プロローグ
王都の最高級宿屋の一室。Aランクパーティ『深紅のグリフォン』のリーダー、マルスは祝杯のワイングラスを傾けていた。来月に迫った王城での叙勲式典。長年の夢だった貴族の地位がもうすぐ手の届くところにある。
魔術師のエララが不機嫌そうに吐き捨てた。
「……本当にあの荷物持ちまで連れていくのか? 叙勲前の最後の稼ぎとはいえ、足手まといなだけだろう」
マルスは口元に冷たい笑みを浮かべた。
「だからこそだ、エララ。我々が貴族になるという晴れの舞台に、『ハズレスキル持ち』の薄汚い荷物持ちの席などない。彼には我々の輝かしい経歴の最後を飾る『礎』になってもらう」
盗賊のカインが影の中から静かに問う。
「……『事故』の準備は?」
「ああ、抜かりない。あのダンジョンは落盤も多い。適当な場所で『不運な事故』が起きるだろう。彼が背負うリュックの宝さえ回収できれば、我々の最後の稼ぎとしても申し分ない」
神官のセラフィナが祈るように目を伏せて呟いた。
「彼の魂に神の御慈悲があらんことを……」
「慈悲か。それも我々が英雄であり続けるために必要な小道具だな」
マルスはワインを一気に飲み干した。
明日、彼らの最後の「仕事」が始まる。邪魔なお荷物を処分し、完璧な英雄として新しい人生を始めるための簡単な仕事が。