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ぼっち冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた  作者: 神子さん
第二章 ダンジョン攻略編

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第27話 背中を流させてくれないか?

 私達の宿泊している宿にもシャワー室はある。

 私は身体の汚れが残っていると気分が悪くて落ち着かないタイプだし、イチカも相当綺麗好きなのでよくシャワーを利用している。

 ここ数十年で上下水道周りの整備が進み王国各地の宿や民家には大体お風呂が設置されるようになったのはありがたい話である。

 勿論魔王との戦争が続いている北側はその限りではないそうだが。


 しかし大浴場というものに足を運んだのはリーデルに居た時以来であり、私の気分は高揚していた。


 脱衣室で服を脱いで、私は大浴場に足を踏み入れた。


「おお……」


 広い湯舟に水風呂やサウナまであるそれは、もはや銭湯のようであった。

 アメジスト家のお風呂なので、外装と同じくゴテゴテと派手な飾りつけがされていてちょっと落ち着かないというのはマイナスポイントだが、それすら気にならないくらい私はテンションが上がっていた。


「ベアさん、大浴場ではまず身体を洗うのがマナーですよ」


 シャツとズボンのみの私と違い着脱に時間のかかる衣装を着ていたイチカが遅れて入ってきた。


 その胸は豊満であった。

 いや、今までイチカの胸を見たことは何度かある。

 イチカと出会ってもうすぐ2ヶ月。この期間私達はほぼずっと一緒に行動をしていた。

 同じ部屋で着替えをするし、シャワーから出てくる所を見たこともある。

 だが大浴場の湯けむりが、生の迫力をより引き立てている。

 胸を抑える腕と抑えられている胸の間で苦しそうにしているタオル君が、今はとても羨ましく感じた。


「…………」

「ベアさん……あまり見られると恥ずかしいのですが……」


 衝動的にイチカの腕を取っ払って押し倒したくなる欲求を何とか抑えて、私は浴室の隅に作られたシャワーへと向かった。

 イチカは今日健康的でさわやかな汗を流していたが、その裏で私も色々と冷や汗などの不健康な汗を滝のように流していたのでシャワーのお湯が心地いい。

 シャワーで身体を濡らして、ボディソープで身体を洗おうと手を伸ばすと、同じタイミングで身体を洗おうとしたイチカと手がぶつかった。


「あっ……」


 すぐ隣に全裸のイチカがいるという状況を更に意識してしまって、私は気が動転してしまった。


「イチカちゃん!お姉ちゃんが身体洗ってあげよっか!」

「ベアさんがまたキャラ崩壊されておられる……」


 しかし1度言葉にしてしまったらもう欲求は止められなかった。

 私は立ち上がってイチカの背後に回る。

 長い髪を結んでうなじから臀部まで無防備にさらけ出されたイチカの背中が眼前に広がっていた。


「背中を流すくらいはいいよな?」

「ふふ……お願いします!」


 姿見に映るイチカが鏡越しに私へ微笑んだ。


 スポンジにボディソープをつけて、イチカの背中にスポンジを当てる。


「んっ」


 イチカがこそばゆそうな声を上げる。

 その声で私の意識が飛びそうになったが、奥歯で舌を噛んでスタンを回避する。

 多少の怪我ならポーションでなんとかなる。

 口の中に血の味と、今もそのポーション代を稼ぐため働いているミカへの申し訳なさを感じながら私はスポンジでイチカの背中を撫でる。


「んん……ふ……」


 私の理性を破壊しようとするイチカの声に耐える。

 いや、そもそも耐える必要はあるのか……?

 うっかりこぼれてしまった情けないものではあるが、私はイチカへの告白を済ませている。

 その上で身体を許しているということは同意と言っても過言ではないのでは?

 ……よし、やろう。


「んぅ……ふふふ。信頼している人に背中を洗って貰えるのっていいですね……」

「うっ……!」


 イチカの信頼という言葉を聞いて私の意識が浮上する。

 私は今、イチカの信頼を裏切ろうとした……?

 己の欲望を正当化して……。


「は……はは……しんらい、いいよなー」

「?」


 私は心ここにあらずといった状態でイチカの背中を流していた。




「……もういいぞーイチカー」

「ありがとうございます。でもどうして急にそんな棒読みになったんですか?」

「ちょっと舌を噛んでそれが痛くてな」

「それは確かに痛そうですね……」

 

 私はイチカにまた嘘をついた。

 私は悪い女だ……。

 ……やばい。舌を噛んだことを意識したら先程よりも痛い気がしてきた。


「じゃあ次は私の番ですね!」

「……え?」


 イチカは上機嫌な様子でそう言った。


 私の番……?


「というと?」

「決まってるじゃないですか!私もベアさんの背中を流しますよ!」

 

 イチカが何を当たり前なことをと言わんばかりの様子で私が使用していたバスチェアを指さして座るように指示をする。


「わ……わたしはいいかな」

「恥ずかしがらなくていいですよ!私はベアさんにしてもらって嬉しかったことをお返ししたいだけなので!」


 善意の塊のようなイチカの言葉は私には、やったことのツケは必ず回ってくると言っているように聞こえてしまった。


「じゃあ失礼しますね……うわ!ベアさんの背中傷跡まみれだ」

「一応私も冒険者だからな」


 最後に自傷以外で怪我をしたのはダンジョンで盗賊の毒矢が背中に刺さったのが最後ではあるが、冒険者になりたての頃はよく怪我をしていた。

 ひとりで敵の群れに飛び込んでしまって命からがら逃げて帰ったこともあるし、ドラゴンとのレイドバトルでブレスが背中を掠って背中をやけどしたこともある。

 大抵の怪我はポーションを掛けておけば治るが、酷い怪我だとやはり跡は残ってしまう。

 だからイチカの綺麗な背中は、私が守らなくては。


 などといつも通りイチカを大切にしたいという決意を心の中で表明している私の背中に、イチカのスポンジが当たる。


「んぉ……」


 確かにこれはこそばゆい。

 だが悪い気分ではない。

 イチカが丁寧に背中を洗ってくれているのを背中で感じて、なんだか心地がいい。


「かゆいところはないですか?」

「大丈夫だよ」


 心地よさと多幸感でふわふわとしながらスポンジの動きを感じている。

 イチカもこんな気持ちになってくれていたのなら、スケベな私の奇行もたまには褒めてやるべきかもしれん。



 「ふぅ~」

 

 身体と髪を洗い終えた私達は、大浴場でまったりとくつろいでいた。

 手足が伸ばせるお風呂というのは素晴らしい。

 リーデルにある私の家にもお風呂はあるがあまり広くないので足を伸ばすことは出来ない。

 そして大衆向けの大浴場は多くの人が来客しているので人が苦手な私は落ち着いてくつろぎにくい。


「あぁ~極楽極楽~」


 隣でイチカも浴槽の壁に身体を預けてくつろいでいた……がなんか仕草が妙におっさんくさい気がする。


「疲れた身体にお湯が染みますねえ~」

「そうだな」


 何か入浴剤のようなものが入っているようで、いい香りがする。

 その香りで更にリラックスして心地が良い。


「……ベアさん」

「なんだ?」

「ベアさんってどうしてあんなに強いんですか?」


 隣でくつろいでいたイチカの視線を感じる。

 私は先程のスケベ心暴走事件の負い目でイチカの方に視線を向けられないので、正面を向いたままイチカの質問に答えた。


「必要だったから……かな。ボッチだった私が生き残るには、そして必要とされるには」

「それだけで、あんなに強くなれるんですか?」

「他の冒険者の事はあまり詳しく知らないから、みんなこんなものだと思うがな」


 先程サナンの精霊『フォグ』が見せた私の動きを見て、エーデルとサナンは驚いていたが、彼らは引退した冒険者と素性の知れない庭師だ。

 Aランク以降のバケモノ達は皆私と同じくらい動けると思っているので、Aランクの冒険者に会ったことがないだけという可能性の方が高いとみている。

 Aランクの冒険者が戦うのは国から特別に依頼された恐ろしい怪物や、魔王の手先であるネームド魔族達だ。

 アリスの目標である『四賢者』の討伐はそんなAランク以降の冒険者が挑んで、返り討ちにあっている。

 そんな高い目標を掲げるアリスに認められる為、成長することを選んだイチカが私程度の実力を最上位だと勘違いしている状況はあまり良くない。


「……うん。私程度の実力者は恐らく一定数いる。だからイチカも修行を積んでいけばいずれ私を超えていけるさ」


 イチカのよく言うレベルというものが関係しているのかは分からないが、私は自身の成長の限界を感じてから久しい。

 そしてイチカはまだまだ成長の余地を残しているのだから。


「……でも私はこの2週間、必死に練習した無詠唱魔法の訓練で何も成果を出せませんでした。結局黒いベアさんに攻撃を当てることもできなかった。ベアさんにお金を出してもらって、エーデルさんとサナンさんの時間を使わせて……」

「エーデルも言っていただろ?イチカなら時間を掛ければすぐに身につく技術だって。だから気にするな」

「私の力は、この世界に来た時与えられた道具とベアさんと出会えた幸運で身に着けただけのまがい物ばかりで、自身の力で何も手に入れていない現状にちょっと参ってます……」


 イチカは伸ばしていた足を胸まで近づけて膝を抱えながら弱音を漏らした。

 一緒に居ることが当たり前になっていて忘れかけていたが、イチカは2ヶ月前に異世界からこちらに来た異世界人だ。

 私と出会ったことで冒険者としての道を数段飛ばしで歩んできた。

 イチカは自ら望んで最速で強くなる道を選んだが、今回の無詠唱魔法習得訓練が期限内に達成できなかったことで自信が揺らいでいるようだ。

 そしてその自信の揺らぎが、今まで身に着けてきた自身の力に疑問を感じるほど膨れている。


「自力で何も得ていないというわけではないだろ?イチカが使う剣の魔法……オリジナルの魔法は魔術というのだったか?それがあるじゃないか」

「そうです……ね」


 エーデルはオリジナルスペルの開発は基礎を覚えた上級者が使う高等技術と言っていた。

 それを自ら編み出したイチカは才能があるとも言っていた。

 でも、イチカにとってそれは励ましにならないようだ。


 こんな時、私はどう声を掛けてやればいいのだろうか。

 友ならば背中を蹴飛ばせばいい。

 仲間なら肩を並べて共に進めばいい。

 だが私はイチカに求めているのは……恋人関係だ。


 私は友や仲間というものは、数が少ないだけでイチカだけしかいないというわけではない。

 冒険者仲間は今までいなかったが、地元に居た頃は共に冒険者を目指した仲間とも呼べる友人はいた。

 その括りに今はミカも入るだろう。

 そしてミカが悩んでたら一緒に肩を組むことも、背中を蹴っ飛ばして応援することもできると思う。

 だが、恋人は……残念ながら今までいなかった。

 他人に対して好意よりも煩わしさと憧れの感情を向けることが多かった私にとって、人を恋するという感情は初めてのものだ。


 だから……どうしていいかわからない。

 前の見えない暗闇の道を、手探りで進んでいるようだ。


「……」

「ごめんなさい!湿っぽい雰囲気にしてしまいましたね!」


 悩むイチカに対して何も言えなくなってしまった私を見て、イチカはそういった。

 きっとイチカは私を困らせてしまったと思ったのだろう。

 でも違うんだ。

 それは私の力不足なんだ。


「まだミカさんとの約束の日までは時間があります!それまでになんとかしなくっちゃ!」


 自分に言い聞かせるようにそう言ったイチカに、私は何も声を掛けてやることが出来なかった。

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