第21話 強い人達
『エーデル・アメジストの魔術師育成教室』と書かれた看板の前に、エーデルが土の魔法で机と椅子を生成し、私達はそこに着席した。
「これから授業を始めます!私のことはエーデル師匠と呼ぶように」
「はい!師匠!」
いつの間にかかけていた伊達眼鏡をクイクイさせながらドヤ顔をしているエーデル師匠の授業が始まった。
「まずは、イチカの魔法が見てみたいわ!何か適当な魔法を使ってみて!」
「わかりました!『浮遊する魔法の剣』!」
イチカが得意魔法である剣の魔法を放った。
「あーそれは魔術ね」
「違いがあるんですか?」
「魔術書に載っている基本的な術が魔法で、術者オリジナルスペルは魔術に分類わけされるわね」
「魔力を使う攻撃なのは同じなのに分類分けが必要なんですか?」
「そうね、基礎と応用くらいの差だから、魔術師以外は混合していても構わないけど魔術師はしっかり分類分けをしておいた方がいいわね」
「でも……私魔術書を読んだことがないからどんな魔法があるのかわからないかもです」
申し訳なさそうにそういうイチカにエーデルは大袈裟に驚いていた。
「魔術書を読まずにオリジナルスペルを作ったの!?」
「イメージを魔力に乗せるだけだったので」
イチカの返事にエーデルは首を傾げていた。
「イチカは天才型なのかしら。初級魔法とかは使えないの?ファイアとか」
「それなら使えます!」
確か私とイチカが最初に出会った際受注したクエストの敵、『ワイト』を倒す際に使用していた魔法だ。
「いきます!ファイア!」
私との連携の癖で、一度いきますと言ってしまうイチカが可愛かったが、放たれた魔法の炎はあの日と比べたらより強力なものへと成長しているようだった。
「ふ~ん。イチカから感じる魔力量にしては弱そうな炎だけど、それでもちゃんと形にはなっているわね」
「あ~。私はスキルでほぼ常時魔法攻撃力が半減しているんです」
イチカのスキル『仲間のピンチ時に魔法攻撃力120%上昇、それ以外は常時魔法攻撃力マイナス50%』の説明をする。
「なにそれ、ほぼ呪いじゃない」
先日のダンジョン攻略ではこのスキルのお陰でイチカの命が繋がったらしいので完全に呪いと言い切るのは難しいところだが、普段は邪魔なことには変わりない。
「こんなに魔術師適正の高そうな子なのに可哀想ね」
「そうだな……」
エーデルは感情豊かに喋るので、思わず私も同意してしまった。
「でも心配いらないわ!私の講義を受けたらちょっと攻撃力が低いくらいのビハインドは取り戻せるから!」
エーデルは胸を張りながら自信満々にそう言った。
エーデルの衣装はイチカと似ているが、上着が装飾の多いシャツタイプのイチカと違ってオフショルダーで肌面積が少し多いタイプの服なので、あまり胸を張られると目の置き場所に困る。
「といっても、イチカがまずやることは魔術書を読み込むところからね」
そういうと、エーデルはインベントリから大量の本を取り出した。
「これは下級の基礎魔法から中級までの属性魔法の内容が記された魔術書よ。イチカにはとりあえずこれを全部読んでもらうわ!」
「これ全部ですか!?」
下級魔法の魔術書はあまり厚みがないのですぐに読み終えられそうだが、中級魔法の方はそこそこの厚みがあり時間が掛かりそうだ。
「心配しなくていいわ。中級の内容の半分は下級の内容の応用みたいなことが掛かれているだけで流し読みできるから、重要な場所に後で付箋をつけておくわね!」
そういうとエーデルは恐らく炎魔法の魔術書をイチカに手渡した。
「イチカに足りないのは魔法のイメージ力よ!身体を流れる魔力がどのようにして属性を帯び、大気中の魔力と交わって魔法となるのか。それを理解すれば8割方無詠唱魔法の習得に近づくわ!」
「確かに、私はレベルアップで魔法を覚えていたから魔力の使い方をよくわかっていませんでした」
イチカがペラペラと魔術書のページをめくりながらエーデルの言葉に頷いていた。
「だが、基本の魔法を覚えても最近のイチカの戦闘スタイルは剣の魔法がメインだからあまり戦闘にはいかせないんじゃないか?」
ちゃちゃを入れるわけではないが、単純に普段使いしている魔法にその技術が流用できるのか気になったので私はエーデルに質問してみた。
「関係あるわよ。オリジナルスペルは基礎魔法の延長線上にあるものだから、基礎魔法が無詠唱で使えるようになれば肌に合っているオリジナルスペルはもっと簡単に無詠唱で使用できるようになるはずよ」
「ふむ、講義を邪魔して悪かったな」
「気にしなくていいわ!私は教えるのが好きなのよ!だから冒険者を辞めてこの仕事を始めたんだから」
「君は元冒険者だったか」
剣士相手の戦闘になれているので、王国騎士団の魔術師をしていたのだと思っていた。
だが冒険者も人間と戦う事になるクエストも稀にある。
盗賊の討伐や、昨日受注した街道の巡回も人間同士のトラブルがあった場合、時には武力による制圧をする機会もあるだろう。
「アメジスト家は代々魔道具作製の名家でね、私も期待されて育ったんだけど私には魔道具作成のセンスがなかったの」
有名な魔術師の孫として産まれて、周りの期待に応えられなかったというのは辛い記憶だろう。
「だから私は実家の家業に見切りをつけてサクっと冒険者になったのよ!でも冒険者になって、若い魔術師達が知識もないまま死んでいくのが耐えらえなくて……それで始めたのがこの魔術師育成教室ってわけ!」
正直な話、私は素直に関心していた。
戦闘技術の面ではエーデルの評価を改めていた私だが、当の本人に関しての印象は彼女の自己紹介通り金持ちのドラ娘だった。
なので想像上に地の足の着いた理由でこの仕事をしているという事実に関心しつつ、代金を値切ったのは少し申し訳なかったかなという気持ちも湧いてくる。
「魔術師の育成をするなら魔法学校とかに就職はしないんですか?」
「それも考えたけど、それよりもこの街で冒険者を夢見る子供達を助けることが、家業から逃げた私の取るべき責任に感じたのよ」
家業から逃げた、か。
エーデルもまた何かの負い目を感じて、それを糧にして生きている。
ミカだって亡くなった仲間への責任から逃げなかったし、アリスも仲間から見放されても自身の目的から逃げなかった。
イチカと出会ってから私が関わる人間はみんな逃げない強さを持っている。
そんな強い人達の中で、ただ漠然と生きている私は、このままでいいのだろうか。
イチカのやりたい事を応援して、それだけで満足していて、それでいいのだろうか。
今の私は、イチカの隣に立つ事が出来る人間何だろうか……。
進んでいく彼女たちの背中を、私ひとりで見送っているような。
ソロ冒険者だったころのような不安感を、私は感じていた。
「ベアさんごめんなさい、何か甘い物を買ってきてくれませんか」
イチカが魔術書と睨めっこをしていて、わからないところをエーデルが教えるという授業風景を見ながらぼーっとしていた私は、イチカに声を掛けられて現実に戻ってくる。
「疲れたか?ちょっと待ってろ」
「この広場には確か移動販売をしている人がいたはずよ!」
私は頷いて、移動販売の出店を探しに向かった。
逃げずに戦っている彼女たちの姿は、目的のない私には眩しすぎて、逃げるように私はあの場所から離れていった。




