天恵と効率、第三の視点
ダンジョン探索から戻った日の夜。真琴とユーリは、次の冒険に備えて、ポーションの在庫整理と補充作業をしていた。ダリーとミリヤムはもう眠りについている。レイルズは火の番をしながら、二人の作業を見守っていた。
真琴は、天恵に従って薬草を煮詰める作業を終え、透き通った治癒ポーションの瓶を並べた。
ユーリは、そのポーションを一つ手に取ると、活発な調子で、しかし挑発的な響きを込めて声を上げた。
「真琴さん、ちょっといいですか?」
「は、はい、ユーリさん」
真琴は、ユーリの視線から、その意図を察し、身構えた。
ユーリはレイルズにも聞こえる声で話し始めた。
「この治癒ポーション、色がすごく綺麗で、効能も完璧なのは知っています。真琴さんのポーションは、品質が市場に出ているものよりも頭一つ抜けている。それは認めます」
そう前置きをした上で、ユーリは核心を突いてきた。
「でも、この『月光草』の処理、見ていて思うんですが、一つ作るのに時間がかかりすぎませんか?」
真琴は、内心で動揺した。彼女の調薬法は、素材の持つ力を最大限に引き出すための、最適解だ。しかし、それは必然的に手間と時間がかかる。
「これは、素材の力を最大限に引き出すための、最善の製法なんです」
「それは分かります。でも、レイさんの言う通り、セイブライフは命を大事にするパーティーですよね?」
ユーリはレイルズの言葉を巧みに引用した。
「大規模な戦闘や連続したダンジョン探索では、量が必要になります。真琴さんのやり方だと、一週間で最大何本できますか?十本?二十本?」
ユーリは、彼女らしい勝ち気な合理主義に基づき、持論を畳みかけた。
「私、この薬草の処理を、少し短縮する方法を試してみたんです。薬効は真琴さんのものより少し落ちるかもしれませんが、同じ時間で二倍のポーションを作れます。品質の安定は真琴さんの強みですが、前線での命を守るためには、効率的な生産性も重要じゃないでしょうか? 品質が九割でも、数が二倍あれば、パーティーの安全性は高まるはずです」
ユーリの言葉は、真琴の天恵による製法を、非効率だと断じるものだった。それは、真琴がこの異世界で得た、最も重要な存在価値への挑戦だった。
真琴は、口ごもる代わりに、きつく奥歯を噛み締めた。内向的な自分を引っ込ませようとする、ユーリのプレッシャーに屈してはならない。レイルズに守られてばかりではいけないのだ。
「ユーリさん。ありがとうございます。確かに、効率は重要です」
真琴は、一呼吸置いた。ポーション作りは、この世界での彼女の居場所そのものだ。逃げるわけにはいかない。
「でも、品質が九割では、いざという時の信頼性を欠きます。私の製法は時間がかかりますが、これは素材が持つ力を逃さないための絶対的な工程です。ユーリさんの言う製法を、今度私も試してみて、品質を落とさずに量産できる、ユーリさんの製法を越える第三の効率的な方法があるか、見つけてみます」
真琴は、ユーリの目をしっかりと見つめた。そこには、以前の怯えはなかった。天恵という誰にも譲れない才能を盾に、努力でユーリの合理性を打ち負かそうという、強い決意が宿っていた。
「そして、その結果で、どちらの製法を主として採用するか決めましょう」
真琴が珍しく言い返してきたことに、ユーリは一瞬目を丸くしたが、すぐに勝ち気な笑顔に戻った。その瞳には、真琴がこれほどまでに反抗したことへの、新たな闘志が宿っていた。
「いいですね!それこそがパーティーに必要な姿勢ですよ、真琴さん。競争しましょう!」
ユーリはそう言って作業に戻ったが、その背中からは、真琴の得意分野を打ち破り、レイルズの関心を完全に自分に向けようという、強い執着と敵意が感じられた。
火の横で、レイルズは煙ったような緑色の瞳で二人のやり取りを最初から最後まで見守っていた。彼の口元には、真琴が臆することなくユーリの挑戦を受けたことへの、微かな笑みが浮かんでいた。しかし、その眼差しは、二人の間の張り詰めた緊張をどう扱うべきか、深く思慮しているようでもあった。




