新メンバー候補と恋の波紋
ミリヤムの活動休止後、後衛魔術師の募集をかけた『セイブライフ』に、一人の候補者がやって来た。
「あなたが、セイブライフのリーダー、レイルズさんね? 噂通りの美形じゃない」
ユーリ・メリバ。金髪のショートカットに、意志の強そうな藍色の瞳を持つ、快活な女性だった。彼女は勝ち気でさっぱりしており、その立ち振る舞いは、常に自信に満ち溢れていた。
ユーリは、レイやダリーといった男性陣に対し、無意識に受けが良い対応をするタイプだ。
「レイルズさん、私は回復魔法も攻撃魔法もこなせるわ。特に炎系の扱いは自信がある。あなたたちのスローライフを、私が完璧にサポートしてあげる」
ユーリは、レイの瞳を真っ直ぐ見つめ、アピールした。その視線は真剣で、単なる仕事の意欲だけではない、個人的な興味が透けて見えた。
レイルズは、皆にしているように、
「俺の呼び方はレイでいい。」
と伝えた。すると、ユーリは、「レイさん」と呼び始めた。
その日、真琴はユーリに教えるべきことがあったため、レイルズの傍で話を聞いていた。
ユーリは、レイルズとの会話の合間に、自然とレイルズとの距離を詰めてくる。
「レイさんの剣、本当に素敵ね。試しに振ってみてもいいかしら?」
そう言ってレイルズの腰の剣に触れた際、ユーリの指先がレイの手に偶然触れる。
「もちろんだが、今日は試し斬りをする場じゃない」
レイルズは冷静に答えるが、ユーリはその接触に動じていない。
「あら、残念。レイさんの剣、ぜひ、一緒に手入れしたいわ」
ユーリは、屈託のない笑顔でそう言った。
ユーリの遠慮のない積極的な態度に、真琴は動揺を隠せなかった。高校時代から目立つことを避け、初恋の相手にも自分から話しかけることさえできなかった真琴にとって、ユーリの行動はあまりに眩しく、圧倒的だった。
(私には、ああいう風に、自然に振る舞うことなんてできない……)
真琴の心臓が、きゅっと締め付けられる。レイルズがユーリと話す間、真琴は徐々に一歩、また一歩と後ずさり、無意識のうちにレイルズの背後、そして少し斜め後ろの位置へと引っ込んでしまった。真琴の体は、「目立たないように」という過去の習慣に支配されていた。
ダリーは
「おっ、ユーリは気が利く娘だぜ!」
と野次を飛ばしていたが、レイルズはすぐに真琴の異変に気が付いた。
レイルズは、真琴の様子を察し、会話の最中にちらりと背後を振り返った。
真琴は、いつものように自分の役目があるとき以外は、レイルズの傍に控えていることが多い。だが、今日は、まるで壁の一部になりたいかのように、控えめな位置に隠れている。その姿は、まるで初めてセイブライフに加入したばかりの頃に戻ってしまったかのようだった。
(真琴……)
レイルズの胸に、ふと淋しさが広がった。
真琴が、自分を守りたいという強い意志を持ち、ポーションや弁当で自分を支えてくれるようになってから、レイルズは真琴の控えめな中にもある積極的な優しさに、特別な心地よさを感じていた。それは、真琴が自分の恐怖を乗り越え、レイルズに心を開いてくれている証拠だったからだ。
しかし今、真琴はユーリという新しい女性の登場により、その心を開くことをやめ、再び自分から距離を取ってしまった。
レイルズは、ユーリの仕事ぶりを評価しつつも、心の中では、真琴が安心して、そして自然体で自分の隣にいてくれることを望んでいた。
(真琴を不安にさせているのは、俺の対応が曖昧だからか? それとも、彼女の過去のトラウマが、また顔を出しているのか……)
レイルズは、リーダーとして真琴の居場所を守らなければならないという焦燥と、一人の男性として真琴の引っ込み思案な態度に感じた、小さな喪失感を覚えたのだった。
ユーリは、レイルズの視線が真琴に向いたことに気づかず、楽しげに話し続けている。
「さあ、レイさん! 私の腕試しに、早速ダンジョンに連れて行ってくれるかしら?」
レイルズは、意識を真琴から引き戻し、リーダーの顔に戻った。
「わかった。明日、簡単な討伐依頼に出る。ユーリ、準備しておけ」
レイルズは、真琴が再び自分から距離を取ってしまったという現実を抱えながら、ユーリと共に、ダンマスの扉へと向かった。真琴は、黙ってその背中を見送るしかなかった。




