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ぼっち冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた  作者: 神子さん
第二章 ダンジョン攻略編

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第17話 準備期間編

 目が覚めると背中の温もりは消えていた。

 イチカは自身のベッドに戻り、大口を開けて寝ていた。

 その姿が愛おしくて、彼女が起きるまでそのまま眺めていたかったが、ミカとの約束の時間の前に武器屋で私の長剣を見てもらわないといけないので渋々外出の準備をして外に出た。

 鎧も昨日の戦闘で汚れていたので、ついでにクリーニングしてもらおうと思い服装はここまでの旅で着用していたシャツとズボンに着替えている。

 軽快な足取りで歩いていると、昨日の夜の出来事を思い出してしまう。


「疲れていて漏れ出てしまった告白……そしてその返事待ち……」


 急に進んでしまったふたりの距離と、子供のように泣きながら眠りに落ちた恥ずかしさで情緒がめちゃくちゃになる。

 イチカが私のことを真剣に考えてくれるのは嬉しい。

 だが彼女の重荷になるのなら……。

 私は首をブンブンと振って弱い自分を頭がから弾き出そうとする。

 後ろ向きな思考になりかけると、イチカと初めて出会った時のことを思い出す。

 イチカと出会って、彼女との関係を何1つ取りこぼしたくないと思ったあの時の気持ちを。


「……ここか」


 暫く歩くとメタスギアの武器屋に辿り着いた。

 この街の武器屋は中が工房になっており、騒音が発生するため街の中でも人通りが少ない場所に店を構えている。

 今はまだ早朝なのでもしかしたらまだ営業を始めていないかと思ったが、営業中のようでよかった。


「おはようございます」

「いらっしゃい」


 暖簾(のれん)をくぐって中に入ると、そこには背の低い少女が作業をしていた。

 子供というわけではなく、身長にそぐわない大きな胸を半分以上露出したような布面積の薄い肌着の上から作業用の服を羽織っている。

 恐らくドワーフの少女なのだろう。

 異種族は近年だいぶ数を減らしたが、大きい街ではちょくちょく見かける。

 特に戦闘能力がヒューマンよりも一芸に特化しやすい種族特性を持ち合わせているため、上位の冒険者のパーティで見かけることも多いそうだ。


「朝早くにすみません。ちょっと武器のメンテナンスと鎧のクリーニングをお願いしたくて」

「りょーかい!あっちで座ってちょっと待ってて」


 ドワーフの少女に指示されたテーブルの椅子に座り彼女を待つ。

 程なくして忙しそうパタパタと彼女はこちらのテーブルにやってきた。


「待たせて悪いね!早朝だからこの店にまだ私しかいなかったんだ!」

 

 騒音の中で常に仕事をしているからだろうか?

 妙に声が大きくて迫力がある。

 背は小さくてかわいいのに。


「いえ、こちらこそ朝早くに押しかけてすみません」

「いいよ!こんな早くから武器を預けにくるようなお客様はむしろ好感が持てる!」


 ケラケラと笑いながらドワーフの少女がそういった。


「そういっていただけると助かります。私はベアトリクスです。」

「私はラグ!」


 お互いに挨拶をして握手をする。


「それで、どの武器を見てもらいたいんだ?」

「はい、これです」


 私は腰の長剣を鞘ごとテーブルに置いて、インベントリから引きずり出した鎧を私の足元に置く。


「うわっ!鎧が血まみれだ!これ人の血?」

「人の血も混ざっていると思います。昨日ダンジョンで盗賊に襲われてしまいまして……」

「これは確かに素人じゃ汚れを綺麗に落とすのは難しいね!剣も見ていいかな?」

「どうぞ」


 ラグは私の剣を手に持ちゆっくりと鞘から抜いた。


「……なるほど。いい剣だ。素材にドラゴンか何かの一部が使われているね。けどだいぶ酷使されている……」

「昨日盗賊に襲われた後中層から下層までその剣一本で登り降りしたのでだいぶ無茶させてしまいました」

「下層まで!それはひとりで?」

「下りはそうです。下層に取り残された仲間を救出して帰ってきました」


 武勇伝を語るみたいで恥ずかしいが、詳しい状況説明はしておいた方がいいだろう。


「なるほどね……。普段から手入れをさぼっていた様子もないし、トラブルでの酷使って感じだ」

「はい」

「……よし!この剣は暫くこちらで預かろう。しっかりメンテナンスするから3週間ほど時間をもらってもいいかな?」

「大丈夫です」

「じゃあこの紙に必要事項を記入して……」


 ラグの指示に従いするすると手続きを進める。

 職人気質の強い人が多い武器屋ではちょっと変わった人が接客対応をしてくる場合が多いので、今日みたいにサクサク話が進むことは珍しい。

 この店を贔屓にしてもいいかもしれないなぁと考えているとラグが私に話しかけてきた。


「ベアトリクスさん。気分を悪くしたらごめんなんだけど、君はこの武器と相性が良くないかもしれない」

「……といいますと」


 ラグはちょっと言いにくそうに口元に手を当てて理由を話し始める。


「単純に、君の膂力に武器の強度が追いついていないみたい。それなりの期間使用していた痕跡を感じるから今まで全力で使用する機会がなかったと思うけど、今回君に降りかかったトラブルで無茶した結果、必要以上にボロボロになっていたのは恐らく君の技量不足じゃなくて武器側の耐久度の問題だね」

「……でも剣は冒険者よりも脆いから必然的にそうなるんじゃないですか?」


 鍛え抜かれた冒険者は言ってしまえば精密機器のように繊細な剣よりは頑丈だろう。


「ハハ!剣よりも頑丈!確かに君らはそうかもな!」


 爽やかに笑いながらラグは作業に戻った。


「あ、すみません。よければ武器のレンタルもお願いできますか?」

「いいよ~!そこにならんでる剣好きなの使って!」


 工房の端に並んでいる武器の中から、長さのちょうどいいものを選んで腰に差す。


「これ借ります」

「りょうかい!」


 ラグはこちらを見ずにそういった。


「レンタルの剣の代金も他の装備と一緒に清算するから!」

「わかりました」


 貸出した剣の手入れ料金込みの請求になるのだろう。

 用事を終えた私は武器屋の出口へ向かう。


「それでは失礼します」

「はーい!」


 想像の10倍はスムーズに用事を終えた私は、寄り道をせずに宿に戻った。

 部屋に戻るとイチカも起きていたようで、ちょうど着替えの最中だったようだ。




「……ただいま」

「おかえりなさい!」


 着替えの途中で下がまだ下着のままのイチカが返事をした。

 女同士だから恥ずかしがる必要はない……こともない。

 私は全然イチカのことをエッチな目で見ているのだから。

 

 私はイチカから目をそらした状態で椅子に腰かける。


「……昨日はすまな……いや、今武器屋にいってきた。修理は3週間ほどかかるそうだ」


 昨日の話を蒸し返そうと思ったが、途中で臆病風に吹かれてしまい事務的な報告に無理やり舵を切り替えた。


「そっ……そうなんですね~!鎧も預けてきたんですか?」


 イチカも少し気恥しそうに武器屋の話題を広げようとする。

 やはり昨日の話をするのは気まずいのだろう。



 そうしてふたりはソワソワしたまま朝食を済ませて、ミカと約束していたギルドの集会スペースに足を運んだ。

 ミカは先にギルドへ来ていたようで、席を確保してくれていた。


「遅れてすまない。待ったか?」

「いや、パーティ解散の手続きをするのに少し早く来ていただけだ」


 相変わらず見た目とのギャップのある低めの声でミカがそういった。

 私とイチカが席に着くと、その様子を見ていたミカが訝しそうにこちらを見ていた。


「……あんたら、なんかあったのか?」

「なんかってなんですか?」

「いや……なんというかすることを済ませたカップルみたいな浮ついた雰囲気を感じる」


 おい聖職者!


「することってなんだ。私達はまだキスすらしてないぞ」

「ちょっ!ベアさん!」


 私の弁解を聞いたイチカが顔を染める。


「……仲がいいとは思っていたがやはりそういう関係だったか」

「まだそうなるとは決まったわけじゃないです……」


 ミカが納得したように頷いて、それを否定するイチカは何とも言えない表情をしていた。

 以前までの私ならイチカの発言に一喜一憂していただろうが、今の私は告白の返事待ちのハイパームテキ状態である。


「そうだよ、私達の未来は光刺す道となるんだ」

「ベアさんがまたおかしくなってる」

「ベアトリクスはこういうタイプの変人だったか」

 

 ミカの中の私はかなり変人で化け物という印象を与えてしまっているようだ。

 イチカと接する時とは違い、微妙に私に対して壁というか恐れを感じる。

 そういえばリーベルの街で新人の冒険者に何かの用事で話しかけたときも似たような反応をされていた気がする。


「なあミカ、私って怖いか?」

「その質問をしてくる人間は大概怖いな」

「そんなことないですよ!ベアさんは人を噛まない優しい人です!」

「それは人間に対するフォローで合っているのか?」


 そういいながらミカが少し笑った。


「……ミカさんって笑うとかわいいですね」

「そうか?前の仲間にはそんなこと言われたこともないな」

「前のお仲間ってふたりとも男性だったんですか?」

「ああ」

「じゃあ恥ずかしくて言えなかったんじゃないですか?」


 まあ死の淵に瀕してもなおミカの事を案じていた男と、その仲間だ。

 特別な感情を抱いていたが、言わなかったということもあったのだろう。


「どうだろうな。奴らはデリカシーがなかったから思っていたことはなんでも口に出しそうだが」

 

 ミカがまた遠い目をしていた。

 

「……よし!それじゃあ本題に入るか!」

「そうですね!」


 私とイチカが話題を回す。


「ああ。今後の予定についてなのだが、私は一度隣町に行ってくる」

「隣町……ファムの町でしたっけ?」

 

 私達がジルの町からメタスギアに向かう道中に立ち寄った最後の町がファムの町だった。

 農業が盛んな町で、のんびりとしたいいところだった。


「そうだ。私の仲間の実家がそこにあるのでな。一度そちらに伺おうと思う」

「遺品を渡しにいくのか」

「それもあるし、詳しい事情の説明もだな。ギルドから死亡通知がそのうち届くとは思うが、私が直接伺った方が早いだろう」


 それは、つらい役目だ。

 仲間の家族に、自分を守るためにあなたの息子は死にました。と伝えに行く。

 私は、たぶん怖くてその役目を引き受けることはできないだろう。

 

「私達も一緒に行きますか?」

「来てどうする?彼らとは部外者の君たちが来ても冷やかしにしかならないだろう」


 言い方はきついが、実際そうだ。

 イチカも大人しく引き下がった。


「それで、ファムの町はもうじき祭りの季節だ。だからその手伝いをしてダンジョンへの準備代をある程度稼ごうと思っている」

「ああ、春の豊穣祈願のお祭りか」


 ミカが頷いた。


「年に数回行われる豊穣祭だが、例年町の外からも多くの人がくるらしくてな。」

「クエストに行った方がサクサク稼げるんじゃないですか?」

「私はCランクの聖職者だ。ソロ適正がないからギルドの正規クエストは受けられないだろう」

「私達と一緒にいけばいいじゃないですか」

「それだと効率が悪い。あんたらも前回のダンジョン攻略でだいぶアイテムを使用しただろう」

「まあそうだな」


 クエストの報酬はパーティメンバーで等分される。なので人数が少ないほど一人当たりの取り分が増える。


「なので片付けなどの諸々を合わせて大体一月後に集合したい」

「わかった。それまでは我々もメタスギアでお金を稼ぐとしよう」


 ふと、隣のイチカを見ると何か言いたげな顔をしている。


「イチカ?」

「あの……ご迷惑じゃなければお祭りの日、観光に行ってもいいですか?」

「ああ、ぜひ来てくれ」


 イチカはファムの町の祭りに興味があったようだ。

 私は人混みが苦手だから、正直気乗りしないが。

 でもイチカが祭りに参加するということは、必然的に私も一緒にいくということ。

 つまり……これはデートなのでは!?


「祭りの日は3週間後だ。数日にまたいで行われるだろうから都合がいい日に来てくれ」

「わかりました!」


 こうして私達の準備期間の予定が決まった。

 祭りの日までに私の剣を受け取れるか怪しいが、この辺りのモンスターならレンタルの剣でも問題ないだろう。

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