第20話 剣vs魔法
翌日、私とイチカはメタスギア図書館近くの広場にやってきた。
ここはダンジョンがある国境の山へ向かう街の出口近くにある場所で、道中坂が多くて少し歩くのが大変だった。
えっちらおっちらと歩きながら広場に入ると、『エーデル・アメジストの魔術師育成教室』と掛かれた看板を背に立つエーデルの姿が見えた。
「遅かったわね!待ちくたびれたわ!」
「悪いな」
「宮本武蔵も決闘の時わざと遅刻してきたらしいし今日のところは許してください!」
イチカが知らない偉人のエピソードで言い訳を始めたが、到着が遅れたのはイチカの歩くペースに合わせていたからなので少し責任を感じていたのかもしれない。
「周りに被害が出ないように結界を貼るから、ベアトリクスはもう少し近くまで来なさい」
「魔術も結界を貼れるんですか?」
言われた通りに私がエーデルに近づこうとすると、イチカが結界という単語に反応してエーデルに質問した。
「できるわ。イチカの友達は聖職者と言っていたわね。確かに結界とか回復とかは基本的には奇跡の方が得意だけど、自分で色々細かい工夫を入れられる分魔術の方が自由度は高いわ。その分難易度も高いけどね!」
そういうとエーデルが高らかに笑い始めた。
「そんな高等技術を扱えるわたくしに弟子入りしたくなってきたのではないですこと?」
「急にお嬢様口調になりましたね」
イチカが冷静にツッコミを入れている。
「なんでもいいがさっさと終わらせて仕事に戻らせてもらう」
私は話の流れを断ち切り、事前に準備してきた木剣を構えた。
距離感的には私の間合いだし、スタートの合図で突っ込めば勝負はすぐにつくだろう。
「え?そんなおもちゃで大丈夫かしら?」
「刃の付いた剣じゃ危ないだろ?」
「……まあいいけど、手加減はしないわよ!」
エーデルはそういうと、炎の魔法を、詠唱なしで放った。
「うわっ!」
ほぼ不意打ちの炎に反応が遅れた私はステップでギリギリ回避する。
しかし回避した先にも炎を飛ばしており、私はその攻撃を回避するので精一杯だった。
剣で弾ければ反撃の隙が生まれるが、木剣だと技術だけでは炎を弾くのは難しい。
そもそもエーデルは、私の木剣を見て炎の攻撃を選んだのかもしれない。
私が攻撃を回避し、体勢を整えようとすると、地面が突如隆起し、私はバランスを崩してしまった。
前のめりに倒れた私の視線の先には地面から飛び出した土の槍が見え、前方からは炎の弾が、そして頭上からは氷の冷気を感じた。
これは無詠唱魔法の3方向攻撃だ。
「勝ったわ!」
エーデルが高らかにそう叫んだ瞬間、私はエーデルに急接近して頭にかぶっている魔術帽を木剣で吹き飛ばした。
「……私の勝ちでいいか?」
何が起きたかわからないエーデルがぽかんとした顔で私を見ていた。
「あの状態からどうやって?」
「地面から生えてきた土の槍を拳で叩き壊して、折れた支柱を足場にして突っ込んだんだ」
倒れた方向が前方向で助かった。
仰向けに倒れていたら今頃私はエーデルの魔法を喰らっていただろう。
一応危機感知のスキルのお陰である程度の炎の場所はわかっていたが、それでもあの勢いで突っ込んで当たらなかったのは運がいい。
「今回は私の運がよかったよ。君を侮っていてすまなかった」
私は勝者の余裕たっぷりといった感じでエーデルに謝罪した。
「くやしい~!!!」
エーデルは私の謝罪(笑)を受けて地団太を踏む。
「あの間合いで不意打ちまでしたのに負けるなんて恥ずかしいわ!!!」
「あのくらいの距離は剣士の間合いじゃないか?」
私達の間には精々10数メートルくらいの距離しかなかった。
剣士の脚力なら一瞬で詰めることのできる範囲だ。
「ベアトリクスは勘違いしてるみたいだけど普通の剣士はそんな人外染みた動きなんかしないし!そもそも『アースランス』は拳で砕けるような強度じゃないわよ!」
「あの魔法はアースランスというのか。いい魔法だな」
使い方次第では私を発射する砲台みたいな使い方もできるかもしれない。
イチカは最近剣の魔法しか使わないが、そういう魔術師の特色を活かした連携とかも研究してみたいものだ。
「あの!エーデルさん!」
私達の様子を見ていたイチカがこちらに駆け寄ってきた。
「エーデルさんは魔法の名前を叫ばず魔法を使ってましたけど!それってどうやってやるんですか!?」
確かに、イチカは毎回魔法の名前を読み上げて魔法を使用している。
偶に名前を読み上げる最中に噛んでしまい、不発になっている場面もあった。
「無詠唱魔法が使えない……なるほど、そこからのようね」
先程までは子供の用に悔しがりながら私と感想戦をしていたエーデルが、急に真面目な教師の顔になる。
「私が教えればイチカも無詠唱魔法を使えるようになれると思うけど、でも私は負けちゃったからベアトリクスには認められないわね」
そういいながらエーデルが哀愁の漂う表情でこちらを見てきた。
「ぐっ!」
エーデルと立ち合って彼女が相当な強者だということは伝わってきた。
そして久しく会っていなかった強者との戦闘で私が高揚したことも、確かだ。
「そういえばベアさんが勝ったら授業料はただでいいって言ってましたよね!」
「ええ!?」
エーデルは驚いて聞き返していたが、確か昨日エーデルが癇癪を起していた時にそんなことも口走っていた気がする。
「わ……私にも生活があるからただ働きはちょっと……」
昨日のことを思い出したのであろうエーデルがもにょもにょと言い訳を始めた。
生活がある……といわれるとちょっと申し訳なくなるな……。
「じゃあ35000Gにまけてくれ。1週間日当5000Gと考えればそちらも悪くないんじゃないか?」
別に一日中付き合ってもらうわけでもないし、こちらとしても妥協案としてはこの辺りが限界だった。
「いいわ!その条件で引き受けてあげる!あなたたち見る目があるわね!!!」
エーデルの顔がパッと明るくなる。
「じゃあ今から授業を始めるわよ!ついてきなさいイチカ!」
「はい!師匠!」
イチカとエーデルは『エーデル・アメジストの魔術師育成教室』と掛かれた看板の方向に向かっていった。
イチカがいないのではこの後の仕事のモチベーションも上がらないし、初日ということで私もふたりの後を遅れてついていき、見学をすることにしたのだった。




