧にイチカは少し慄いていた。
「どうしてこんな子と!私は断られたのにぃ〜」
「ベアさん……」
イチカが助けを求めて私を見つめてくる。
だが、私も何故アリスがちょっかいを掛けてきたのか分からず困惑していた。
「どうしたんだアリス?」
「どうしたもこうしたもないですよぉ〜!!!」
そういいながらアリスは私の隣の椅子を引っ張ってドカッと座った。
なにか悩みでもあるのだろうか。
「とりあえずなんか飲むか?」
「エールください!!!3人分!!!!」
「私達も飲むのか!?」
「あたりまえですよぉ〜!!!!」
アリスは酒も入っていないのに既に泣き出しそうな雰囲気だ。
「あの!私未成年で……!」
「関係ないですぅ!荒くれ者の冒険者の肩書きがあれば5歳でも飲酒可能ですぅ!!!」
「荒くれの実績は私にはちょっと解除厳しいかも……」
なんとかイチカはお酒を断ろうとしていたが、その頑張りも虚しくウェイターさんがエールを3つ運んできた。
「今日は私ぃのおごりだからぁ!!!カンパーイ!!!!」
アリスがジョッキを勢いよく傾けてエールをぐびぐびと飲み干して行く。
出された手前私も目の前のエールに口をつける。
「イチカ、無理に飲む必要はないからな」
「いえ……出されたからには……」
そういうとイチカもグイッとエールを口に入れた。
「……」
「大丈夫かイチカ?」
「だいじょ〜ぶです〜」
イチカの顔が真っ赤だ。
アルハラはやはり良くない文化だ!!!!
「ベアトリクスさ〜ん!!!わたしのはなしきいてくださいよぉ〜!」
イチカの介抱をしようと立ち上がった私の腕をアリスは掴み、そして無理やり座らされた。
アリスは華奢な女の子の見た目をしているが、実際は重厚な鎧を身に纏うタンクの役割を担っているそうだ。
なので純粋なパワーは私よりも高い。
というか本当に力つよ!!!
徐々に青黒くなっていく私の腕を掴んだままアリスは自身の身の上話を始めた。
「わたしたちぃB級まで上がってぇ……もうすぐA級になれるとこまで来たんですよぉ〜!なのに、みんな私の目標を聞いたらパーティから抜けるって言い始めてぇ……グスグス」
「わかったわかったから1回手を離せ!!!」
掴まれてない方の腕でアリスの手にチョップを入れるとようやくアリスは手を離してくれた。
私の腕に手の形で後が残っている……。
ポーションをかけようか真剣に悩んでいる私を他所にアリスは話を続けた。
「私は……私の目的は四賢者の討伐なんですぅ!なのにそんな報酬も貰えないような化け物と戦いたがるアホとはパーティをくめないってぇ!!!!」
アリスの顔は既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
その様子をぼーっとした表情で見ていたイチカが口を開いた。
「ヨンケンジャーってなんですか?」
「四賢者というのは魔王城を守る結界を守護する番人達だよ。そいつらを倒して魔王城の結界を解かないと我々人類は魔王を倒しにいけないんだ」
「そんなストーリーの根幹の部分までよくある感じなんですねぇ〜」
「イチカ……君はどんな国から来たんだ……」
イチカはふわふわと話を聞いているのか聞いていないのかよく分からない顔でアリスをみた。
「それでアリスちゃんは仲間を探しに来たんですか?」
「違いますぅ!!!Bランク以上のパーティが解散した時は首都にあるギルド本部かそれに類する規模のギルドに申請を出さなくちゃいけないのぉ〜。それで渋々戻ってきたらベアトリクスさんが!!!私の推しが勝手にパーティ組んでてぇ〜!!!!ベアトリクスさんは孤高で麗しい女剣士だったのに〜あんたのせいで嫌らしい腑抜けた顔になっててぇ!!!!うわあああああああん!!!!!」
ああもうしっちゃかめっちゃかだ。
というか嫌らしい顔ってなんだ。
いや表情に出てないと思ってたのは私の思い込みだったか?
机に顔を突っ伏して泣き出したアリスにイチカが近づいた。
「分かりますよ。急に1人になるのは辛いですよね。私もベアさんが居なかったらと思うと……」
「それは慰めじゃなくて惚気ですぅ!!!!!」
さらにヒートアップした。
周りの視線が痛い。
「なあアリス、一旦落ち着こう!周りの人にも迷惑がかかるから!な?」
「なんでベアトリクスさんは1口飲んだだけで満足してるんですかぁ〜!!!」
「そうですよ!!!私だって飲んでるんですから!!!」
「いやイチカには無理に飲むなと止めたよな?というか君までアリス側につくのか」
「だって!!!目の前で一人の女の子が泣いてたらほって置けないですよ!!!!」
「イチカちゃぁ〜ん!!!あんだいいごだねえぇえ!!!」
「アリスさんも辛かったですよね!!!!」
「さっきはあんたのせいとがヒドイごどいっでごべんねえええ!!!!!」
そういいながら2人は抱き合っておいおい泣き始めた。
アリスと抱き合ってイチカの背骨は大丈夫かな?
と自身の腕の痣を見ながら私は現実逃避していた。




