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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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セイブライフと四人目の仲間

レイルズに連れられて真琴がたどり着いたのは、冒険者ギルドが提供する集合住宅の一室だった。質素だが清潔に整えられたその部屋で、真琴はセイブライフの残りのメンバーと対面した。


パーティー名『セイブライフ』。直訳すれば「命を救う」。その名の通り、無理はせず、安定して稼ぎ、命を最優先にするという、レイルズの思慮深さが表れた目標を持つBランクパーティーだった。目標は、ひとまずAランクに上がることだが、「それもスローライフを崩さない範囲で」というのが彼らの合言葉だ。

真琴が入ることで、彼らは一時的に五人パーティーになる。


まず紹介されたのは、ダリー・キャサウェイ。

中肉中背だが、岩のようにがっしりとした体躯と、ドワーフ族特有の頑強な肉体を持つ、生粋のタンク(前衛)だ。彼の髪と髭は火花のように赤みがかった茶色で、目の色は深い琥珀色。豊かに編み込まれた立派な髭は、彼のドワーフとしての誇りを示していた。


そして、ミリヤム・キャサウェイ。

ダリーとミリヤムは夫婦だ。

エルフ族特有の優美な容姿に、鮮やかな緑色の髪と、澄んだ水色の瞳を持つヒーラーだ。彼女は、ダリーの隣で優雅に立っていたが、その表情は真琴に向けられるというより、ダリーに向けられている。


「この人が、新しい精製師アルケミストの真琴だ」


とレイルズが紹介すると、ダリーが口を開いた。


「へぇ、これが噂のポーション屋か。もっと裏社会のヤニ臭い婆さんかと思ったぜ! それにしても真琴、お前さんの明るい茶髪、綺麗だな」


「ダリー、失礼よ!」


ミリヤムが優雅な仕草でダリーの腕を軽く叩く。


「婆さんなもんですか、可愛いじゃないの。それにしても真琴さん、こんな巨体に囲まれて怯えてない? ダリーは見た目通り脳筋だから気にしないで」


「おいミリヤム! 誰が脳筋だ! お前だって人の心配より、いつも俺の傷口見てニヤニヤしてる治癒狂だろうが!」


「あら、私の神聖な治癒を狂気なんて表現しないで。どうせあなた、その傷が治ったらまた突っ込んでいくんでしょ。本当に学習能力のない脳筋ドワーフね」


「このチビエルフめ! 誰が脳筋だ!」


「あなたよりは優雅で長いわ」


二人の罵り合いは、真琴にとってまるで漫才のようだった。顔は貶し合いながらも、お互いへの信頼と愛情が透けて見える「バカップル」だ。真琴は思わず小さく微笑んでしまった。


「二人とも、真琴の前だ。落ち着け」


レイルズが苦笑しつつ間に入ると、ダリーとミリヤムはピタリと口を閉じ、ミリヤムが


「すみません、真琴さん」


と淑女の顔に戻った。


そして、最後に紹介されたのが、ナエル・アマサ。

黒髪で瞳の色は鮮やかな緑色をしている。彼女は、落ち着いた雰囲気の攻撃魔法使いで、真琴と最も近しい立場になる人物だ。


「ナエル、彼女が、君の代わりに後衛を担うことになる真琴だ」


ナエルは真琴をじっと見つめ、ふっと笑った。


「ナエルよ、よろしくね、真琴。私は今月末で結婚のためにパーティーを抜けることになっているから、それまでの短い間だけど、あなたの教育係を務めるわ。あなたの精製魔術は素晴らしいと聞いている。でも、セイブライフはスローライフが目標とはいえ、危険な場所へも行く。レイが期待している、あなたの戦闘魔術の才能を、私が責任を持って引き出すわ。あなた、真面目そうだから、すぐに上達するでしょう」


ナエルは真琴が、目立たないことを好む、真面目で控えめな女性であることを見抜いていた。真琴の訓練は、ナエルが抜けるまでの重要事項となっていた。


レイルズは真琴に向き直った。


「真琴。君の役割は、精製(ポーション供給)と、後衛(支援・攻撃魔法)だ。精製は君の才能に任せる。問題は後衛だ」


彼は真剣な眼差しで言った。


「俺が君に期待するのは、君の潜在的な魔力量だ。効率は最悪でも、その一撃の威力。それを訓練で制御すれば、大化けする。ダリーとミリヤムは、君の先輩として、優しくしてくれるはずだ。特にダリーは君に甘いだろう。ミリヤムは……口は悪いが面倒見が良い」


真琴は改めて、このパーティーが、自分の命と能力を真剣に考えてくれていることを感じた。


「あの……皆さま、私、上沢真琴です。至らない点ばかりですが、どうかよろしくお願いします」


頭を下げた真琴に、ダリーが大きな手でそっと頭を撫でた。


「気にすんな、可愛い後輩。お前は可愛いし、ポーションは助かるし、最高だ! 安全は俺が守ってやる」


真琴は、その温かい歓迎に、異世界に来て初めて、本当に心が和むのを感じた。


(初恋の人に似たレイルズさん、優しくしてくれるナエルさん、そして賑やかな二人……)


目立たないように生きてきた真琴だったが、このパーティーでは、彼女の真面目さと控えめな性格が逆に功を奏し、皆から可愛がられる「末っ子」のような立ち位置を得ることになるだろう。


真琴の新たな異世界生活は、ここから始まった。目指すは、スローライフのためのAランクパーティー。そして、戦闘魔法の訓練。レイルズという、初恋の面影を持つリーダーの傍で。

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