第15話 それはエッチすぎる
死んだ仲間への祈りを捧げ終わったミカは、短い付き合いの私が知る限りでは普段通りと思える表情だった。
しかし、仲間を殺されて失うという経験はそう簡単に割り切れるものでもないだろう。
ミカは今どんな気持ちなのだろうか。
私は今までひとりだった。だから仲間を失うという経験はしたことがない。
しかし今は……イチカがいる。
私はイチカを殺されたとしたら、ミカのように冷静ではいられないだろう。
実際イチカと分断されただけであそこまで取り乱してしまったのに。
私は、ミカの気持ちを知りたくない。
――弱いことは罪。
イチカと出会った日にリーベルの酒場でアリスがイチカに言った言葉だ。
あの日は極論が過ぎると思っていたその言葉が、今の私には理解できる。
弱いということは守れないということだ。
そして私は今日、イチカの命を取りこぼしかけた。
――イチカと一緒に居るために、私も強くならなくちゃいけない。
疲弊してヘロヘロになりかけているイチカの姿を見ながら私はそう決意した。
「脱出だ〜!」
ベアトリクスとイチカとミカの3名は、下層からの長い道のりを乗り越えて遂にメタスギアダンジョンの脱出に成功した。
朝一で出発したのに、外はもう日が暮れていた。
私達はすぐさまダンジョンの受付施設に向かい、職員に今日起きた事を伝えた。
「……という訳なんです」
「なるほど。それは災難でしたね。中層で回収された遺体は今施設の安置室に保管されています。確認されますか?」
職員の提案にミカは応じ、奥の部屋に消えていった。
「私もミカさんについて行ってあげたかったけど……流石に今の体力で人間の死体を見るのはちょっとキツそうで……一緒に行く勇気が湧きませんでした」
ふたりでレンタルしていたインベントリのアイテムを自分のインベントリに戻す作業をしている最中に、イチカが申し訳なさそうに私に告白した。
「ミカも仲間との別れを邪魔されたく無かったかもしれないし、気にしなくていいんじゃないかな」
「そうでしょうか……」
ミカがどうして欲しかったのかを知る由もない私は、都合がいい方に解釈してイチカをフォローするしか無かった。
しかしその答えはイチカの望むものでは無かったようで、イチカはその後も暗い顔をしていた。
今回のダンジョン攻略は、途中からトラブルばかりでドロップアイテムの回収も出来なかった為収支的には大赤字だった。
ただイチカの育成という目的は順調だったようで、ミカを待ちながらスマホを弄るイチカが嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。
「見てください!遂に大台の50レベルですよ!」
「この1日で5つもレベルが上がったのか」
「はい!まあ下層でちょっと弄ってたからレベルが上がってたのは気づいていたんですが」
イチカがにへらと笑う。
「それで、これは個人情報なのでちょっと大きい声で言いふらしたくはないのですが」
そういうとイチカが顔を私に近づけてきた。
その大きな瞳と薄いピンク色の唇が艶めかしく動く様に私の目が釘付けになる。
そしてその可愛らしい顔を私の耳元まで近づけてぽそぽそと囁き始めた。
「……それでさっきの件で行動を共にしたミカさんもどうやら私の仲間判定になっていたみたいなんです」
えっっろおおおおおぉおおおお!!!!!
ちょっと待って耳元で囁きマジでやばい!!!!!!!
えっちょ!!!
「あっっちょっつんんんくぅうぅうん!!!!!」
声にならない声を漏らしている私を見たイチカはドン引きしていた。
「どうしたんですかベアさん」
「いきなりそんなエッチなことされたらビックリするよ!!!」
キャラが崩壊した私はいつのも気取った喋り方も忘れてイチカに抗議した!
「エッチなのは心の準備を済ませてから頼む!!!」
「エッチってなんですか……」
必死な私にイチカは呆れながらそういった。
「まあベアさんの弱点がわかったというのは大きいですね」
「えっ!?」
何かある度にこれされるの?
――ベアさぁん♡あのかばんほしいんですけどぉ♡かってくれますよね♡ふぅ〜(甘い吐息)
とかされるの!?
お姉さんなんでも買っちゃうけど!?
「鼻の下伸びてますよ」
「……あまり私を虐めないでくれ」
今更手遅れだがそれでも頑張って体裁を整えようと努力をする。
手の甲で鼻の下を擦った。
あっほんとに鼻の下が伸びてた。
「……それでですね、あまり声を大きくして言えないんですけど、ミカさんのステータスも見れるようになったんですよ。そしたらミカさんのレベルが36で私より低かったわけなんですね。だから私が最速で強くなるという目的は着実に達成できてるんだなって話しかがしたかったんです!」
イチカが一気に捲し立てた。
私は未だドキドキと高鳴る心臓を抑えながら、イチカの言葉を咀嚼する。
「確かミカは冒険者歴1年半と言っていたか。彼女よりも能力値が高いということは順調という証だな」
私は他の魔術師がどういう成長をしていくものなのか知らないのでイチカの比較対象がいなかった。
だから具体的な数字で私達の努力が肯定されたのは素直に嬉しい。
「だから、私はベアさんに感謝の気持ちを伝えたかったんです」
「だからエッチな囁きで誘惑してきたのか!?」
「違いますよ!」
もはや頭が完全にピンクになってしまった私にイチカは呆れを通り越して哀れみの表情を浮かべていた。




