ユーリの思惑と真琴の決意
翌日。ユーリは、普段通り、元気に振る舞った。レイルズや真琴に対する態度は一見何の変化もなく、むしろ前日までの積極的なアプローチを引っ込めた分、真琴に対しては以前よりも親しげに話しかけてくるようになった。
「真琴さん、ポーション作り、本当にすごいよね。今度素材集めとか手伝うよ」
真琴は戸惑いつつも、
「ありがとう、ユーリさん」
と小さく答える。
ユーリの態度の変化は、真琴にとってはある種の圧力だった。レイルズに釘を刺されたことを逆手に取り、今度は真琴自身が「遠慮」して、レイルズから距離を取るように仕向けようとしている。そう、真琴は直感した。
(ユーリさんは、きっと…私が大人しくて、引っ込み思案だから、これ以上私を「いじめよう」とはしない。でも、私がレイさんと親しくするのを、きっと、許さないんだ。私が自分から身を引くのを待っている。)
ユーリは、レイルズに真正面からぶつかるよりも、真琴の弱さを利用して、レイルズとの間に壁を作ろうとしているのだ。活発でさっぱりとしているからこそ、陰湿ないじめではなく、真琴の自尊心を削り、自主的に諦めさせるように仕向ける。それは、ある意味で、真正面から来るよりも厄介だった。
その夜、真琴は自分の部屋で、ナエルから教わった支援魔法の練習帳を開いていた。
(ナエルさんが抜けて、ミリヤムさんが休む。今、セイブライフに必要なのは、私。でも、もし私がユーリさんの態度に怯えて、レイさんと話せなくなって、パーティーでの自分の役割を十分に果たせなくなったら…それは、レイさんの期待を裏切ることになる)
真琴は、レイルズの思慮深い眼差しに、高校時代の淡い初恋の面影を重ね、もっと知りたいとパーティー加入を決めた。それは単なる逃避ではなく、異世界に来て初めて得られた、生きる上での「希望」だった。
真琴は、ポーション作りで蓄えた僅かながらのお金と、ナエルから教わった魔法、そして何より、レイルズが自分を護ろうとしてくれたあの「手」のぬくもりを思い出した。
「私は…怯まない」
真琴は小さく呟いた。元の世界でのストーカーの経験が、真琴の心を深く傷つけ、内向的な性格を強めたのは事実だ。しかし、あの時、自分は命を奪われた。異世界に来て、命を助けられた。もう、誰かに怯えて、自分の居場所を失うのはごめんだ。
(ユーリさんが、私に何を言おうと、私がレイさんと話すのを止めたりしない。私は、私の役割を果たす。そして…レイさんを失いたくない。)
真琴は、練習帳を閉じ、支援魔法の詠唱を小さな声で繰り返した。
翌朝、真琴は食堂で朝食を待っているレイルズに声をかけた。
「レイさん、昨日のお礼を言わせてください。ありがとうございました。それと、今日は、護衛をつけて、少し遠くまで薬草を探しに行ってもいいでしょうか?少し珍しい素材が欲しくて…」
真琴は、あえてレイルズに話しかけ、パーティー活動についての具体的な提案をした。
レイルズは驚いたように真琴を見た後、優しく微笑んだ。
「ああ、真琴。よく言ってくれた。護衛は俺が行く。ダリーも一緒だ。安全第一で、命を大事にな」
真琴は、レイルズの笑顔を見て、心の中で確信した。これが、彼女がこの世界で手に入れた、新たな一歩だと。




