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1 スキル『絶対防衛』

 家の前には、記者たちが大勢待ち伏せていた。

 サトルは、それを見て引き返そうとした。


「あっ、あれは日下部大臣じゃないですか」


 記者が一斉にこちらを向き、暴走する象の群れのように地響きを上げて突進してくる。

「大臣、政治とカネの問題について――」

「秘書とは関係を持ったのですか」


 マイクを突きつけてくる。


 サトルは逃げた。ちょうど来たタクシーに乗った。

 閉まるドアに差し入れてくる手をどけた。

「運転手さん、出してください。早く」

 そのまま、高速に乗って、東京から車で2時間ほどの北関東の温泉街でおろしてもらった。


 サトルはため息をついた。


 幼い頃から漠然とだが、この国を守りたい、人々の助けになりたいという思いがあった。そして大学は防衛大学校に進学した。しかし、単なる一将兵ではできることは限られていると感じ、防大卒業後、任官せずに山下政経塾に入り直して勉強した。そして30歳で衆議院議員に初当選した。その後、防衛省の政務官、防衛副大臣を経て、防衛大臣にまでなった。しかし、マスコミと野党の標的となり、スキャンダルを捏造され、政治家としては追い込まれて行った。こうしたスキャンダルの政争は、苦手とするところだった。


 サトルは疲れていた。政権与党である民明党の内部は魑魅魍魎が徘徊する伏魔殿であった。


 ちょうど、その頃からサトルは異世界の勇者として魔王軍と戦う夢を毎晩見るようになった。


「魔界の魔王軍より、日本の政界の方が魔境だよ」

 そんな弱音が口をついてでた。


 サトルはタクシーから降りて温泉街をただ歩いた。


「みゃあああああああああああああ」

 情けない鳴き声がした。


 見ると、猫が柵に頭を突っ込んでその後、体が挟まって動けないでいる。

 サトルは、猫を柵から救い出した。


 猫はサトルをじっと見ると、どこかに去って行った。


(これが、自分の人生で最後の行いかな)


 正直言ってサトルは疲れていた。もう人生を終わりにしたかった。理想と現実が違うことはわかっていたが、国を守るという理想と現実の政界はあまりにギャップがありすぎた。最初はそれを埋めようと努力したが、もう限界だった。

 サトルは幼少の頃から武道を修行し、防大卒だ。最後の自決だけは、武人らしく行うつもりだ。

 そうしてサトルは自らの生に終止符を打つはずだった……。


「あれ、ここは?」

 雲の上のようなところにサトルはいた。


「気が付きました?」

 目の前には白いドレスの美人がサトルを覗きこんでいた。


「あなたは? ここは?」


「私は創造神です。ここは天界です」


「えええ」

 サトルの頭がついてこなかった。


「さっきは助けてくださってありがとうございました」


「何もしてませんよ」


「私は猫に憑依して下界探索していたところ、柵にはまってしまい、動けなくなっていたのを助けてもらいました」


「ああ、あの猫だったんですね」


 女神が頷いた。


「ところで、あなたは、これまで人々を守るために多大な貢献をしてきました。なのに何も報われることなく、悲惨な最後を迎えました」


 女神がスクリーンのようなものに、3代前までのサトルの人生を走馬灯のように見せる。一瞬でサトルは前世の人生の全てを理解し、思い出した。

 前世は勇者だ。魔王と魔王軍を倒した。しかし、平和になった後の世界で、政争の道具になり、謀略に巻き込まれ、さらには危険人物扱いされて、妻に毒殺された。妻はそもそも送り込まれた御目付役のようなもので、宰相の愛人だった。

 その前の人生では村の武術家だ。村を盗賊から守った。しかし盗賊に買収された弟子に毒殺された。


 今生の生も見えた。

「何だって、橋川が裏切ったのか」


 サトルは政治とカネの問題で追及を受けていたが、裏金を作り、政治資金を不正に使い、帳簿に不記載をしていたのは秘書の橋川の独断で、全部橋川が使っていた。さらに、その情報を橋川は政敵に売り、秘書の橋川はサトルの指示で仕方なくやったと証言したのだ。さらにサトルの妻は浮気しており、サトルから多額の慰謝料と財産分与を得て再婚するために、秘書との不倫疑惑をでっちあげてマスコミにリークしたのだ。疑惑の相手の女性秘書には報酬を約束し、疑惑を否定せず、雲隠れすることまで指示をしていた。


 サトルは嵌められたのだ。生まれるたびに、同じように裏切られて。みんなを守るために心身をすり減らして、頑張ってきたのに、誰からも感謝されず、まったく報われない人生だった。それも3度もだ。


 サトルは膝を突いて、うなだれた。


「なんて、ことだ」


「本当です。ここまで、民の盾となり、守ったのにこの仕打ちは無いですよね。まれにみる悲劇です。助けていただいた恩もありますので、次の人生では、異世界の王でも、日本の総理でも、億万長者にでも、何にでも転生させてあげますよ」

 女神が優しい笑みを浮かべながら言った。


「そういうのはいいです。ハーレムとかもいりません」


 絶大な力も、冨貴もいらない。そういう世界はドロドロしていて、もうこりごりだ。妻にも2度裏切られて女性不信にもなった。

 次の来世があるなら、静かな人生を送りたい。そう、スローライフっていうやつだ。薬草でも採取しながら、のんびりと戦いの無い日々を過ごしたい。

 だが、村を盗賊から守ってきた武術家、魔王軍を倒した勇者、そして緊張あふれる国際情勢の中で日本の防衛を担ってきた経験から、非力な村人Aでは、悪にいいように踏み潰されて蹂躙されることも知っていた。


 だから最低限の防衛力は欲しい。


「静かな生活をしたいです。でも、最低限自分の暮らしを守ることができるだけの防衛力は欲しいです。あと、同じように騙されないためにこれまでの前世の記憶を残しておいてください。それから前世の記憶があるのに赤ちゃんからのスタートはきついので、成人する少し手前くらいに転生させてください」


 サトルは思っていたことを女神に話した。


「わかりました。では今の記憶を残したまま14歳の体で転生するようにします。それからあなたには『絶対防衛』のスキルを付与します」


「絶対防衛?」


 異世界の勇者でいたときにも聞いたことが無いスキルだ。


「ではごきげんよう」


 サトルは光の渦に飲み込まれた。





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