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ぼっち冒険者の私が魔法職の少女をナンパしてみた  作者: 神子さん
第二章 ダンジョン攻略編

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第14話 私が君たちを守るから

 下層からの帰還。当たり前だがそれはダンジョンを逆走することである。

 ダンジョンは下層に行けば行くほど敵が強力になる。

 なので我々の脱出は、この最初の下層が一番の山場になる。


「というわけなので、下層での作戦はベアトリクス。あんたの力で強引に突破してもらいたい」


 ボス部屋前での休憩が終わり、作戦会議を始めた3人だが、最終的に残った案はベアトリクス無双だった。

 実際エーテルもない状況で魔法職の2人に無理をさせるわけにもいかない。

 私はその提案を了承し、身体の調子を確かめる。


「……よし、毒の影響ももうなさそうだ。本当に助かったよミカ」

「あんたがいなかったら私は死んでた。だからまだあんたへの貸はこの程度じゃ返し切れていない」


 私の謝辞に対してミカはぶっきらぼうにそう言った。


 この子、私とキャラ被りしていると思ったけど、私よりも全然武人みたいな性格をしているな。

 クールな先輩気取りをしている陰キャの私は、ミカに対してそういう印象を受けた。

 なのに、見た目が本当に可愛らしい聖職者の少女なので温度差で脳みそがバグりそうだ。

 以前酒場で食事をしているときに、居合わせていた冒険者が性別を反転させる魔法を使う魔族がいるという話をしていたことがあるが、彼女の中身が実は最前線で戦っていた騎士だった。と言われても納得できる凄みがある。


「ベアさん……いつも迷惑をかけてすみません」


 イチカがいたたまれなさそうにそういった。

 ベアトリクス無双作戦という実質ゴリ押し作戦が決定した後からイチカの様子がおかしい。

 また必要以上に責任を感じているのだろう。


「謝る必要はないよ。むしろイチカやミカが私を信頼して命を預けてくれた。それが私は嬉しいよ」


 イチカの肩に手を置き、なるべく自身がありそうな雰囲気を作りながらわたしは呟いた。


「だから、背中は任せるぞ」


 激励の言葉のボキャブラリーがあまりない私は、そのくさいセリフをなるべく格好つけてふたりに言った。

 

 2人は私に命を預けてくれている。そしてそれがうれしい。

 イチカを納得させる為にはいた方便であるが、同時に本心でもある。

 だから私は2人の信頼を裏切るわけにはいかないんだ。


 手のひらで自身の頬をパン!と音を立てて叩き、気合を入れ直す。


「それじゃあ行くぞ」


 私はモンスターのはびこるボス部屋前の安全エリアの外に向けて歩き始めた。


「エンチャント『魔力』!」

「奇跡『神への誓い』」


 イチカとミカがそれぞれ魔力エンチャントと攻撃力上昇の奇跡を私にかける。

 バフ呪文は総じて魔力効率がいい。

 魔力回復手段が増えたらしいイチカはともかく、ミカには補助に徹してもらう。

 そして魔力回復ができるイチカには定期的に大技を使ってもらい、私が休憩をする間を稼いでもらう。

 ほんの一時でも息継ぎのできる瞬間があれば戦闘の質も上がるはずだ。


 ボス部屋前から外に出ると、出口をヘルハウンドの群れに包囲されていた。

 私達がボス部屋前の安全エリアに入る前から追ってきていた奴らが、ここで出待ちをしていたのであろう。


 その気配をスキルで感じていた私は、まずは炎を吐こうとしている個体を攻撃する。

 イチカとミカに強化された剣と身体は、強固な下層の敵をパンでも切るようにスーっと身体を切り裂いていく。

 反撃も許さないスピードで何体か倒したタイミングで、自身が既にピンチであることに気づいた残りのヘルハウンドが飛びかかってきた。

 その攻撃をかわしながらカウンターでヘルハウンドを真っ2つにしていく。

 ヘルハウンドの群れはイチカとミカのバフの支援ですぐに片付いた。

 傷んでいた私の長剣もエンチャントによる強化があれば中層までは持ちそうだ。


「ふたりのお陰で楽に倒せたよ。これなら中層までなんとかなりそうだ」

「ベアトリクス、あんた本当にバケモノのような強さなんだな」


 私は後衛ふたりに感謝の言葉を述べたが、その言葉が耳に届いているのかいないのか、私の戦いを見ていたミカがそういった。

 ミカは冒険者になって1年半程のまだまだ新米らしい。

 なので私のようなそれなりに動ける戦士の動きが物珍しいようだ。


「Bランクの前衛なんてみんなこんなもんさ」


 王都のドラゴン襲来時のレイド戦や、ベヒーモスの討滅戦に参加した時は他のパーティの魔法職の派手さに気を取られていて前衛の動きはまるで見ていなかったので本当は他人との力量さをよく理解していないが。


 ともかく、この調子で私達はずんずんと下層を逆走していった。

 下層は大きな道をそのまままっすぐ走れば中層に辿り着ける。

 だがそのルートはあまりにも多くのモンスターと戦うことになるので、冒険者たちはわき道を探索して独自のルートを作り出すのが基本らしい。

 

 ミカに前のパーティと共にここへ来た時にルートを開拓していなかったか聞いてみたが、どうやら一時パーティを脱退している時期に残りのメンバーが色々と下層のルートを思案していたみたいで、詳しいことはよくわかっていないそうだ。

 例の転送罠も、ボス部屋からなるべく近い場所で波長が合う場所をミカのメンバーが探り出したものだったそうだ。


「ふたりはサプライズか何かのつもりだったのかもしれないが、迷惑な話だよ」


 ボス部屋前での休憩中にそう語るミカは、何処か遠い目をしていた。


 というわけで、ルート開拓ができていない以上我々はこの大通りを正面突破するしか手段は残されていない。


 魔力結晶石の放つ光で照らされた通路を私達は必死で駆け抜ける。

 

 モンスターを蹴散らして進んでいる我々だが、私ひとりだと飛行タイプのモンスターと巨人タイプのモンスターが地味に厄介だ。

 飛行しているモンスターは言わずもがな、剣を届かせるのに飛び上がらないといけないが数が多くて手間がかかる。

 なので巨大蝙蝠などの飛行モンスターはイチカに撃ち落として貰い、必要に応じて私がとどめを刺した。

 ミカもイチカからサーベルを借りているようでその作業を手伝ってくれている。

 

 そして巨人はシンプルに生命力が強すぎる。

 頭を叩き斬って首を跳ねても胴体だけで暫く暴れている。

 その攻撃をいなす数秒のタイムロスが、後の行動の選択肢を狭めていく。


「いきます!」


 イチカの掛け声に反射的に反応して射線を譲る。

 イチカも私が巨人に手を焼いていることに気が付いて、巨人を見かけると魔法の準備に入ってくれる。

 本当に頼りになる。

 出会った頃からまだ一月程しか経過していないのにイチカの成長は目覚ましい。

 これなら本当にいつか四賢者や魔王討伐を成し遂げる勇者になるかもしれないな。


 イチカは大技を放ったあと、目を閉じて集中している。

 その集中状態がイチカの魔力回復の手段らしい。

 だがそんな状態でも足を止めるわけにはいかない。

 なので目を瞑りながらでも走れるように、イチカとミカは常に手を繋ぎながら走っていた。

 

 ……。

 

 私は今集中力がかなり高まっていて周りの細かい情報も拾っている。

 なのでちょくちょく美少女2人が手を繋いでいる光景が視界の端に映ってきて、なんともいえない気持ちになる。

 眼福?嫉妬?

 感情がグチャグチャになる。

 これが噂に聞く脳破壊というものなのか?

 というか先程の、イチカの勧誘を受けてからミカのイチカを見る視線が何処か違う気がする。


「悪いけどこれからお前たちにすること全部、ただの八つ当たりだ」


 胸の奥に疼く仄暗い感情を、目の前のモンスターにぶつける。


「……ベアトリクスの動きが更に加速した!この女はどこまで……」


 私の動きを見ていたミカが関心したようにそう言葉を漏らしているのが聞こえた。


「私もベアさんが手加減抜きで戦っているところは初めてみたんですが、想像以上です」


 ふたりが握り合っている手の力が強くなっているのを、私の()()()()()()()が察知した。

 ふたりの間に産まれている奇妙な一体感が、どうやら私のアラートを鳴らしているようだ。


 「集中しろ、集中」


 私は邪念を振り払い戦闘に集中する。


 メタスギアダンジョンはわき道に入ってしまうとかなりの広さの迷宮になっているが、直進で突き進むだけならば、そこそこの長さだ。


 2時間ほどぶっ通しで走り続けて、私達はようやく中層へ戻る段差までたどりついた。

 やはり魔法職ふたりを連れている状態だと、下層に降りたときよりは相当時間が掛かってしまった。

 長距離の移動で私の体力は問題なかったが、イチカとミカが相当参っている。


 私はへばっているふたりを抱えて中層へ戻った。


「なんとかここまで戻ってこれたな」


 幸いまだ中層のボスは復活していないようである。

 イチカ達と合流するまでの記憶が曖昧だから定かではないが、確か私が中層のボスも倒して下層に降りた気がする。


「ハァハァ……ちょっと、ハァ……悪いが水を……」


 ミカが息切れしながら水分を求めていた。

 ミカが持参していた分は使い切ってしまったらしい。

 というかどうもミカの手持ちの荷物が少ない気がするのだが、もしかして他の仲間ふたりに持たせていたのか?

 実は彼女はパーティに甘やかされていたのかもしれないという邪推をしつつ私は水筒をミカに渡した。


「飲め」

「わるい……」


 肩で息をしながらミカが水筒の水を飲む。

 息が上がっていて苦しそうなのに飲み方はお上品なのがちょっと面白い。


「ハァハァ……ふぅ~。悪い、助かった」


 ミカが水筒を私に返した。

 その水筒を受け取り、その隣で倒れているイチカに渡す。


「イチカ、飲めるか?」


「大丈夫……です」


 イチカが冷たいダンジョンの床にうつ伏せで倒れながら親指を立てる。

 その大丈夫がどちらの意味か解らないので私はイチカの手の届くところに水筒を置いた。


「苦しいと思うけどここはまだボスエリアだ。まだ復活するまで時間はかかると思うがボス部屋まえまでもう少し頑張ってくれ」


 最悪2人が限界なら、また私が担いで歩けばいいが、息を整えさせてあげる時間は取ってもいいだろう。


「なんとかわたしたち……生きて帰れましたね……」

 

 イチカがうつ伏せで倒れた状態のまま呟いた。


「あぁ。イチカとベアトリクスのお陰だ。心から感謝している。」

「気にするな。お前の仲間にお前のことを託されていたしな」


 私はミカの名前を聞くまですっかり忘れていたのだが。

 酷い女だ。


 こうして私達は辛くも下層の脱出に成功した。

 


 中層もなんなく突破し、我々は盗賊に襲われた安全エリアまで戻ってきた。

 ミカの仲間の死体と、盗賊の首を持ち帰ってギルドに報告しなくてはいけない。


「……死体がないな」


 しかし、私が倒した盗賊も、ミカの仲間の死体もなくなっていた。


「同業者が回収したのか、アンデッドになってしまったのか」


 中層までは多くの冒険者がやってくる。

 しかもここは上層から一番近い安全エリアなので立ち寄る冒険者も多いだろう。

 

「……アベルは、私の仲間はどこで倒れていたんだ?」


 ミカの質問に私は指だけで返答した。

 ミカはゆっくりとその場所に近づき、そして祈りを捧げていた。


「……」


 ミカのその様子をみていたイチカも目を伏せて祈りを捧げる。

 その様子を、私は漠然と眺めていた。


 自身の都合で見殺しにした私には、彼の冥福を祈る権利はないのだから。

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