幕間2 桐谷一花②
イチカとベアトリクスが出会って4日目、サイクロプスを討伐後、1日滞在したジルの町からリーベルに帰ることになった。
ベアトリクスが私に魔法の道具入れを買ってくれるようだ。
このアイテムは言ってしまえば四次元ポケットで、異世界から来た私としてはちょっとした攻撃魔法よりもビックリなとんでもアイテムなのだが、簡単に買い与えられるものなのだろうか?
ベアトリクス、彼女の見た目は、薄い金色の髪を動きやすい長さに切りそろえた美女だ。
先日の衣替え(装備変更?)で着用し始めたシャツとズボンは、シンプルなデザインなのにスタイルのいい彼女が着ると不思議とかっこよく見える。
というか足長!!!
腰も細いし内蔵を収納しきれているのか心配になる。
性格は恐らく陰の者で、私と話す時は表情をコロコロ変えていて一喜一憂している。
それなのに口調だけはクールな先輩みたいなキザな喋り方をしているところが愛らしい。
私の彼女への印象は、大型犬である。
そんなおもしれぇ女に異世界に飛ばされた日に出会えたことは幸運だし、まるで物語のヒロインになったようだった。
そしてベアトリクスは、恐らく私の事が好きだ。
一緒にいると私のことを特別扱いしたいという気持ちがビリビリと伝わってくる。
そんな彼女の想いに気づいてから、彼女と一緒にいると胸が高鳴る。
だがそれと同時に、元の世界に帰りたいと言ってしまった事の罪悪感で、私は押しつぶされそうだった。
――だから……私と一緒にいてくれ、イチカ。
ベアトリクスが私に見せた弱さは、劇物だった。
右も左も分からない異世界で唯一頼れる人間が、私の望みである元の世界への帰還を望んでいない。
そしてそれに気づいてもまだ、私は元の世界に帰ることを諦められないという事も。
私にだって将来があった。
やりたいこともあったし、大学にだって行きたかった。
元の世界とこの世界の時間の乖離はどうなっているのだろうか。
学校だって長く休めば進路に響く。
そもそも、フルダイブVRを起動した後にこの世界に飛ばされたということは、私の肉体は今も祖父の部屋で緩やかに死へと向かっているのではないか。
このまま5年10年と時が過ぎて、唐突に元の世界に戻されたら、浦島太郎のようになってしまうんじゃないか。
家族は心配しているだろう。友達だって何があったのかと不安にさせているかもしれない。
私が元の世界に帰りたいと思う原動力は、負の感情だ。
そしてその感情の出力先を明かしたせいで、ベアトリクスを傷つけてしまった。
堂々巡りだ。
私の中で全く答えの出ない問題だ。
そして私は考えるのを諦めて、ベアトリクスと笑い合う。
時間稼ぎでしかない逃げのぬるま湯に浸かってしまう。
この世界に来てきてから私は、私のことがどんどん嫌いになっていく。
だから何かしなくちゃと焦ってしまう。
そんな私に付き合わされるベアトリクスが不憫で、そして……。
「リーベルについたぞ」
ベアトリクスに声をかけられて思考のダイビングから浮上する。
「イチカは歩き慣れてなさそうだから、疲れてしまったか?しんどかったら1度家に帰って休憩しよう」
心配そうな顔で私の事を覗き込んで来る。
この人は本当に犬みたいだ。
「あはは!心配かけてすみません!私は大丈夫ですので先に用事を済ませてしまいましょう!!!」
私の笑顔を見てベアトリクスも嬉しそうな顔をする。
「それならいい」
キザったらしくそういってベアトリクスは歩き出した。
その後に私も続く。
リーベルの街は人通りの多いのに、ベアトリクスと一緒にいると私達しかいなくなったような錯覚を起こしそうだった。




