新たな決意の味
真琴が新たな決意を胸に、自らレイルズに話しかけたこと。そして、レイルズが護衛を引き受けてくれたこと。その全てが、彼女に確かな自信を与えていた。
「ダリー、真琴、ユーリ。準備はいいか。今日は森の奥、『囁きの沢』周辺まで足を伸ばすぞ」
パーティーリーダーであるレイルズ、金髪の剣士が凛とした声で指示を出す。
「おうよ、真琴、ユーリ!俺たちの後ろにしっかりついてろ!」
タンク役のドワーフ、ダリー・キャサウェイが豪快に笑い、その横で、エルフのミリヤム・キャサウェイが愛嬌たっぷりな口調で夫を貶める。
「ダリーったら、大口叩いて!あなたこそ、真琴ちゃんに迷惑かけないようにね。ほら、真琴ちゃん、何かあったら遠慮なく私に言ってちょうだいね!」
「誰が迷惑かけるか、このチビエルフめ!」
「なんですって、この小石ドワーフ!」
二人の楽しげな応酬は、セイブライフの日常風景だ。
「はい、ミリヤムさん。ありがとう。行ってきます!」
真琴も自然と笑顔になる。
ユーリは、金色のショートカットを揺らし、活発な足取りで前に進む。
「よし、じゃあ、私も薬草をたくさん見つけなきゃね!」
彼女はレイルズのすぐ後ろ、真琴の斜め前という位置取りをキープした。真琴に無意識のプレッシャーを与える、彼女らしい巧妙な立ち位置だった。
森は深く、真琴とユーリはそれぞれポーションや薬剤の素材となる薬草を次々と発見していく。真琴は採取に集中しながらも、ユーリが時折レイルズに話しかけているのを感じていた。だが、以前のように萎縮することはなかった。
素材採取が順調に進み、一息入れるために、一同は開けた場所で昼食をとることにした。
「さあ、お楽しみのお弁当タイムだ!」
ダリーが声を上げる。
真琴はアイテムボックスから、昼食を次々と取り出した。メインは、ピザパンと、具材がたっぷりと入ったクリームシチューだ。ピザパンのベースには、真琴が以前トマトの類似種から作り置きした自家製のトマトソースをふんだんに使っている。
「おお!これは美味そうだ!」
ダリーが目を輝かせる。
真琴は以前元の世界の調味料を出してしまい、咄嗟に「東方の故郷の味」と苦しい説明をした事を思い出し、少し笑みがこぼれる。
「いただきます」
レイルズが口にして、ゆっくりと咀嚼した。
「…真琴。このシチュー、以前よりも深みがある。パンも、このトマトソースが効いているな。パンとチーズとベーコン、野菜の組み合わせもベストマッチだ」
レイルズは煙ったような緑色の瞳を細めて微笑んだ。
「本当に美味しい。ありがとう」
その穏やかな、心からの感謝の言葉に、真琴の胸は温かくなった。
「このトマトソース、本当に美味しいね。真琴さん、料理上手なの羨ましいな」
ユーリも口にはしたが、その言葉にはどこか空虚な響きがあった。以前、真琴が
「今度一緒に作りましょうか?」
と誘った時、ユーリは
「うーん、私、食べる方が専門で」
と乗り気でない様子だったのを真琴は思い出す。ユーリは、外で活発に活動することに重きを置くタイプなのだろう。
昼食後、帰路につこうとしたその時、魔獣の群れに遭遇した。しかし、レイルズの剣、ダリーの堅牢な守り、そして真琴とユーリの魔法が連携し、それは難なく蹴散らされた。
安全圏まで戻る道すがら、真琴は意を決してレイルズに話しかけた。
「レイさん、あの、さっき集めた『月光草』なんですけど、今回は治癒ポーションよりも、支援魔法の持続力を高める薬剤に使うのはどうでしょうか?」
「支援魔法の持続力、か。ナエルがいなくなって、その部分は手薄だからな。…いい案だ、真琴」
レイルズは真剣な顔で頷き、真琴の意見に耳を傾けてくれた。素材の利用法について、二人はしばらく歩きながら話し合った。
真琴は、ふとユーリの様子を窺ったが、彼女は何も割って入ってこなかった。ただ、少し離れたところでダリーと話しながら、二人を見つめる藍色の瞳の奥に、何か冷たい光を宿しているように見えた。だが、真琴は視線をすぐにレイルズに戻し、会話を続けた。
宿に戻った真琴とユーリは、集めた素材でポーションや薬剤を次々と作り上げた。一部はパーティーの取り置き分とし、残りをまとめて商店に売却した。
売上金は、二人のおかげでかなりの額になったため、真琴とユーリが少し多めに受け取り、残りを皆で分けた。その夜は、その成功を祝し、宿屋の食堂でささやかな祝杯があげられた。
打ち上げの席では、やはりユーリが積極的にレイルズに話しかけた。
「レイさん、次の目的地はどこがいいですか?私は、火山の近くにあるという噂の、あの珍しい鉱石を見てみたいです!」
「ユーリ、先走るな。安全第一だ」
レイルズはたしなめるが、その視線は優しい。
真琴は、グラスを握りしめた。緊張で喉が渇く。しかし、ここで引っ込んではいけない。
ユーリとレイルズの会話が途切れた、僅かな「間」。真琴は勇気を振り絞って口を開いた。
「レイさん。その、次に向かうダンジョンについて、ナエルさんに教えてもらった支援魔法の組み合わせがあるんです。もし良かったら、今度改めて、その戦略について話し合ってみませんか?」
レイルズは、真琴の方を向いた。そして、優しく、安心させるように微笑んだ。
「もちろん、真琴。お前の知識と努力は、セイブライフにとって大きな力だ。明日の朝、ゆっくり話そう」
その夜、真琴はベッドに入りながら、心の中で安堵の息をついた。
(今日は、大丈夫だった。ユーリさんのプレッシャーにも負けずに、レイさんと話すことが出来た)
少し安心した一日だった。しかし、真琴は知っていた。活発で勝ち気なユーリが、このまま引き下がるはずがない。この穏やかな一日は、嵐の前の静けさなのかもしれない。




