レッスン成果の露呈
真琴が柊平とのレッスンで「オールラウンダー」の技術を磨き、その力が最高潮に達した頃、セイブライフは単独で、以前よりも深い階層のダンジョンに潜っていました。レイルズは、真琴の成長を信じつつも、彼女への不安を抱えながら、警戒を強めていました。
その時、一行は広間に出た途端、予期せぬ強力な魔獣『アイアン・ゴーレム』に遭遇しました。この魔獣は、その名の通り全身が硬質な甲羅で覆われ、物理攻撃の防御力が極めて高く、さらに広範囲に麻痺性の震動波を放つ難敵でした。
「ダリー!ヤワン殿と合同の時より硬いぞ!防御を固めろ!」
レイルズが叫びます。
ユーリは得意の連鎖魔法を放ちますが、ゴーレムの甲羅はかすり傷一つ負わず、震動波によって前衛が麻痺し始めました。
真琴は、麻痺が深いのを見て取り、すぐに治癒ポーションにバフをかけて前衛に投げ渡しますが、このままではジリ貧です。
真琴は、この危機的状況で、自分が学んだ新しい力を使わなければならないと確信しました。
(レイさん、ごめんなさい。でも、みんなを守るために!)
真琴は、瞬時に「治癒・支援」の思考回路から「攻撃・補助」の回路へと切り替えました。これは、柊平が教えたオールラウンダーとしての技術の核心でした。
真琴はまず、ゴーレムの甲羅のつなぎ目に、柊平の指導で得た高密度の圧縮型攻撃魔法を連射しました。彼女の魔力制御の精密さは、目標を外しません。
「フレイム・ニードル!」
小さな火の塊が、ゴーレムの脇の下のわずかな隙間に、ドシュッ、ドシュッと音を立てて連続で突き刺さりました。ユーリのような派手な爆発はありませんでしたが、その一点集中型の破壊力は凄まじく、ゴーレムの動きが僅かに止まりました。
「なっ!真琴の攻撃魔法…!?」
ユーリが驚愕の声を上げます。
真琴は、攻撃の手を止めず、魔力が乱れることなく、一瞬で次の魔法に切り替えました。
「ユーリさん!お願いします!ブースト!」
真琴は、ユーリの体に、連鎖魔法の威力を一時的に倍加させる補助魔法を瞬時にかけました。これは、柊平が「支援と攻撃の切り替えの練習だ」と教えた、上級の技術でした。
「!?真琴、お前…わかったわ!」
ユーリは真琴の新しい力に驚きながらも、その好機を逃さず、全力の連鎖魔法をゴーレムに叩き込みます。真琴のブーストを受けた魔法は、ゴーレムの甲羅の弱点を内側から抉り取り、ついに魔獣を大きく崩壊させました。
レイルズは、真琴の指示に従い、最後の力を振り絞ってゴーレムを討伐しました。
戦闘後、全員が無事であることに安堵しましたが、広間は重い静寂に包まれました。皆の視線は、真琴に集まっています。
「真琴、今の…今の攻撃魔法と、あの補助魔法は…なんだ」
レイルズは、低い声で尋ねました。その声には、安堵ではなく、強い動揺と怒りが滲んでいました。
「あんな威力、普通の治癒魔法師が出せるはずがない!それに、あの魔法の切り替えの速さ…薬草の研究で得られる技術ではないだろう!」
レイルズは、真琴に歩み寄り、その肩を掴みました。
「真琴、正直に言え! お前が金井から教わっているのは、何なんだ!その力は、いつから使えた?なぜ俺たちに隠していた!」
レイルズの厳しい問い詰めに、真琴は顔を青ざめさせました。ユーリもダリーも、レイルズの怒りに、息を潜めています。
真琴は、レイルズを裏切ったことへの罪悪感と、自分の力が認められた喜びとの間で激しく葛藤しました。しかし、彼女は、ストーカーの恐怖と同胞の秘密を、この場でレイルズに打ち明けることはできませんでした。
「レイさん…ごめんなさい。これは…私が、皆を守るために、どうしても必要だった力なんです。金井さんは、私の才能に気づいて、無償で教えてくれただけで…」
「無償だと?ふざけるな!」
レイルズの怒声がダンジョンに響きました。
「奴はお前を口説いているんだろう!なぜ、俺に相談しなかった!なぜ、俺を信じて、真実を話してくれなかったんだ!?」
レイルズの怒りの根源は、真琴が危険な男から力を得たことではなく、真琴が自分を信頼しなかったという一点に集約されていました。
真琴は、涙をこらえながら、レイルズから目を逸らしました。
(私の嘘が、レイさんを傷つけている…)
真琴は、このまま嘘を突き通すか、それとも、最も触れられたくない「異世界転移者」という真実を打ち明けて、レイルズの信頼を取り戻すか、究極の選択を迫られることになったのです。




