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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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究極の屈辱

ユーリは、瓦礫の陰で立ち尽くしたまま、レイルズと真琴を見ていました。レイルズが真琴の肩を抱き、その冷静な判断を心から賞賛する姿。そして、自分に向けられた「魔法が乱れた」という指摘と、「理由は後で聞く」という、リーダーとしての冷徹な追及。


ユーリの勝ち気な自尊心は、完全に粉砕されました。


実力での敗北: ポーション対決で、真琴の品質と効率に敗北。


連携での敗北: 自身の独断専行が崩落を招き、最終的に真琴の冷静な防御支援に頼る形となった。


信頼での敗北: レイルズは、窮地において真琴の判断を信頼し、ユーリの推進力を危険視した。


承認欲求の挫折: 功績を焦った結果、最も避けたい「集中力欠如」という弱点を露呈し、レイルズの信頼を失った。


勝ち気でさっぱりとしたユーリにとって、これ以上の屈辱と、目標の喪失はありませんでした。彼女のレイルズへの感情は、もはや「手に入れたい賞品」から、「絶対に手に入らない理想」へと変質し、その理想に近づこうとした自分自身の努力が、逆に自己否定へと繋がったのです。


彼女は、ここで粘り、再び叱責を受け、真琴と比較され続けることを、自身のプライドが許しませんでした。ユーリは、「さっぱりとした」性格に合致する、最も迅速で、最も痛烈な形で、この状況を終わらせることを決意しました。


パーティーがダンジョンから帰還し、宿屋の広間で夕食をとっていた時のことです。レイルズは、食後にユーリに昨日の件を尋問しようと考えていました。


ユーリは、普段と変わらない活発さで皆と食事を済ませると、食後の団欒の時間、真っ直ぐにレイルズを見つめました。


「レイさん、皆。話があります」


ユーリの声は、張り詰めていましたが、一切の感情の乱れを感じさせない、さっぱりとした調子でした。


「私、セイブライフを抜けます」


その一言に、広間の空気が凍りつきました。ダリーは手に持っていたジョッキを落としそうになり、ミリヤムは口元を押さえ、真琴は顔色を変えました。


レイルズは、すぐに真剣な表情に戻りました。


「ユーリ、待て。昨日の件で、感情的になっているだけだ。俺の注意は、お前を責めているわけじゃな…」


「感情的になんかなっていません、レイさん」


ユーリはレイルズの言葉を遮りました。


「私は、レイさんが何を求めているか、分かりました。レイさんが、セイブライフが求めるのは、揺るぎない品質と、冷静な判断、そして心臓としての安定です」


ユーリは、真琴の方を一瞥しましたが、その視線に憎しみはありませんでした。ただ、敗北を認める静かな諦念が漂っていました。


「それは、真琴さんの才能と努力によって、既に最高レベルで満たされています」


ユーリは、レイルズの目をまっすぐに見つめ、強い口調で続けました。


「私は、勝ち気で活発なアタッカーです。レイさんの指示を無視してでも、自分の推進力を証明しようと動いてしまう。それは、セイブライフの理念には合わないということです。私の性質は、このパーティーの『心臓』に負担をかけるだけです」


「だから、このまま留まって、真琴さんの心臓に負荷をかけ続けるくらいなら、私は自分で新しい道を探します。それが、セイブライフにとっても、私自身にとっても、最も効率的で合理的な決断です」


彼女は、自分の去り際にも合理性と効率を持ち出し、敗北の理由を「パーティーの理念と自分の性質の不一致」という形に昇華させました。これは、ユーリの最後の、そして最大のプライドの守り方でした。


「もう決めたことです。引き止めは結構です。短い間でしたが、ありがとうございました」


ユーリはそう言い残すと、椅子から立ち上がり、自分のテントへと向かい、荷物をまとめ始めました。その足取りは、活発な彼女らしく、迷いがありませんでした。


レイルズは、ユーリの「さっぱりとした」そして「勝ち気な」離脱の言葉に、何も言い返せませんでした。彼女の言うことは、リーダーとして否定できない真実を含んでいたからです。レイルズは、ユーリの才能は惜しいと感じましたが、彼女の不安定さがパーティーを崩壊させる危険性を、今回の崩落事故で痛感していました。


レイルズが立ち上がり、ユーリを追いかけようとした、その時。


真琴が、レイルズの前に一歩踏み出しました。


「レイさん、待って」


真琴は、ユーリが去った扉を見つめていました。


「ユーリさんは……本当に、このまま行ってしまうつもりだと思います。レイさんが何を言っても、今は、自分のプライドを守るために、ここで立ち止まることはできないでしょう」


真琴は、かつて自分がストーカーに怯え、逃げ場を探していた時の、孤独な焦燥を、ユーリの表情の中に見抜いていました。


「でも、私もユーリさんの実力は必要だと思います。ユーリさんの推進力がなければ、私たちはもっと時間をかけて魔物を倒さなければならない。レイさんが私を『心臓』と呼んでくれたなら、私は、その推進力を支える土台でありたい」


真琴は、レイルズにではなく、去って行ったユーリの背中へ向けた決意を込めて言いました。


「レイさん。ユーリさんは、私の支援を、私の心臓を必要としているはずです。そうでなければ、私のポーションの品質をあんなに気にするはずがない」


真琴の言葉は、ユーリの去り際ではなく、ユーリの根底にある動機に焦点を当てていました。


「私に、ユーリさんのところへ行って、話させてください。最後にもう一度だけ、私の支援と、私の心臓が、ユーリさんの推進力にどれほど必要かを、伝えさせてください」


真琴は、「臆病な私」を乗り越え、「心臓」として、レイルズの承認を求めるライバルへ、初めて自ら歩み寄ろうとしていたのです。

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