不器用な歩み寄り
レイルズの「心臓」と「推進力」という言葉は、ユーリの心にも深く刺さりました。彼女の競争心は満たされましたが、リーダーであるレイルズの望みが「信頼と連携」であることを理解した以上、勝ち気でさっぱりとしたユーリは、その方向へとエネルギーを転換するしかありませんでした。
しかし、ユーリにとって、真琴のように内向的で繊細なタイプと「連携」を取るのは、攻撃魔法で魔物を焼き尽くすよりも難しい課題でした。
(私は矛。真琴は心臓……。心臓が頼れる矛になるには、心臓が動きやすいようにしないといけない、ってことよね。ふん、レイさんは私に、真琴のお守りをしろって言ってるみたいじゃない!)
不満は残りますが、レイルズの決定は絶対です。ユーリは、自分のプライドを保ちつつ、真琴との連携を強化する方法を考え始めました。
翌日、セイブライフは再びダンジョンへ潜りました。ユーリは宣言通り、攻撃役として完璧に立ち回ります。ただ一つ変わったのは、彼女が戦闘前に必ず真琴に声をかけるようになったことです。
「真琴さん、次の部屋は広そうよ。奥に硬い魔物がいるかもしれないから、防御支援と敏捷性強化、いつでも頼むわね。私が一瞬で距離を詰めるから」
「はい、ユーリさん!すぐに準備します!」
以前なら、真琴の支援など当てにせず、勝手に突き進んでいたユーリが、具体的な魔法を指名して依頼してきたのです。これは、真琴の「支援」を初めて正面から信頼した証拠でした。
真琴も、自分の支援がユーリの推進力を高めるために必要とされていることを強く感じ、詠唱に熱が入ります。
戦闘中、ユーリが真琴の敏捷性強化魔法を受け取った瞬間、その動きはさらに俊敏になり、真琴の支援がユーリの戦闘スタイルを真に加速させていることが、誰の目にも明らかでした。
戦闘後、ユーリは真琴のそばに戻り、少し早口で言いました。
「真琴さん、今の敏捷性強化、タイミング完璧だったわ。あれのおかげで、最後の魔物の攻撃を避けられた。サンキュー」
「いえ、ユーリさんの動きが素晴らしかったから、魔法が生きたんです」
「ふん」
ユーリは鼻を鳴らしましたが、その表情は心なしか穏やかでした。彼女は、「連携」という形で勝利を得ることにも、新たな楽しさを見出し始めていたのです。
その日の夜、真琴はユーリとの間に生まれた、不器用ながらも確かな連携に安堵し、暖炉の火のそばでレイルズに話しかけました。
「レイさん。ユーリさん…今日は、私を頼ってくれました。レイさんのおかげです」
真琴の素直な感謝に、レイルズは暖炉の炎を見つめながら微笑みました。
「真琴。それは俺のおかげじゃない。お前が最高の品質でパーティーを支え、勇気を持ってユーリの挑戦を受け入れた結果だ。ユーリは勝ち気だが、素直なところもある。お前の揺るぎない実力に、彼女が敬意を払ったんだ」
レイルズは、真琴の茶色の髪に優しく触れました。
「お前はもう、一人で怯えていたあの日々の上沢真琴じゃない。俺たちの『心臓』だ。俺は、お前が自分の力でユーリと向き合い始めたことが、何よりも嬉しい」
そう言うと、レイルズは真琴の目を深く見つめました。
「あの時、ユーリに釘を刺した俺の行動を、お前はきっと気遣ってくれているんだろう。だが、俺がユーリに言ったことは、リーダーとして当然のことだ。そして、お前に言った『いつでも話を聞く』という言葉に、嘘はない」
レイルズの瞳には、リーダーとしての信頼と、それ以上の個人的な温かさが混ざり合っているように見えました。真琴は、レイルズが自分に対して抱いている感情が、単なる「末っ子を可愛がる」という域を越えているのではないかと、淡い期待を抱かざるを得ませんでした。
ユーリの競争心は「連携の最大化」という形で昇華され、セイブライフは再び安定を取り戻しました。しかし、ユーリが真琴との連携を強めれば強めるほど、戦闘中のレイルズ、ユーリ、真琴のトライアングルは、より密接なものとなっていきます。




