表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

魔術師として独り立ちの第一歩

ナエルの結婚式から二日後、『セイブライフ』は新たな体制でダンジョン『苔生す洞窟』に潜ることになった。目標は、前回よりも深い二十階層までの素材集めだ。


集合した四人を前に、レイルズが落ち着いた声で口を開いた。


「ナエルが抜けた。彼女が担っていた攻撃とサポートの役割を、これからは真琴が一人で担うことになる」


レイルズは皆の顔を順に見つめ、最後に真琴を見た。


「気を引き締めて行こう。真琴、君の精製魔術は、俺たちの命綱だ。そして、戦闘では、無理をする必要はない。皆で君を守る。だから、安心して後衛としての役目を果たしてほしい」


真琴は、緊張しながらも力強く頷いた。


「はい、レイさん。頑張ります」


レイルズの指示通り、隊列は変わらず、前衛にダリーとレイルズ、後衛にミリヤムと真琴だ。


十階層までは、真琴の訓練の成果もあり、順調に進んだ。真琴は、支援魔法と攻撃魔法を使い分け、パーティーの動きを止めないように常に意識した。特に『魔力障壁』の発動は反射レベルになり、不安で固まる間を与えずに済んだ。


――十六階層、十七階層……


深く潜るにつれて、魔物の強度は増すが、目標はあくまで「無理せず稼げるスローライフ」だ。危険な魔物との遭遇を避けて、素材の量が多い場所を選び、地道に集めていく。


「真琴のポーションのおかげで、回復時間が短くて済むぜ! ナエルの分まで頑張れよ!」


ダリーが、豪快な笑顔で真琴に声をかける。


「真琴さん、疲れてない? 治癒が必要な時は言ってね」


ミリヤムも優しく気遣う。


仲間たちの信頼と温かさが、真琴の心を支えていた。


ついに、目的地の二十階層に到達した。そこは、濃い霧に包まれた広大なフロアだった。


「フロアボスがいるぞ。準備しろ」


レイルズが剣を構える。


フロアボスの名は『酸液の粘獣スライムロード』。全身が強酸の液体でできた、巨大な魔物だ。

戦闘が始まると、粘獣が放つ酸液が、ダリーの盾やレイの剣を容赦なく侵食していく。


ダリーが粘獣の攻撃を受け止めるたびに、ジュッという不快な音と共に、鎧が溶けていく。ミリヤムの治癒魔法も、体表の酸液を中和するのに手一杯だ。


(酸液が溶かしていく……怖い。このままじゃ、ダリーさんの鎧が!)


真琴の心に、再び恐怖が顔を出した。この魔物は、以前のゴーレムとは違う、陰湿な怖さがある。攻撃を躊躇すれば、ダリーの防御が破られ、全員が危機に晒される。


一瞬、手が止まった。魔力を練る指先に、力が籠もらない。


「真琴! 魔法を止めるな!」


レイルズの鋭い声が飛ぶ。


その声と共に、真琴は思い出した。「皆で君を守る」というレイルズの言葉を。そして、「レイさんを守りたい」と誓った自分の決意を。


(大丈夫。私は、守られている。だから、私は、前衛を守る!)


真琴は、深く息を吸い込んだ。


硬化ハードニング!」


真琴は、ダリーの盾めがけて、支援魔法を放った。これは、対象の硬度を瞬間的に高める魔法だ。酸液で侵食されていた盾が、一瞬、鈍い金属光沢を取り戻す。

その隙を見逃さず、レイルズが指示を出した。


「今だ、真琴! 攻撃! ダリー、側面へ!」


火球ファイアボール!」


真琴は、酸液で燃え尽きそうだった粘獣の核めがけて、渾身の火球を叩き込んだ。水と炎は相性が悪いが、真琴の巨大な魔力と、炎の熱量が、粘液の一部を瞬時に蒸発させた。


その直後、側面へ回ったダリーが盾で粘獣のバランスを崩し、レイルズの剣が、真琴が露出させた核を正確に突き刺した。


ズビュッという音と共に、粘獣は液体の塊となって床に崩れ落ちた。


「やったな!」


ダリーが雄たけびを上げる。


勝利の余韻が残る中、パーティーはフロアの安全な隅にあるセーフポイントで休憩を取った。


真琴は、アイテムボックスからお弁当を広げた。今日のメニューは、真琴とミリヤムが一緒に作ったものだ。


「さあ、休憩よ。今日のランチは特別よ」


ミリヤムが優雅に声をかける。


中身は、ライ麦パンのサンドイッチと、具材たっぷりの香草スープ。


「うおっ! このスープ、香りがいいな!」


ダリーが目を輝かせる。


ダリーもレイルズも、スープを一口飲むと、声を上げた。


「美味い! この香草の使い方が絶妙だ。温まるし、力が湧いてくるようだ」


レイルズが目を細める。


「ああ、体にしみわたるぜ! ミリヤム、お前、料理の腕を上げたな!」


ダリーがミリヤムの頭を撫でる。


「ちょっと! 違うわ!」


ミリヤムはダリーを制した。


「このスープに香草を使おうと言い出したのは、真琴さんよ。私が基本を作って、真琴さんが香草の配合を決めたの」


真琴は、皆に褒められて、顔が熱くなるのを感じた。


「い、いえ、東の国の故郷の配合を、少し試しただけで……」


「故郷の味は、常に最高だな」


レイルズがサンドイッチを頬張りながら、真琴に微笑んだ。


素材集めは無事に完了し、パーティーは帰還した。集めた素材をギルドで売却し、代金を山分けした。


宿屋でいつもの打ち上げを終えた後、真琴は自分の部屋に戻り、静かに息をついた。


(ナエルさんがいなくても……何とかなった)


安堵と共に、真琴の胸には小さな寂しさが残った。ナエルがいた時の賑やかさは、もう戻らない。


しかし、自分の魔法で、レイルズやダリーの背中を守り抜いたという充実感が、その寂しさを上回った。


(次の休みには、ナエルさんの新居へ、ハイポーションを持って訪ねて行こう)


真琴は、ナエルの祝福と、レイルズの優しさ、そして仲間との絆を胸に、セイブライフの魔術師としての新たな一歩を踏み出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ