魔法の開花
真琴が『セイブライフ』に加わってから、最初の二週間はナエルとの訓練に費やされた。
真琴の持つ魔力は巨大だが、それを攻撃や支援という具体的な形に変換するイメージの定着ができていないのが課題だった。
「真琴、あなたはポーションを精製するとき、レシピや呪文を考えないでしょう? ただ『こうなる』と強く思うだけで、魔力が自然と素材と結びつく」
ナエルはそう言って、訓練場で真琴に火球の練習をさせていた。
「戦闘魔法も同じよ。小難しい詠唱じゃなくて、『あれを焼き尽くす』という意思を、あなたの魔力に乗せるの。あなたの魔力は強いんだから、あとはイメージを一点に集中するだけ」
「意志……」
真琴は、目を閉じて、標的の木製人形を『燃やす』と強く念じた。これまでは、火球が手のひらから離れた瞬間に霧散していたが、今回は違った。
淡い緑色の光が、真琴の手から火花を散らすように噴き出し、瞬時に鮮やかなオレンジの火球へと変わった。火球は勢いよく標的へ向かい、着弾すると、ドォンという小さな爆発音と共に、人形の表面を黒く焦がした。
「すごい! 真琴、成功よ!」
ナエルが手を叩いて喜んだ。
真琴の顔は、驚きと喜びで上気していた。魔力の巨大さはレイルズに言われて自覚していたが、それを自分の意思でコントロールできたのは初めてだった。
支援魔法の練習も続けた。ダリーの『身体強化』を練習する際も、ナエルの教えに従い「ダリーを岩のように強くする」というシンプルな意思を魔力に乗せた。
「おぉ! 真琴の支援は効くぜ! なんか身体がムズムズする! これで魔物の攻撃も鉄壁だ!」
ダリーはそう言いながら、ミリヤムに抱きつき、頭をグリグリと擦り付けた。
「ちょっとダリー! あなたの汗でローブが汚れるでしょう! 強化された筋肉を見せたいなら、もっと優雅な仕草でなさいよ!」
「なんだと! こんなもん優雅さなんていらねぇんだよ!」
真琴は、訓練の合間のダリーとミリヤムのやり取りを微笑ましく見つめた。二人の喧嘩は激しいが、訓練中、ダリーは絶対にミリヤムから目を離さず、ミリヤムはダリーが少しでも危ない動きをすれば即座に治癒を準備する。互いを想い合う気持ちが溢れていた。
真琴は、真面目に訓練を続け、戦闘に必要な最低限の魔法を習得していった。




