完璧な魔術師と揺れる後衛
レイはユーリの採用をまだ正式に決めていなかったが、実力を見極めようとして、簡単な討伐依頼でダンジョンへ向かった。
ダンジョン内でのユーリの仕事ぶりは、事前に聞いていた通り、いやそれ以上に完璧だった。
ユーリは攻撃魔法に長けており、炎の魔術は、真琴の『火球』よりも遥かに早く、高熱で敵を一掃した。さらに、回復・支援魔法の詠唱も短く、的確に前衛をフォローする。
「レイさん、右の敵、私が炎で足止めします! 真琴さん、その隙に左に『光の治癒』を!」
ユーリは、レイルズの指示を待つだけでなく、真琴の動きを予測し、積極的に連携を促してきた。その動きは淀みがなく、まるで長年組んでいるパーティーメンバーのようだった。
レイルズもダリーも、ユーリの戦闘能力とチームワークへの意識の高さに感心した。
「ユーリ、やるじゃないか! この調子なら、俺たちセイブライフは盤石だぜ!」
ダリーが豪快に笑う。
「ああ。動きに無駄がない。真琴も、ユーリと組んでやりやすいだろう?」
レイルズも、真琴の働きを気遣いつつ尋ねた。
真琴は、緊張した笑顔で頷いた。
「はい……ユーリさんの、魔術はすごいです」
真琴の言葉は、率直な賞賛だったが、同時に、自分の居場所を脅かされていることへの焦りも含んでいた。
ユーリは、戦闘での立ち回りだけでなく、休憩や移動中の態度も、男性陣にとって心地よいものだった。
「レイさん、お疲れでしょう? ポーションをどうぞ。私が作ったものよ、市販品より効くわよ」
ユーリは、さりげなく自作のポーションをレイルズに手渡し、その際、レイルズの視線を自分に引きつけるような表情を向ける。
真琴は、ユーリがレイルズにポーションを渡す間、自分の持っている精製ハイポーションを、アイテムボックスから出すことさえ躊躇してしまった。
「ユーリ・メリバ」。彼女は、実力、積極性、そして女性としての魅力、全てにおいて真琴を圧倒していた。
結局、ダンジョンへの行き帰りの道中も、皆で食事を共にする打ち上げの席でも、真琴は一歩下がったまま、ほとんど口を開くことができなかった。
その日の打ち上げでも、真琴はユーリとレイルズの楽しげな会話から距離を置いて、静かに食事をしていた。
ミリヤムは、つわりで食欲がなく、あっさりとしたスープを軽くすすっている状態だったが、そんな体調の中でも真琴を気にかけた。
「真琴さん。今日は、あまり食べていないわね。このスープ、胃に優しいから、もう少しどう?」
ミリヤムが優しく真琴に声をかける。
「あ、ありがとうございます、ミリヤムさん。いただきます」
真琴は、小さく会釈してスープを口にした。
ユーリは、レイルズに
「ねぇ、今度、私のおすすめのワインを奢らせてくれないかしら?」
と誘いをかけており、真琴とミリヤムの会話には気づいていないようだった。
真琴は、体調の悪いミリヤムにまで心配をかけてしまったことに、胸が締め付けられる思いがした。
(私、ナエルさんに「もう独り立ちしなさい」って言われたのに。ユーリさんが来ただけで、こんなに怯んで、ミリヤムさんまで心配させて……)
真琴は、自分の引っ込み思案な性格と、ユーリに一歩も踏み出せない臆病さに、激しい自己嫌悪に陥った。自分の得意な魔法の腕で、自信を持とうと決めたばかりなのに、また過去の自分に引き戻されている気がした。
打ち上げが終わり、自室に帰った真琴は、すぐにベッドに横になった。天井を見つめながら、真琴の頭には、ナエルの顔が浮かんでいた。
(ナエルさんに、話を聞いてもらいたい……)
ナエルなら、この状況を笑い飛ばすか、あるいはユーリに負けないような大胆なアドバイスをくれるだろう。そして何より、真琴の心の一番深いところにある、レイルズへの特別な感情と、自分の弱さを、すべて理解してくれたはずだ。
真琴は、レイルズの傍で、安心して、そして対等に並び立ちたいと強く願った。その願いは、ユーリという強力なライバルの出現によって、さらに切実なものとなっていた。




