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ぼっち冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた  作者: 神子さん
第二章 ダンジョン攻略編

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第26話 イチカvs黒ベアトリクス

 イチカと黒いベアトリクス(フォグ)の戦闘は静かな立ち上がりだった。

 黒いベアトリクスはイチカの様子を伺っているのか、攻撃を仕掛けてくる気配はない。

 そちらが動かないのならと、イチカが先制攻撃を仕掛けた。


「ファイア!」


 イチカの放った通常攻撃魔法。

 だがそれが、黒いベアトリクスに届くことはなかった。

 イチカが魔法の名前を読み上げる僅かな隙に黒いベアトリクスがイチカに急接近し、イチカの喉元に剣の刃を突き立てていた。


 刃の先が喉を貫通しておりかなりショッキングな絵面だが、事前に説明されていた通り精霊『フォグ・ア・バータ』の攻撃でイチカが怪我をすることはなかった。

 だが……。


 「……」

 「ベアトリクス嬢……」


 アメジスト家の地下室に張り巡らされた結界の安全地帯でイチカの修行を一緒に見守っていたエーデルとサナンが私を見ていた。


「これ……ベアトリクス嬢が強すぎて修行にならないんじゃ……?」

「……無詠唱魔法で不意打ちまでしてやっと勝負になった相手によーいドンは無茶だったかしら」


 エーデルが舌をペロッと出しながら自身の頭をこつんと叩いた。


「エーデル……」


 私はイチカの修行を台無しにしてしまうかもしれない罪悪感で言葉の続きが出てこない。

 


「最近までうちで雇っていた剣士のジークはカウンタータイプの剣士だったからこの方法でも勝負になっていたのかもしれないなぁ」


 確かに私の戦闘スタイルは待ちの戦術ではなく攻めや隠密タイプの戦術が多い。

 そして防御方面も攻撃を受ける方向ではなく攻撃の回避がメインだ。

 なので魔術師の練習相手には不向きなパラメータをしていると言われたら、その通りなのである。


「どうにかならないのか……?」


 私はすがるような目でエーデルとサナンに助けを求めた。

 折角イチカの修行の場を整えてもらったのに、私のせいで台無しになったのでは申し訳が立たない。


「フォーさん。こっちおいで」


 サナンがちょいちょいと手招きをすると、黒いベアトリクスがサナンのもとへ駆け寄っていった。

 サナンは普段『フォグ』の事をフォーさんと呼んでいるようだ。


「……うんうんえらいえらい。……だから、……で頼む」


 結界の中でサナンと黒いベアトリクスが何かを話した後、サナンが黒ベアトリクスを撫でていた。

 そしてそれを嬉しそうに受け入れている黒いベアトリクスを見て私はぞわりと怖気が走った。


「あの……その姿でそんな姿を見せるのはよしてくれないか……」

「いや、それは本当にごめん。ただフォーさんに頼み事をするときは優しく扱わないということを聞いてくれないんだよ」


 サナンが心の底から申し訳なさそうにしているので、私もこれ以上言及できなかった。

 そして私の頼みを聞いて行動してくれたサナンに対する態度ではなかったと、自らを戒める。


「フォーさんにちょっと手加減してくれないか頼んでみたら、攻撃をせずに回避に専念してくれるって約束してくれたよ」

「それなら動く的だと思えば修行になるかしら……?」


 エーデル自身も今回の件はイレギュラーだったようで、いつものように自信をもって断言することは出来ないようだ。


「イチカもそれでいいかしら?」


 エーデルがイチカに確認を求める。

 そして私も恐る恐るイチカの様子を確認した。

 私のせいでイチカが傷ついていたらどうしよう……。


 しかし私の心配とは裏腹に、イチカは闘志に満ちた表情を浮かべていた。


「それでお願いします!絶対に一撃当てます!!!」


 魔術師の杖の先端を黒いベアトリクスに向けてイチカは高らかにそう宣言した。


 経験不足を補う為の模擬戦のはずが、いつの間にかイチカvs黒ベアトリクスの鬼ごっこに目的が変わっていた。





 それから2時間、イチカは黒いベアトリクスを追い回していた。

 時間を重ねるごとに魔法の精度が上がっていっていることが素人目にもわかる。

 それが長時間の戦闘訓練で集中力が研ぎ澄まされているからなのか、それとも今日まで読み込んできた魔術書の効果なのかは私にはわからないが。

 確かにイチカは成長している。

 しかしそれでも黒いベアトリクスに攻撃を当てることは出来なかった。


「ベアトリクス嬢の動き……凄いを通り越して気持ち悪いですね……」

「サナンさん。それは言い方が悪くないか?」

「でも実際そうよ。何あの動き」


 黒いベアトリクスは、普段私が隠匿している技術も使ってイチカを翻弄していた。

 残像が残っているように見える足運び、そしてそれを重ねた疑似的な分身。

 空中でもう一度ジャンプするスキル。

 戦闘中に隠密スキルでほぼ完全に姿を消す技術。

 表面上わかりにくい細やかな工夫もある。

 そして恐らく私の危機感知スキルも常備されているのだろう。


「ベアトリクスは私との勝負で手を抜いていたのね」

「手を抜いていたというわけではないのだが……」


 確かに黒いベアトリクスが使っている技術の中であの時の勝負で使用していたスキルは危機感知だけだ。

 だが私がエーデルの実力を測るという名目での勝負で、こちらがいきなり全力を押し付けるのは趣旨に反すると思っていた。

 そしてあの勝負で私は全力ではなかったにしろエーデルの力量を見定めて、イチカを預けることに納得したのだ。

 というか戦術ではエーデルに負けていた。


「ベアトリクス嬢もヤバイけど、イチカ嬢も相当ですね。もう2時間は戦闘してますよ?」

「イチカはこの前魔力を自力で回復するスキルを身に着けたといっていたな」

「それは私も聞いたわ。冒険者時代の私が聞いたら嫉妬で頭がおかしくなりそうな神スキルよね」


 前回のダンジョン攻略の際に会得したスキル『集中』。

 意識を集中させることで魔力を回復させるというスキルらしいのだが、イチカはあの後そのスキルを小刻みに発動して下級魔法をほぼ無限に打てるようになったと言っていた。


「エーテル代が掛からないっていうのは本当に羨ましいわ!」


 私も同伴した魔術教室初日にイチカのスキルを聞いたときに金欠令嬢はそう言っていた。


「ただしっかりと栄養と休眠を取って魔力を回復しないといずれ身体に不調を来たすから、乱用は止めた方がよいかもしれないね」

「私も普段はそう言い聞かせているのだが……」


 だが今のイチカはとても楽しそうな表情で黒いベアトリクスと戦っている。

 それを無理やり中断してお説教をするような野暮なことは私にはできない……。


 そして自体が好転しないまま更に一時間が経過した。

 最初に脱落したのは、サナンだった。


「すみません……もうそろそろ体力が限界です」


 幻獣界から精霊を召喚し戦わせ続ける。

 精霊がこちらの世界で活動するためのエネルギーを肩代わりしている幻獣使いにとってそれはかなり過酷なことらしく、サナンは相当疲弊していた。


「……ここまでね。イチカ!終了よ!」


 エーデルが使用人に指示を出した時と同じように手を叩き終了の宣言をした。


「『エレキサークル』!」


 終了を宣告されたイチカは、エーデルの声が聞こえていないようで戦闘を続行していた。


 エレキサークルは術者の周りに電撃を放出する範囲攻撃魔法である。

 直前までの攻防で何とか黒ベアトリクスを結界の壁際まで追い詰め、逃げ場を奪った状態で範囲攻撃の発動に成功する。


 しかしエレキサークルのような範囲攻撃は魔力の密度が低く、黒いベアトリクスの持つ剣の一振りで簡単に振り払われてしまった。


 『フォグ』は物理的に人間に干渉する手段を持たない精霊だが、魔力に干渉する力に関しては人間よりも優れている。

 なのでベアトリクス本人が剣のみで打ち消すことが難しいような魔法も、黒いベアトリクスは弾ける。

 こと魔法を使った鬼ごっこという面で見れば本体である私よりも厄介な相手であった。


 最後のチャンスが空振りに終わり、イチカがぱたりと尻餅をついた。


「ダメだったか~!」


 肩で息をしているイチカは汗だくで苦しいのか、シャツを第二ボタンまで外してパタパタと手で風を送り込もうとしている。


 普段ならその姿を見てエッチだ……と思いながらイチカを観察しているであろう私だが、今日はエーデルとサナンの目もあるので流石に理性が働いた。


「イチカ、暑いのはわかるが男性の目があることを忘れるな」

「あっ、お見苦しいところを見せてすみません」


 当のサナンはイチカではなく黒いベアトリクス、フォーさんとまた会話をしている。

 黒いベアトリクスの嬉しそうな表情を見ると私の背筋に寒気が走るので、私はサナン達から目を逸らした。


「……本物のベアさんの甘え方はもう少し湿度が高いので性格まではコピー出来ているというわけではないようですね」


 イチカはサナンに甘える黒いベアトリクスを見ながらそう考察していた。

 エーデルとはこれからも付き合いが続くだろうし、『フォグ』との再戦の機会も恐らくあるとは思う。

 だがその考察を聞かされる私は、少し居心地が悪かった。



「じゃあこれにてイチカの授業は全日程が終了ね!」


 イチカの呼吸も落ち着き、サナンが『フォグ』を幻獣界に送り返したところでエーデルが宣言した。


「本当は無詠唱魔法を完全に会得するところまで面倒を見てあげたかったけど、今の調子で魔術書の理解と魔法そのものの理解を深めていけばいずれ無詠唱魔法が使えるようになるはずよ!」

「はい!」


 イチカとエーデルが握手を交わした。

 エーデルのその目には涙と……。


「……イチカ、ちょっと汗が酷いわね……。夜ご飯も食べてから帰って欲しいかそれまでお風呂に入ってきたらどうかしら?」


 エーデルによる汗の臭いの指摘で、イチカの顔が真っ赤になった。

 私はイチカの汗の臭いも好きなので特に気にはならい……いやちょっとムラっと来るのでお風呂には入ってもらおう。


「うちのお風呂は広いからベアトリクスも一緒に入ったらいいわ!」

「ええ!?」


 性欲と理性の間で板挟みになっていた私に、エーデルは恐ろしい提案をしてきた……。

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