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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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崩れるユーリの壁

ユーリは、激しく葛藤しました。崩落という予期せぬ事態は、彼女が望んだ「真琴より目立つ機会」ではありましたが、レイルズの指示は「動くな」。


(今、私が強引に突破すれば、レイさんは私を英雄と見てくれるはず。真琴の「防御固め」なんて悠長なことをしている間に……)


しかし、彼女の脳裏に、レイルズが自分に釘を刺した時の、あの思慮深く、そして厳しい眼差しがよみがえりました。


「二度と独断で動くな。パーティーの連携を乱すことは、命を軽んじることだ」


ユーリは、自分のプライドを満たすために、再びレイルズの信頼を失うこと、そしてリーダーの指示を無視して「命を軽んじた」と判断されることを恐れました。勝ち気な彼女にとって、レイルズの承認は、もはや恋愛感情を超えた自己肯定の源となっていたのです。


ユーリは、悔しさを押し殺して、真琴の方を向きました。


「わ、分かったわよ。レイさんの指示に従う。真琴さん、周囲の魔物を鈍らせる魔法ディレイを優先して。防御は私が魔法障壁で持つ」


ユーリは、真琴の判断に従う、という屈辱的な選択をしました。真琴の支援魔法に頼り、防御に徹する。それは、彼女の「推進力」を封じ、「心臓」の指示で動くことを意味しました。


真琴は、すぐに冷静な声で応じました。


「はい!ユーリさんの魔法障壁の持続性を高める支援も同時にかけます!」


真琴は、恐怖を感じながらも、天恵によって鍛えられた冷静な頭脳で、最適解の詠唱を始めます。彼女は、治癒ポーションの瓶をすぐ手に持ったまま、魔物の動きを鈍らせる魔法と、ユーリの防御魔法を強化する支援魔法を重ねて発動しました。


広間の奥に閉じ込められた二人は、真琴の緻密な支援とユーリの強固な魔法障壁によって、残った魔物からの攻撃を最小限に抑え込み、時間を稼ぎ始めました。


瓦礫の向こう側では、レイルズとダリーが、レイルズの指示通り、瓦礫の排除を始めていました。


「レイ!真琴のやつ、動かないで防御に徹しているぞ!リーダーの指示を守っている!」


ダリーが雄叫びを上げながら、巨大な岩を叩き割ります。


レイルズは、瓦礫の隙間から時折聞こえてくる、真琴の落ち着いた詠唱の声に安堵しました。


(真琴は、冷静だ。ユーリの焦燥に流されず、正しい判断をした……)


レイルズは、瓦礫の向こうにいる真琴の精神的な成長と、リーダーの指示に従う信頼性の高さを再確認しました。それは、ユーリの攻撃力よりも遥かに、セイブライフの未来にとって重要だと感じさせるものでした。


一分、また一分と時間が経過するごとに、ユーリの心は削られていきました。


(私は、真琴の支援に頼って、動かずにただ防御しているだけ……。私がここに留まっているのは、私の推進力が通用しないからじゃない。レイさんが真琴の判断を優先したからだ。私は、レイさんに優秀さを示したかったのに……)


真琴は冷静に魔物の動きを観察し、的確なタイミングでユーリの防御障壁を強化し続けます。


「ユーリさん、魔物の足が止まりました。今、治癒ポーションのバフをかけます。少しでも回復力を上げておきましょう」


真琴の気遣いと的確な連携が、ユーリの神経を逆撫でしました。真琴は、自分の功績を誇示することなく、ただ自分の役割を完璧に遂行している。それこそが、ユーリの功績至上主義とは対極にある、レイルズが求める「心臓」の姿だったのです。


ユーリは、突如として激しい焦燥感に襲われ、魔物に向かって突撃しそうになりましたが、レイルズの厳しい視線を思い出して寸前で踏みとどまりました。


「クソッ……」


ユーリは、小さな声で悪態をつきました。


その時、ユーリを包んでいた魔法障壁が、一瞬、目に見えて揺らぎました。


「ユーリさん!?」


真琴はすぐに気づき、慌てて治癒ポーションをユーリに飲ませると同時に、再び防御支援魔法を重ねます。


「ユーリさん、大丈夫ですか?集中を!」


ユーリは、真琴の焦った声にハッとしました。


(私……集中を切らした?私が、真琴の支援を受けながら、魔物の攻撃も受けていないのに、防御魔法を乱すなんて……)


ユーリは、自分の中にある激しい焦燥が、魔法の制御にまで影響を与えていることに気づきました。彼女の心は、真琴に負けているという屈辱と、レイルズの信頼に応えられないという絶望で、初めて大きく動揺していたのです。


その直後、瓦礫の向こうから、光が差し込みました。レイルズとダリーが、ついに通路をこじ開けたのです。


「真琴!ユーリ!」


レイルズは、瓦礫の隙間から飛び込むと、すぐに真琴のそばへ駆け寄りました。


「よくやった、真琴。お前の判断が、俺たち全員を救った」


レイルズは、真琴の肩を抱き、心からの安堵の表情を見せました。真琴は、その温かい抱擁に、涙があふれそうになるのを必死でこらえました。


一方、ユーリは、瓦礫の陰で立ち尽くしていました。レイルズの駆け寄る先は、常に真琴。そして、自分の唯一の功績は、「リーダーの指示に従ったこと」だけ。


レイルズは、すぐにユーリの方を振り返り、優しくも厳しい口調で言いました。


「ユーリも、よく指示に従ってくれた。ありがとう。だが、お前、今、魔法が乱れたな。集中が途切れていたぞ。理由は後で聞く」


レイルズは、ユーリの小さな動揺を見逃しませんでした。彼にとって、ユーリの「魔法が乱れた」という事実は、真琴の警告を無視し、功績を優先しようとしたユーリの未熟さの現れであり、信頼性という点で真琴に大きく劣っていることを示していたのです。

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