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異世界で初恋の人とそっくりな人に出会い冒険を始めた魔法使い  作者: 輝 久実


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ナエルのささやかな願い

真琴がミリヤムの恋バナに聞き入ってから、ナエルに話を振ると、ナエルは微笑んで真琴に言った。


「私の話なんて、大したことないわよ。私とレイ、ダリー、そしてミリヤムは、最初からこの四人でパーティーを組んでいたから、出会いもドラマチックじゃないわ」


「そうなんですか。じゃあ、結婚される相手の方は?」


真琴が興味津々に尋ねる。


「彼はね、私達の街で大きな工房を構えている鍛冶師なの。名前は、アルベルト。彼も、私と同じ黒髪に、レイのような緑色の瞳をしているのよ。」


真琴は、ナエルがそう言って頬を染めたのを見て、思わず胸がキュンとなった。ナエルの想い人とレイさんは瞳の色が同じで、真琴の初恋の人とも瞳の色の濃淡は違えど、眼差しが似ている。不思議な繋がりがある。


「アルベルトとは、彼がまだ駆け出しの鍛冶師だった頃に知り合ったの。彼の打った剣が、レイの剣の替え刃の候補になったのがきっかけよ」


ミリヤムが優雅に口を挟んだ。


「あの時はね、レイがどの刃を選ぶか、本当に慎重に吟味していて。何日も工房に通っていたわ。ナエルは、レイと喧嘩しすぎで、その審査に全く興味がなかったのに」


ナエルは笑ってミリヤムをたしなめた。


「ちょっとミリヤム。そうよ、正直、レイの剣の趣味なんてどうでもよかった。でもね、アルの鍛冶に対する情熱と、工房で黙々と作業する真面目さを見ていたら、放っておけなくなったの」


ナエルは、真琴のように控えめなタイプではないが、アルベルトの真摯な姿に惹かれたのだろう。


「最初はね、私が依頼で手に入れた素材を売るついでに、彼の工房に寄って、お茶を飲むだけだった。でも、彼が作る剣や防具が、どんどん良くなっていくのを見て、私も彼を『支援』したくなった」


「支援……ですか?」


真琴が尋ねた。


「そう。私は攻撃魔法使いだけど、彼のために、より良い武器の素材を考えてあげたり、彼の体調を気遣って支援魔法をかけてあげたりしたの。冒険者じゃない彼にとって、私の魔法は『命の支援』じゃない。『生活の支援』だった」


ナエルは真琴の瞳をまっすぐに見つめた。


「アルはね、私たちみたいに命を懸けている人たちを尊敬しているけど、自分としては静かに、最高の武器を作ることで、彼らを支えたいと思っているの。アルのその安定した生き方が、私には、とても魅力的に映ったのよ」


「素敵です……」


真琴は心からそう思った。命をかけていないからこそ、ナエルは彼の隣で、心安らぐ生活を送れるのだろう。


「それで、何を結婚祝いに差し上げましょう?」


ミリヤムが、話題を現実的なものに戻した。


ナエルは、少し考える仕草をして言った。


「そうね……皆には、今まで散々お世話になったから、高価なものなんて要らないわ」


ナエルは、真琴とミリヤムを見て、にっこり笑った。


「私、真琴が作ってくれた『最高純度の回復ポーション』が欲しいわ。アルベルトも鍛冶で火傷することが多いから、あれがあれば安心だし。そして、ミリヤムには、『ダリーを一年間大人しくさせる魔法の薬』を作ってほしいかしら」


ミリヤムは優雅に鼻を鳴らした。


「ふふ、そんな魔法薬、この世界にはないわ。でも、最高純度の回復ポーションなら、真琴さんの腕前なら朝飯前でしょう」


真琴は、ナエルのささやかな願いと、冗談交じりの言葉に、胸が熱くなった。


「ナエルさん、わかりました。私が、心を込めて、最高に効く回復ポーションを精製します!」


真琴は、自分の得意なことで、心からお世話になったナエルの門出を祝えることに、大きな喜びを感じた。

そして、ナエルの話を聞いたことで、真琴は改めて、『命を守る』というレイルズの生き方と、『安定した生活を支える』というナエルの選択、そのどちらもが尊く、自分は今、レイルズの傍にいることで救われているという事実を、確信したのだった。

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