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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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天恵と努力

真琴はユーリとの「競争」宣言を受けてから、夜間のポーション作成に没頭するようになった。ユーリが提案した「薬効は落ちるが、生産効率二倍」の製法を打ち破るには、真琴の天恵と努力、両方が必要だった。

ユーリの製法は、一部の薬草を高温で一気に抽出することで、時間を大幅に短縮していた。しかし、真琴の天恵によれば、その工程で貴重な成分が熱分解を起こし、結果として効能が九割に落ち込む原因となっていた。


(品質を落とさずに、どうやって時間を短縮する?ユーリさんの言う通り、大量生産が必要な状況は必ず来る。私の天恵は『最善の製法』を教えてくれるけど、『最速の製法』は教えてくれない……)


真琴は、自身の知識とユーリの合理的なアプローチを組み合わせる作業に、極度の集中力を要した。元の世界でのストーカー事件以来、彼女の心は常に張りつめており、この競争のプレッシャーは、静かに真琴の心身を蝕み始めていた。夜遅くまで火を使い、煙が立ち込める中で作業をする真琴の姿は、部屋の灯りを通してレイルズの目にも留まっていた。


ある夜、真琴が目を閉じ、天恵が示す素材のエネルギーの流れをイメージしようと試みていると、部屋の入り口からレイルズが静かに声をかけた。


「真琴、いるか?少し、話せるか」


「レ、レイさん…はい」


真琴が顔を上げると、レイルズは暖炉の火のそばに座るよう促し、温かいミルクを差し出してくれた。


「無理をしているんじゃないかと思って」


レイルズは優しく言った。


「ユーリさんとの競争のことですか?」


真琴はうつむき、小さく頷いた。


「ユーリさんは、正しいんです。私のポーションは時間がかかりすぎる。もし、私たちが大きな魔物の群れに囲まれた時、補充が間に合わなければ…」


「真琴」


レイルズは静かに遮った。


「確かに効率は重要だ。だが、お前が作ってくれるポーションの信頼性は、他の何物にも代えがたい。九割の効能のポーションを二倍持っているより、確実な効能のポーションを一通り持っている方が、俺は前線で戦いやすい。俺たちは命を大事にするパーティーだ。その命綱に、一割の不安要素を持ち込みたくはない」


レイルズは、真琴の手からミルクの入ったマグカップを受け取り、その両手を自分の大きな手で包み込んだ。真琴は、あの時ユーリの前で守られた時と同じ、暖かな感触に、涙腺が緩むのを感じた。


「お前が一生懸命取り組んでいるのは知っている。だが、その努力がお前の心に負担をかけているんじゃないかと、心配なんだ」


レイルズの瞳は、まるで曇った緑色のように優しく、真琴の心を見透かしているようだった。


「真琴。心に負担があったら、いつでも言ってくれ。俺はお前のリーダーだ。いつでも、お前の話を聞くから。一人で抱え込む必要はないんだ」


その言葉は、真琴の張りつめていた心を解きほぐした。彼女が元の世界でストーカーに怯え、誰にも相談できず孤独に追い詰められていた時、誰も言ってくれなかった言葉だった。真琴は、こみ上げる涙を堪えきれず、小さな嗚咽を漏らした。レイルズは何も言わず、ただ優しく真琴の肩を抱き寄せ、その背中をゆっくりと撫で続けた。


その夜、レイルズの優しさに触れたことで、真琴は心の重荷を下ろし、翌日からよりクリアな頭で作業に取り組めるようになった。


レイルズの励ましを受けて数日後、真琴はついに第三の製法を発見した。


それは、ユーリが高温で成分を分解させてしまっていた工程に、微量ではあるが真琴独自の素材を組み込むことで、熱分解を防ぎつつ、抽出時間を短縮するという画期的な方法だった。


この第三の製法により、ポーションの品質(効能)は一切落とさずに、生産速度はユーリの製法にはわずかに及ばないものの、一・八倍に向上した。


その週の終わり、真琴とユーリはそれぞれが作ったポーションのサンプルと、生産記録をレイルズ、ダリー、ミリヤムの三人に提出した。


まず、品質検証が行われた。ミリヤムの治癒魔法とポーションの効果を重ねて検証する実験で、真琴が作ったポーションは、以前と同じく完璧な効能を示した。一方、ユーリが作ったポーションは、やはり効能が九割に留まっていた。


次に生産性検証。真琴は、新しい製法では生産速度が一・八倍になったことを伝えた。


レイルズは、二人の功績を讃えるように手を叩いた。

「素晴らしいぞ、真琴、ユーリ。二人とも、パーティーの課題を見事に解決してくれた」


そして、レイルズは最終的な判断を下した。

「セイブライフは、真琴の新しい製法を主たる製法として採用する。ユーリ、君の提案した製法は、品質を犠牲にしている。一・八倍の生産速度と、絶対に裏切らない品質。命綱であるポーションに、不安要素は不要だ」


真琴の天恵と、それに基づいた努力が、ユーリの合理性と活発さを打ち破った瞬間だった。


ユーリは、その結果に一瞬、感情のない表情を浮かべた。二度目の敗北、それも自分が最も得意とする「効率」と「合理性」で、真琴に敗れたのだ。


しかし、彼女は「勝ち気でさっぱりとした」タイプだ。負けを認めないのはプライドが許さないが、いつまでも引きずるのも性に合わない。


ユーリはすぐに、真琴に向かって手を差し出した。


「真琴さん。私の負けです。あなたの製法、本当にすごい。悔しいけど、レイさんの言う通り、最高の品質は命を救いますね」


そして、ユーリはレイルズに向かって、いつもの活発な笑顔を見せた。


「レイさん、私、負けた製法についてはもう諦めます。その代わり、次のダンジョンでは、誰よりも多くの魔物を討伐して、最強の攻撃役としてパーティーに貢献してみせますから!」


ユーリの競争心は、ポーションから戦闘へとシフトした。彼女のレイルズへの執着は消えていないが、これからは真琴の居場所を奪うのではなく、自分の強みを極限まで伸ばすことで、レイルズの承認を得ようとする道を選んだのだ。


真琴は、ユーリの手を握り返し、微笑んだ。


(ユーリさんの闘志は、きっと私を強くしてくれる)


そして、真琴はレイルズに視線を向け、心から感謝の意を込めて頷いた。ポーションの改良競争は終わったが、真琴とユーリ、そしてレイルズを取り巻く、見えない緊張感はまだ続いていくのだった。

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