第10話 上層攻略!
メタスギアに到着し装備を整えた次の日、ベアトリクスとイチカはダンジョン攻略に出発した。
ダンジョンはメタスギアから国境の山脈へ入ってすぐの場所にある。
我々はすぐに目的地に到着した。
「ここがダンジョンの入り口なんですか?」
「いや、ここはダンジョンに入る手続きをする場所だ。」
私達はダンジョンの入り口の前に建てられた受付施設の中へ足を踏み入れた。
「こんにちは。本日はダンジョン挑戦の手続きでございますか?」
入ってすぐの場所で待機していた職員に声を掛けられる。
「ああ」
「かしこまりました。あちらの席で少々お待ちください」
職員に案内された椅子へ腰かけ、手続きの開始を待つ。
周りを見ると想像していたほど受付待ちの同業者はいないようなのですぐに順番が回ってきそうだ。
「ダンジョンに挑戦するのにも手続きが必要なんですね」
「このダンジョンは王国が管理する場所だからな」
イチカの質問に私が答える。
「維持費の為の入場料の支払いや細かいルールの説明、あと自前の道具入れを預かってもらわなくてはいけないんだ」
「道具入れ……インベントリの持ち込み不可なんですか!?」
「自前の道具入れ……イチカのわかりやすい言い方だとインベントリの持ち込みを可能にしていると、その他のダンジョンに持ち込みしてはいけないものや持ち出したらいけない物の管理が難しいようでな。なのでこの役所で一度自前のインベントリ預かってもらい、貸出用のインベントリに道具を詰め込み直す作業が必要なんだ」
「真面目にやっている人が悪い人の影響で作業が増えるのはどの世界も一緒なんですね」
「そうだな。だが我々にはやましいことはないから大人しく指示にしたがおう」
「そうですね」
だがこのような作業も年々形骸化し始めていて、ダンジョン内で悪さをするものも増えていると聞いたことがある。
イチカをトラブルに巻き込まないように気を付けなくてはいけない。
暫くして職員に声を掛けられた私達はサクサクと手続きを終わらせた。
私の荷物はともかく、先日イチカに買い与えたインベントリにはあまり必要な物は多く入っていないので、移し替えの作業も滞りなく終わった。
手続きが終わった後、我々は施設の奥に案内された。
いよいよダンジョン攻略のスタートである。
「先程説明を受けたと思いますが、今回ベアトリクス様達が挑戦するダンジョンの入り口は上層ボスエリアに一番近い入り口となります」
「ああ」
「直進一本道コースでしたよね」
ダンジョンの入り口はいくつかあり、この施設から少し離れたところにある入り口を選べば上層エリアの探索を楽しめるルートを選ぶこともできた。
だが私達はこの街の滞在中に中層クリアを目標とすることにしていた。
なので上層で無駄な時間を使わないルートを選択することにした。
「いよいよダンジョン攻略……RPGらしくなってきましたね」
「あーるぴーじー。冒険者らしくなってきたということだな?」
語彙力のジャンルに若干のギャップがあるためいまいち乗り切れないが私も感慨深いものがこみ上げてくる。
私の夢、仲間とのダンジョン攻略。
仲間との冒険者らしい生活。
あれよあれよというまに私の夢を叶えてくれたイチカに改めて感謝の念を浮かべつつ、私はダンジョンへの一歩を踏み出した。
メタスギアダンジョン上層、メタスギア遺跡。
内部はその名の通り人工的に作成された遺跡のような様相だった。
そもそもダンジョンというものは本来中層以降の洞窟が自然に作られたダンジョンであり、上層はその洞窟の入り口を封印する形で作られた遺跡などが魔力の影響を受けてモンスターの住処になったというものが多い。
なので本当に危険なダンジョンなどはこういった遺跡が作られる前に魔法的な封印や呪術師による呪いなどで封鎖されていることが多いので上層部分に当たるエリアがなかったりもする。
私とイチカの靴がコツコツと石の床に当たって乾いた音を鳴らす。
ダンジョン内は外とは違い少し肌寒いので、上着の生地の薄いイチカが寒くないか少し心配だ。
「イチカ、肌寒くはないか?」
「大丈夫です!この衣装は体温調整と汚れの自動洗浄機能がついているみたいですごい快適です!」
「ええ!?それはそんな機能が付いた服なのか!?」
「この街に居た高名な魔術師が作ったアイテムの残りらしいです」
装備に特殊な付帯効果が付いたものは稀にだがよく存在する。
私の鎧にも僅かに迅速の効果と素材となったモンスターの特性である装備者の出す音を軽減する効果がある。
そして魔法職の装備は戦士職よりも強力な効果を持つものが多い。
だがイチカの上げた能力は流石に今回の予算で購入できるような効果ではないはずだが。
「ベアさんとの修行で私自身のユニークスキルがいくつか発現したんですけど、その中の1つに装備の隠された効果を暴けるスキルがあったんですよ!」
そのスキルを使用して掘り出し物を探し当てたということらしい。
「だから本当はこのフリフリの衣装は結構恥ずかしいんです。ベアさんが褒めてくれたから自信が持てましたけど……」
イチカが照れ臭そうにもじもじとそういった。
「かわいい……」
「心の声漏れてます!!!」
いつもは心の中で思うだけの私の声がついに肉を突き破って外に出てしまったらしい。
だがイチカがさらに顔を真っ赤にしている姿が見られたのでそれはそれでいい。
「そんな反応が見れるなら普段から思っていることを口に出せばよかったな」
「顔には出てましたよ」
「……」
何度か指摘されているが、顔に出しているつもりは全くない。
きっとイチカの読唇術的なスキルが開眼しかけているのだろう。
などと話しながら歩いていると前方に見覚えのあるモンスターが現れた。
「あ、ワイトだ」
「懐かしいな」
私達が初めて受けたクエストの討伐対象のワイト。
そいつが複数体で私達の進行を邪魔してきた。
上層でイチカに魔力を無駄遣いさせるのも忍びないので私が腰の長剣を抜こうとすると、イチカに止められた。
「成長を試すいい機会なので私が戦ってもいいですか?」
「ああ。だが魔力の無駄遣いはするなよ」
「わかってます!」
イチカは杖をワイトに向けた。
短い杖の先端に魔力が集まる。
「浮遊する魔法の剣!!!」
杖に集められた魔力が青白い剣の形に変化し、勢いよくワイトに向かって発射される。
ダンジョンにいるワイトはリーベルのワイトと比べるとかなり強力になった個体だ。
だがあの時から成長したイチカの攻撃を正面から受けたワイトは一撃で戦闘不能になる。
「やった!私も成長してるんだ!!!」
そう言いながら更に複数の魔法の剣を作り出し、射出する。
そのすべてがクリーンヒットして、ワイトの群れは全滅した。
「やった!」
「よくやったなイチカ!だが今の戦闘で他の魔物も集まってきているぞ」
戦闘音と魔力につられて新たなモンスターの接近を感じる。
私はこの危険が迫ってくる感覚を直観のようなものだと思っていたが、イチカ曰くどうやらこれも私のスキルらしい。
蜘蛛のモンスターやウルフタイプのモンスター。ゴブリンのモンスターなどの見覚えのある雑魚モブが勢ぞろいしてきた。
「数だけだな。倒しながら前に進むぞ」
「わかりました!」
イチカが杖を構えるよりも先に私が飛び出し、近くのモンスターを順々と切り伏せていく。
「……いきます!」
イチカのその声を聞いて、私は即座にステップでイチカの射線から離れる。
そして私が今までいた場所にイチカの魔法が撃ち込まれた。
私達はパーティを組んで日が浅い。なのでパーティとしてのコンビネーションはまだまだ未熟だった。
なので普段から使用しやすいセットアップを1つ用意していた。
それが先ほどの声掛けである。
イチカを守りながら私が戦い、イチカの声掛けで射線を譲る。
簡単な作戦だが、これは中々効果的だった。
モンスターをなぎ倒しながら直進し、暫く進んだところでボスエリア前の安全地帯に到着した。
ボスエリアはそれまでの探索エリアと比べて場の魔力が強大で、それ故にボスエリア前は弱いモブが近寄りにくいという仕組みらしい。
私はインベントリからエーテルを取り出して、イチカに渡す。
「先に私の分を使え。緊急時にイチカの手持ちがなくなっても困るからな」
「そもそもベアさんは魔法使わないのに必要なんですか?」
「一応私も魔力を使うアイテムをいくつか持っているからな」
私自身は魔法の才能はからっきしだが、愛用する武器の能力を使う際に多少の魔力を使用する。
なので私も少量だが常にエーテルを持ち運んでいた。
「あまり使う機会はなかったから中身が少々心配だが」
「ちょっと、飲む前に怖いこと言わないでくださいよ」
そういいながらイチカがチビチビと躊躇いがちにエーテルの瓶に口をつける。
「……瓶は私が再利用するので返してもらっていいか?」
「わかりました!」
飲み終わった後の空瓶をイチカから受け取った。
私はそれを布で包み、慎重にインベントリにしまった。
――あの日入手できなかった使用済みの瓶を回収できた……。
計画通りだった。
この四週間私はイチカに怪我をさせないように立ち回り、そして魔力回復はイチカ自身に任せていたので中々チャンスは訪れなかった。
だがついに手に入った。イチカとの間接キス補給用エーテル瓶。
流石に舐めたりはしないが、それでもこれは宝物として大切にしまっておこう。
幸いインベントリに入れたものは痛むのが遅い。
にやにやしながら瓶をインベントリに片づける。
今からボスに挑戦するというのに、今日の私は浮かれていた。
安全エリアに作られた階段を下りた先に魔力が可視化したような霧の扉がある。
その先がボスエリアだ。
「いよいよボス戦ですね」
「上層のボスは中層の雑魚敵の顔見世のパターンが多い。気負う必要はないが気は抜くなよ」
「はい!」
霧の扉をくぐると、その先の空間は想像していたよりも広い闘技場のような場所だった。
遮蔽もない平地とそれを囲む壁の中央に、ボスと思われるモンスターがいた。
「巨人の騎士……?」
「あれはたぶんアンデッドウォリアーの強化種だな」
部屋に充満している腐臭から私はそう推察した。
アンデッドウォリアーは戦士職の冒険者や騎士の死体がアンデッド化した際に産まれるモンスターだ。
その特徴は生前の装備を模した鎧や剣などを装備している点。
だが大抵は我々ヒューマンや時折いるドワーフなどの異種族の生前のサイズとそう変わりはない。
しかし、ダンジョンでは場の強大な魔力が影響してサイズが巨大化することもある。
おそらく今回もそのパターンだろう。
「……動きませんね」
「様子見をしているのだろうか?」
「騎士道精神ってやつでしょうか?」
「どうだろうな。だが好都合だ」
私はイチカの肩に手を置いた。
「君の現在の最高火力をぶつけてみよう」
「!」
私の言葉にイチカは無言で頷いた。
そして先ほどのように杖に魔力を込め始める。
「……強い魔法の剣!プラススキル『チャージ』!」
無属性魔法である魔法の剣の上位スペルにイチカ自身のスキルであるチャージを重ね掛けする。
杖の先に集まる魔力は先程ワイトに放ったものとは比べ物にならない程の圧を放っている。
――この魔力が無制限で使用できるなら……そして本当の最高火力で放てたらそれはどれ程の威力になるのだろうか。
イチカの魔力を見ていると、剣士である私もワクワクしてくる。
それと同時にスキルで本来の力を使用できないイチカを不憫に思った。
イチカの魔力を感じたアンデッドウォリアーが身の危険を感じたようだ。様子見をやめてこちらに接近してくる。
サイズはサイクロプスとそう大差ないが、鎧を纏ったアンデッドウォリアーの方が動きは俊敏だった。
「イチカは魔法に集中していろ!」
アンデッドウォリアーの動きに合わせて私も敵に距離を詰める。
電光石火の勢いでアンデッドウォリアーに接近した私は、アンデッドウォリアーの頭まで飛び上がりその頭部を拳で殴った。
正直な話、私が剣を抜いてしまうとイチカの出番が無くなってしまう。
多少の手加減ありでぶん殴られたアンデッドウォリアーの巨体は固いヘルムの砕ける音を響かせながら吹き飛ばされる。
起き上がるのにも時間が掛かりそうなので私は追撃をせずにイチカの護衛に戻った。
「いけます!!!」
イチカが杖を自身の頭上に向ける。
その先端から巨大な魔法の剣が作り出された。
そしてその剣を勢いよくアンデッドウォリアーに振り下ろした。
「!!!!!!!!!!」
アンデッドウォリアーは声を発する間もなく両断されて、消滅した。
我々の勝利である。
「これならもう少し威力を落とした攻撃でも中層で通用しそうだな」
「でも『チャージ』がおそらく必須になりそうだからあまり連発はできなさそうですね」
アンデッドウォリアーへのダメージを逆算しながら2人で中層以降の立ち回りを相談していた。
今この瞬間も私はとても楽しかった。
そう、楽しかったんだ。
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