予期せぬ事故
ユーリは、真琴との連携を強化することで、レイルズの望む「良いパーティーメンバー」という評価は得られました。しかし、レイルズが真琴に向ける個人的な眼差しや、夜の居間での親密な会話の光景は、ユーリの胸をざわつかせ続けました。レイルズが真琴を「心臓」と呼んだことは、ユーリの「推進力」という役割が、結局は真琴の安定の上に成り立っている、という事実を突きつけているようでした。
勝ち気なユーリは、この状況を打開するためには、戦闘の場で真琴の支援よりも、自分の推進力が上回る、決定的な瞬間を作り出すしかないと考えました。そして、レイルズが真琴の支援に頼り切れないような、予期せぬ危険を伴う状況こそ、自分が真の英雄になれる場だと判断したのです。
セイブライフは、地下深くへと続く、崩れやすい構造の古代遺跡ダンジョンに挑戦していました。
レイルズが先頭、ダリーがタンクを務め、真琴とユーリが後衛を務めるいつもの布陣。ユーリは、真琴の防御支援を要求しつつも、周囲の壁の脆さに注意を払っていました。
ある大きな広間に差し掛かったとき、真琴は天恵が持つ素材への洞察力とは別に、周囲の「流れ」が乱れているのを感じました。
「レイさん、待って!この広間の奥、地脈が不安定です。足元が危険かもしれません!」
真琴の警告は、ポーション作りの天恵とは関係ない、転移者としての直感でした。
しかし、ユーリは真琴の警告を聞くと、焦燥と決意の混ざった表情で、レイルズに提案しました。
「レイさん、大丈夫です!あの奥にいる魔物の群れ、真琴さんの支援を受けて、私が一気に殲滅します!崩れる前に終わらせましょう!」
ユーリは、真琴の警告を否定し、自分の圧倒的な推進力で危険を乗り越えるという、強硬な手段を選びました。そして、真琴の敏捷性強化魔法を受けると同時に、広間の中央へ猛スピードで突っ込みました。
ユーリが強力な連鎖魔法を放ち、魔物たちが次々と崩れ落ちる最中—―
ドゴォォォン!
真琴の警告が現実となり、広間の天井と、パーティーが立っていた入口付近の通路の一部が、激しい音を立てて崩落しました。
砂塵が舞い上がり、視界がゼロになります。
「ダリー!真琴!ユーリ!」レイルズの叫び声が響きます。
砂塵が収まると、パーティーは分断されていました。崩落した岩と瓦礫が壁となり、レイルズとダリーは広間の入口側で孤立。ユーリと真琴は、魔物の残骸がある広間の奥深くに残されていました。
「真琴!ユーリ!大丈夫か!?」ダリーが岩を叩く音が響きます。
「大丈夫です。でも、魔物がまだいます。」
真琴が答えました。
広間の奥にいるのは、息を切らしたユーリと、顔を青ざめさせた真琴だけ。しかし、魔物はまだ数体残っており、瓦礫の崩れた音に誘われて、さらに奥から新たな魔物が出現し始めていました。
ユーリは、自分が真琴の警告を無視し、崩落を招いたことに一瞬、動揺の色を浮かべました。しかし、勝ち気な彼女はすぐに頭を切り替えます。
(これはチャンスだ。私が、真琴を連れてこの状況を脱出すれば、レイさんに真琴よりも頼りになる、と証明できる!)
「真琴さん!魔物が来るわ!私は攻撃で道を切り開くから、あなたは私に治癒ポーションのバフと加速を集中させて!私たちは自力でレイさんたちのところまで戻るわよ!」
ユーリは、真琴の支援と治癒能力を、自分の推進力のために最大限に利用しようとしました。それは、真琴の命を守ることよりも、自分の功績を最優先する行動でした。
真琴は、ユーリの言葉に反射的に応じようとしましたが、瓦礫の向こう側から、レイルズの声が聞こえてきました。レイルズの声は、怒りや焦りではなく、冷静で強いリーダーの響きを帯びていました。
「ユーリ、真琴!聞け!動くな!無理に戻ろうとするな。ユーリの魔法は強力だが、今は瓦礫で視界が悪すぎる。真琴のポーションと支援魔法で、その場で防御を固めろ。時間を稼げ!ダリーと俺が、必ず道を切り開く!絶対に無駄な戦闘をするな!」
レイルズの指示は、「個人の功績」よりも「全員の生存」を優先する、セイブライフの理念そのものでした。
ユーリは、レイルズの言葉に再び動きを止めました。彼女は、レイルズに逆らえば、再びリーダーの権威を傷つけることになるのを恐れました。
真琴は、レイルズの指示が、自分の直感と「命を大事にする」という理念に合致していることを理解しました。彼女は、ユーリの功績優先の提案ではなく、レイルズの信頼優先の指示に従うことを決めました。
「ユーリさん!レイさんの指示です。防御支援と、周囲にいる魔物の動きを鈍らせる魔法をかけます!消耗を避けましょう!」
真琴は、レイルズが自分に送ってくれた信頼を裏切らないため、恐怖を押し殺して、冷静に、かつ正確に支援魔法の詠唱を始めました。
ユーリは、自分が望んだ「英雄になる状況」で、レイルズが真琴の支援能力と判断力を信頼したことに、内心で激しい動揺を覚えました。彼女は今、真琴の支援なしには、自分の推進力も制御を失うという現実を突きつけられたのです。




