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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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護衛任務と信頼の魔力

ナエルとの反射訓練は続いていたが、いつまでも訓練場に籠もっているわけにはいかない。セイブライフはスローライフを目標としているため、安定した収入源を確保する必要があった。


レイルズは、次の依頼として、隣街への商隊護衛を選んだ。移動がメインであり、大規模な戦闘の可能性が低い依頼だ。


「この依頼は、真琴の実践訓練も兼ねる。危険度は低いが、不測の事態は常にあり得る。全員、慎重に行動するぞ」


真琴は、緊張で胃がキリキリと痛んだ。安全な訓練場での不意打ちとは違い、現実の戦闘は命取りになる。しかし、レイルズの隣で歩くことで、不思議と心が落ち着いた。


商隊の馬車に並行して、セイブライフの五人は街道を進んだ。

道中、比較的弱い魔物である『飢えたコボルト』の小集団に襲われた。


「ダリー! 前方三体! ナエル、後方二体を処理しろ!」レイルズが即座に指示を出す。


戦闘が始まると、真琴は訓練の成果を試すように、反射的な『魔力障壁』を自分に展開した。コボルトの爪が真琴に届く直前、障壁がそれを弾く。


(動けた……!)


真琴は感動した。体が固まる前に、体が勝手に魔法を発動してくれた。


しかし、その安堵も束の間、ダリーが、真琴の目の前で一匹のコボルトを叩き潰した際の、鮮血の臭いと獣の断末魔が、真琴の過去の記憶を刺激した。


(――あの時の、血の匂いだ……)


真琴の視界が歪み、再び体が一瞬硬直した。


その時、レイルズの剣が、真琴の横をすり抜けて、真琴に向かって飛びかかろうとしていた別のコボルトの首を正確に刎ねた。


「真琴! 支援! ダリーだ!」


レイルズの声が、真琴の意識を繋ぎ止める。


「はっ……! 身体強化!」


真琴は、魔力をダリーへと放出した。ダリーは強化された身体で、残りのコボルトを一掃した。


戦闘後、ダリーは真琴の肩を叩き、豪快に笑った。


「真琴の支援、タイミング最高だったぜ! おかげで気持ちよく暴れられた!」


「そうよ、真琴さん。あなたのおかげでダリーが傷を負う時間が短くなったわ。最高の支援よ」


ミリヤムが優雅に褒める。


「俺たちが君を守る。君は、俺たちを支えてくれればいい」


ナエルも頷いた。

彼らの言葉は、真琴に安心感を与えた。


護衛三日目。山間の人気のない場所で、彼らは待ち伏せしていた野盗の集団に襲われた。野盗は魔物と違い、躊躇なく命を奪いにくる。


「野盗だ! 隊列維持! ダリー、ミリヤムから離れるな!」


レイルズが剣を抜きながら叫んだ。


真琴は、人間同士の殺し合いの危機に、再び体が固まりかける。その時、真琴の耳に、ダリーとミリヤムの会話が飛び込んできた。


「ミリヤム、俺が前に出るから、お前はレイと真琴から目を離すな!」


ダリーが叫ぶ。


「わかってるわ、ダリー。でも、あなただって無茶しないで。あなたが死んだら、誰が私の言うことを聞くのよ」


ミリヤムが、治癒魔法を構えながら応じる。


「ああ、絶対に死なねぇよ! お前に飯作ってもらえなくなるのはゴメンだ!」


命のやり取りの中で交わされる、二人の、常と変わらない罵り合いと愛情。それは、真琴にとって、この世界での安全の象徴だった。


(この人たちは、本当に、互いを、私をも、守り合っている……)


真琴は、自分は一人ではないと強く感じた。一度死んだ恐怖は消えないが、この信頼があれば、もう石のように固まることはない。


真琴の魔力に、「ゆとり」が生まれた。


「火球!」


真琴は、即座に、ナエルが放つ攻撃に合わせるように、野盗集団の側面へ火球を放った。訓練の時とは比べ物にならない、素早い反応だった。


真琴の火球は、野盗の動きを一瞬止め、レイルズとナエルの攻撃を助ける。


その後の戦闘も、ダリーとレイルズが鉄壁の防御と攻撃で前衛をこなし、ナエルと真琴が攻撃魔法で支援し、ミリヤムが全てを治癒した。野盗たちは、セイブライフの完璧な連携に、為す術もなく逃走した。


依頼は無事に達成され、商隊は隣街へ到着した。真琴は、初めての本格的な護衛任務をやり遂げたという、大きな達成感に包まれた。


「真琴、よくやった」


レイルズが、初めて心からの笑顔を見せた。


「真琴の火球は、完璧なタイミングだったわ。戦闘にゆとりが持てるようになってきている」


ナエルも満足そうだ。


「真琴のポーション、全部飲んじまったけど、また作ってくれよな!」


ダリーが笑い、ミリヤムが優しく真琴の肩を抱いた。


真琴は、皆の労いの言葉に、込み上げてくるものがあった。


「ありがとうございます。皆さんが、私を守ってくれている、支えてくれているのが分かったから、私は動けました。私、このパーティーに入れてもらえて、本当に良かったです」


真琴は、少しだけ涙を滲ませながら、心からそう言った。彼女の目立たない人生は、今、仲間という、かけがえのない光を得たのだ。

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