真実の重み
レイルズの怒りは、真琴が彼を信頼しなかったという一点に向けられていました。真琴は、レイルズに肩を掴まれたまま、その真剣で傷ついた瞳を見て、もうこれ以上嘘を重ねることはできないと悟りました。
(このまま嘘を言えば、レイさんは私を二度と信用してくれなくなる。でも、秘密を話せば、私は『異端』になるかもしれない。それでも、私は…)
真琴は、深く息を吸い込み、決死の覚悟で、囁くように口を開きました。
「レイさん、ごめんなさい。嘘をついていたのは、私を守るためだったんです。金井さんが教えてくれたのは、東方の魔法の技術だけじゃありません。彼は、私がなぜ東方の知識を持っているのか、その理由を知っている唯一の人だったから…」
真琴は、レイルズの手が緩んだ一瞬を見計らい、彼から距離を取りました。そして、周囲で息を潜めて見守るダリーとユーリに視線を送り、レイルズにだけ聞こえるよう小さな声で、早口で伝えました。
「レイさん。私は、この世界の人ではありません。私は、日本の東京という、あなたたちが知らない世界から、死んで、ここに来たんです」
真琴は、周囲の者に秘密が漏れるのを防ぐため、「異世界転移者」という言葉を使わず、核心の情報を打ち明けました。
レイルズは、真琴の突然の発言と、その言葉が持つ重い真実に凍りつきました。ダリーとユーリは理解できませんでしたが、レイルズは、真琴の瞳の切実さと、金井柊平の言動の全てが一本の線で繋がった感覚に襲われました。
(東方の国、金井が言っていた言葉…全て、このことだったのか!)
レイルズは、真琴の秘密の重さに、肩を掴んでいた力が完全に抜けました。怒りは一瞬で消え去り、代わりに深い衝撃と、真琴が抱えてきた孤独の重さを理解し、激しい後悔に襲われました。
「真琴…それは…」
レイルズは、声が出ませんでした。
ユーリは、状況が分かりませんでしたが、真琴とレイルズのただならぬ様子に、重大な真実が語られたことを悟り、静かに真琴を見つめました。
真琴は、レイルズの動揺を静かに見つめながら、必死に言葉を繋ぎました。
「私が金井さんのレッスンを受けたのは、彼が同胞として、私の魔法の才能を信じてくれたからです。そして、私が異世界から来たことを、誰にも言わないという約束を交わしたから…。私は、レイさんたちを裏切ったわけじゃありません。ただ、孤独だったんです。この世界に、私と同じ人間がいないことが…」
真琴は、そこで言葉を詰まらせました。彼女の目からは、とめどなく涙が溢れ出しました。
レイルズは、真琴の涙と告白の重さに、自分がどれほど彼女の心の奥底を理解できていなかったかを悟りました。彼は、真琴の嘘の理由が、「恐怖」と「孤独」にあったことを理解しました。
レイルズは、一歩踏み出し、真琴の細い体を力強く、そして優しく抱きしめました。
「すまない、真琴。俺は、お前を追い詰めた。そんな重い秘密を、一人で抱えさせてしまっていた…」
レイルズは、真琴の背中を強く抱きしめながら、その秘密を、受け入れるという意志を、体全体で伝えました。
「もういい。話さなくていい。お前がどこの世界から来たかなど、どうでもいい。俺にとって、お前は上沢真琴だ。セイブライフの心臓だ。そして、俺が愛する女性だ」
レイルズは、愛という言葉を、他のメンバーが聞いている前で初めて口にしました。それは、真琴の秘密を受け入れ、彼女を守るという、リーダーとしての誓いであり、一人の男としての決意の表明でした。
「金井のことは、もう気にするな。お前の成長は、俺たちが受け止める。だが、これからは、二度と、一人で抱え込むな。お前の孤独は、俺たちが分かち合う」
真琴は、レイルズの力強い抱擁の中で、堰を切ったように泣き崩れました。秘密を共有する同胞の誘惑はあったものの、彼女が最も欲していたのは、やはり愛する者からの完全な信頼でした。
この瞬間、真琴の「秘密の防衛線」は崩壊しましたが、レイルズとの関係は、真実の重さを経て、より強固なものへと変わったのです。
ダリーと、ユーリは、二人のやり取りと、レイルズの言葉に、驚きつつも静かに頷き、リーダーと心臓の間の秘密と絆を、受け入れるのでした。




