攻略対象が1人しかいない乙女ゲームに転生してしまった
よりによって! よりによって! よりによって!
アミスに転生してしまった!
オンリーワン恋してドキドキ学園、略して"1学"は、攻略対象キャラが1人しかいないという斬新な乙女ゲームだ。
Q_え? じゃあ、攻略対象同士の絡み見れないの?
A_はい、見れません。
Q_ゲームが、すぐ終わってしまう?
A_いいえ、簡単には終わりません。
Q_本編が、めちゃくちゃ長い?
A_長さは普通です。
種明かししよう。
このゲームは、なんとヒロインが3(+2)人もいるのである!
つまり選ぶのは、攻略"される"キャラじゃなくて"する"側。
●主人公キャラその1
ヴィクトリア・バレシア公爵令嬢。
唯一の攻略キャラ、デビット・イートゥー第3王子の婚約者。
紫がかった赤髪に同色の瞳。ダイナマイトボディ。
内面は、高飛車で直情的。
他のヒロインルートでは、悪役令嬢として活躍する。
●主人公キャラその2
ナターシャ・テレネチカ伯爵令嬢。
ライトブラウンの髪に緑の瞳。
"平凡ちゃん"と呼ばれるほど何もかも平均的。
●主人公キャラその3
アミス・ピレッタ。平民の奨学生。
黒い髪と目。ちんちくりんモヤシ。
内気で根暗。本の虫。
このゲームは悪役令嬢ルートが人気でヒットし、私もそれが目当てでやり込んだ。
ナターシャは1回やってみたけど、つまらなくて途中リタイア。
アミスに至っては未プレイ。
そして今……。
「ピレッタくん」
顔を上げると、どういうことでしょう?
関わらずにいようと思っていた攻略キャラの第3王子デビットが近づいてくる。
金の髪がサラサラ揺れ、海のように深い青がキラキラしている。
CGで作ったような整った顔。身長は平均的。
私が慌てて腰を浮かすと「いいよ、そのままで」と、手で制した。
ここは図書室、私の定位置。
「学園内だからね。身分は気にせず普通にしてくれ」
「畏まりました」
「早速なんだが、頼み事があるんだ」
「お断りします」
「あ、え、え? あー……聞くだけ聞いてくれる?」
「嫌です」
同じクラスだが話したことない私に頼み事なんて、ろくなことじゃないに決まってる。
「王族に対して無礼じゃない?」
「学園内なので」
「えー……じゃあ独り言いうから聞いていて。
本の要約と書評を書いて欲しい。
なかなかこれで忙しくてね、読書が捗らないんだ」
「どの本です?」
即座に食いついてしまった。
アミスというキャラも本好きだが、それは私も同じなのだ。
私達の共通点と言っていい。
「ん? 独り言、聴こえてた?」
「こちらも独り言です」
「あ、そういう……仕事に必要な本も頼みたいが、一般文芸、特に流行ってるものも。もちろん報酬は出す」
「要約は構いませんが、書評は既読のものの方がよろしいかと」
「鵜呑みにしてしまう?」
「はい」
「あたかも読んだような感想を言わなきゃいけない場面もあるんだ。例えば重役の出した本だとか」
「左様ですか。
わかりました。具体的なことは側近の方に、うかがえばいいですか?」
出入口のところに秘書と護衛(共に生徒)が待機している。
「いや、僕が説明する。
場所をロイヤルルームに変えよう」
「ひょっ?!」
吃驚して変な声が……。
ロイヤルルームは王族と、その関係者用の特別室だ。
「どうかした?」
「いいえ、あの、ロイヤルルームに平民が入ったとなれば騒ぎに……」
「ハハッ、そんなに身構えなくていいよ。
もし何かあれば対応する。呼んだのは僕なんだから」
さっと手を出してエスコートしてくれる。
え? いいんですか、庶民が王子にエスコートして貰って?!
なんか、ちょっと浮かれちゃうよ?
ウッヒョヒョ~イウッヒョヒョ~イ♫
ロイヤルルームに入って王子と話すなんて、もう無いだろうから楽しもうと思ったのに……。
「これは、どういう状況ですか?」
「壁ドン」
「Kabedon」
「そう」
「私を手篭めになさるおつもりで?」
「てっ?! なっ、ば、バカを言うな!」
途端に顔を真っ赤して、たじろぐデビット王子。
童貞なのかな?
VIPルームらしい落ち着いていて高級な家財が並ぶ12畳ほどの室内で、何故か美形の顔がすぐ近くにあった。
側近と侍従は、隣の控え室に行ってしまった。
「何をなさりたいのです?」
「そ、あの、ゴホゴホ……あ、ありがとう」
咳き込んだので背中を擦ってあげた。
「はあ、調子狂うな。やっぱり君、アミスじゃないだろう?」
「身許の偽称などしていません」
「そうじゃない、転生者ってこと」
今度は私が、たじろぐ番だった。
侍従が紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
向かいに腰かけたデビット王子に、自己紹介する。
「山田花子です」
「嘘だろ?」
「はい、嘘です。いただきます」
ボリボリと音を立てながらモリモリ食べる。
お歳暮の時期しか味わえないデパ地下の味!!
「君……何て言うか、すごいなメンタル。曲者感、強いぞ」
「1度、死んでるんでね」
「ああ……君も"オンリーワン恋してドキドキ学園"やってたの?」
「え?」
「違う?」
「ゲーム名、もう一度言ってもらえます?」
「オンリーワン恋してドキドキ学園」
略さないの?
「あの…… 失礼ですが(前世は)何歳で亡くなったんですか」
「72歳」
「どひゃっ☆」
危うくティーカップなぎ倒して、ズッコケるところだった。
この世界で1番美しい(唯一の攻略キャラだから)キラキラ王子様が72+15?!
さっきエスコートされて浮かれたけど、こっちが介助する側じゃない?!
「しょしょしょ昭和生まれですね?!」
訳アリ臭スゴッ!
「そうだね。君は平成?」
「ええ、一応。30で死にました。
最後よく覚えて無いんで、過労だと思います」
「そっか」
2人で静かにお茶に口付ける。
しんみり(。・ω・。)
「ところで僕の側妃になるかい?」
「Tokorodebokunosokuhininarukai」
「僕ね、ヴィクトリアと結婚したくないんだ」
「あ~……テレネチカ伯爵令嬢(ヒロインその2)は」
「僕ね、でゅふふ」
「『でゅふふ』?」
「ラディアいいんだ」
ラディアは、ディスク版にはいない、オンライン版のみでプレイできる追加キャラだ。
もちろんヒロインである。
公式から「追加キャラ近日発表」のツイート見た時は「やっとデビット以外を攻略できる」と思ったのにな。
「あ~……この世界に存在するんですか? ここオンライン版ですか?」
「するする! 調べたから! いるいる」
ラディアは男爵庶子で、ストーリー通りなら来年編入してくる。
今は、まだ平民として暮らしているはず。
「だったらヴィクトリア様と婚約解消してラディアに求婚したら?」
「そのために君の力が必要だ!」
「私には何の力もありませんよ」
単なる平民だぜ。
「まず婚約解消する理由を君にしたい」
「は?」
「ヴィクトリアに『真実の愛を見つけた』と言う。君と交際してることにして」
「っ?! ばばばば、バカなっ?!」
「ふ~」
湯桶に溜まったぬるま湯に、タオルを浸けては体を拭く。
貴族学園の寮なので風呂は部屋にあるが、メイドは各自で雇うため、貧民の私は自力で井戸から水を運んで来なければならない。
バスタブ一杯にするには時間がかかるから、平日はこうして体を拭いて、休みに銭湯へ行っている。
デビット王子は、あれから荒れる私を宥めた。
1つ。
アミスルートがハッピーエンドだと悪役令嬢ヴィクトリアが処刑され、バッドエンドもしくはヴィクトリア・ルートのハッピーエンドになると、逆にアミスが冤罪で殺されてしまう。
曰く「ヴィクトリアにさっさと退場して貰えば、どちらも死なないで済む」と。
尤もだよ!
どうして私、それ思い付かなかったの!
私は、ただ関わらなければいいと思ってたけど「ゲーム強制力が働けば嫌でも関わる」って。
尤もだよ!
本当に、その通りだよ!
気付いたら、いきなり処刑あり得るよ!
逆に、くっつくかもしれない相手が、この世に1人しかいないのもわかりやすいね!
誰ルートに入ったんだろうって悩まないもんね!
2つ。
この学園は王立で、奨学生の私は卒業後、王宮に文官として就職するのが決まっている。
私が冤罪で殺されるのは、その就職後だ。
経理でもないのに、横領したことにされてしまう。
平民の新人に一体、王宮で何が出来るというのか。
しかし、王子の側妃もしくは側近になれば、簡単に冤罪にはかけられない。
尤もだよ!
その通りだよ!
ちなみに前世を思い出したのは、この学園の入学式の時。
3つ。
貧民街の実家にいた時より不便な今の生活──例えば水汲みも、実家なら井戸まですぐだった。
それに平民が嫌いな貴族や、平民を小間使いだと思ってる貴族もたくさんいるので、極力部屋から出ないように気をつけている。
曰く「協力するなら、学園の近くに護衛とメイド付きの家を用意する」と。
あれ?
王子に協力しない理由がないぞ?
どっちにしろ貧困から抜け出して家族を養うには、卒業しなきゃならない。
「オホホホホ!
『真実の愛』ですって? 馬鹿馬鹿しい。
殿下に愛人がいようが居まいが、わたくしたちの政略結婚には関係ないことでしてよ」
「そこを……何とか……別れてくだしぇい」
「わたくしより陛下を説得なさいまし。
わたくしは、父の決めたことに従うだけですわ。
それが貴族ですもの」
「そうだけども……アミス、君からも何とか言ってくれ」
「生リアたん、眩ス」
「「はあ?」」
「生リアたん、パない!
猫目可愛ゆ、パイ乙デカ! ウエスト細!
あーコラボカフェでリアたんのコースター・コンプしましたー。
帰りにミニキャラ・ストラップも買いましたー。
課金します! これからも課金します!
オンライン版も周回してます!
背中にサインください。
それと髪に顔埋めてスーハーしていいッスか? したい、スーハースーハー」
「鼻血、吹き出てるぞ! おい! しっかりしろ!」
「はっ」
王子に肩を揺すられ、ようやく私は我に返った。
返った時には遅かった。
ヴィクトリアこと"最愛のリアたん"は、変質者か蛆虫でも見るような眼差しを私に向けていた。
いや、実際に変質者か蛆虫だけど。
「アミス! ヤッタ!
婚約解消、出来たぞ! 君のお陰だ、ありがとう」
そう言って飛び跳ねんばかりに喜んでいるのは、この国の第3王子デビット。
前回、悪役令嬢に婚約破談を願い出たのと同じ場所、ロイヤルルーム。
私は一瞬だけ王子を見やったが、いつものように部屋の隅で体育座りを決めた。
私の周りだけカビが生えそうにジメジメしている。
「いつまで落ち込んでる? もう1週間だよ?」
「ふん」
「王子に向かって『ふん』……。
あ、そうだ。ボーナスを出そう。達成報酬だ。
何が欲しい?」
「……リアたんの姿絵と使用済みのフォークぅぅ」
「君って本当に気持ち悪いな。
ヴィクトリアが速攻で婚約解消してくれるレベルだもの。王命どうした? っていう。
よし、わかった。現金支給と別に、それも手配しよう。
他にはないのか?」
「贅沢し過ぎてて、これ以上、何も」
私は今、なんと王宮に住んでいる。
いや、確かにセキュリティもメイドもいるし学校も近いけどさ!
いきなりグレードアップし過ぎてついてけないや。
毎日びっくりするような豪華な料理が出てきて、城内の図書館も出入り自由。
書評のバイト代もかなり貰ってるし、至れり尽くせりで。
「ドレスとか宝石とか」
「アハハ! そんなの私が身に付けたら、豚に真珠ですよ!
仮装パーティーですか?!」
王宮内にいてもみすぼらしく見えないレベルの服は、すでに提供して貰ってる。
「そんなことない! アミスは可愛いよ! 見た目の話ね!」
「殿下……前世から紳士なんですかね?
凄いですね、私なんかに可愛いなんて」
それともロイヤルジョークか?
「いや、本当に可愛いって」
「殿下にしか言われたことないですよ。
黒ちびモヤシですよ、私」
肌の色は普通だけど、黒髪は珍しいので小さい頃からかわれた。
それに貧相な体。
顔の造形は普通だけど、化粧もお洒落もしないから喪ヲタって感じ。
「なら僕が、これから毎日言う。どうせ一緒に住んでるし」
「でええええっ?!」
勢いで鼻水を飛ばしてしまった。
「……」
「さっさと声かけてください」
「や、あの……ちょっと今日は調子が、んーんー」
「ソプラノ歌手じゃないんだから、喉の調子なんかどうでもいいでしょ」
「いやーあのー」
「すみません、お嬢さん。
部屋に飾る花が欲しいのだけど。オススメは?」
煮え切らない王子に業を煮やして、先に話しかけてしまった。
奴は店の入り口で、まごまごしとるわ。
「何色がお好きですか?」
「黒」
「えっ?」
花屋で黒とか、どんだけ。
「冗談よ」
「いやだ、可笑しな人」
ケラケラ笑う。
こうやって見るとやっぱり可愛い売りのヒロインなので、周りがキラキラして見える。
ピンクのボブヘアーに童顔で華奢な体。
ヴィクトリアと真逆である。
「黄色がいいかも」
「そう。なら、これね。花粉が落ちにくいから」
「では10本包んで。
あと、この人の部屋に合いそうなのも」
と、後ろで様子を窺っていたデビットを前に押し出す。
「え、あ」
すると、どうでしょう?
第4のヒロイン・ラディアが目を見開いて王子をガン見している。
一応お忍びなので平民っぽい格好だが、いかんせん顔が良すぎる。
「もしもーし」
「え? あ、あの……す、凄く美しくて驚いて。失礼しました」
と、しどろもどろなピンク。
やっぱり攻略対象だから、ビビッと来たのかな?
だとすれば、案外すぐうまく行くかも?
良かった良かった。
「会いに行かないんですか?
動かないと始まらないぜ?」
せっかくラディアと面識アリにしてあげたっていうのに、ちっとも行動しない雇い主。
ここはデビットの居間。
もちろん使用人がいて2人きりではない。
夕飯を摂りながら話している。
「だって、アミスがいないと緊張して話せない」
「前から思ってたんすけど先輩、前世から童貞ですよね?」
「デリカシーって言葉、知ってる?!」
入れ歯が飛びそうな勢いで、喰ってかかってきた。
「72+15=87
大賢者様じゃないッスか!
ありがたやー。拝んでやる拝んでやる」
「拝まれてやる拝まれてやる、畜生!」
品行方正な王子が、パンを千切らず自棄食いしている。
「会うと喋れないんなら文通すれば?
ペンフレンド」
「それ! それ!」
と、私の両手をぎゅっと握る。
おいおい、いくら中身が爺さんでも、そりゃあドキッとするぜ。
美しいな。
「なあ、アミス」
「なんスか、先輩」
バリバリと高級菓子を頬張る。
王宮パティシエの作る菓子のクオリティが高いこと高いこと。
もう城で暮らして3ヶ月経った。
舌が肥えて来たかも?
「ラディアがストーカーに遭ってるって。
いつも同じくらいの時間に、家の前に誰か立ってるんだって」
隣の執務室から持ってきたラディア直筆の手紙をヒラヒラする。
執務室→居間→衣装室→寝室と続いている。
「助けに行ったらいいじゃないスか。
チャンスですよ」
「一緒に行ってくれるよね?」
「私が何の戦力になるんすか? 見てください、ただのモヤシですよ」
いや、結構ふっくらしてきたかも? 制服新調しよう。
太っても戦闘力は0だよ!
「居てくれるだけで有り難いんだ」
依存し過ぎだろ。
母親じゃないぞ、こっち。
「お兄さん(第1第2王子)達の頼めば?」
「それもそうか」
「ねえねえ、デビット」
ラディアの家の前。22時。
道路脇の排水溝に嵌まっている第1王子エスパー・イートゥーが、下から弟に呼び掛ける。
エスパーは体の間接を自由に外すのが得意で、箱や溝など狭いところに入ることが出来る。
「エスパー兄さん静かにして。
ストーカーが来たら僕たちが隠れて、油断したところで兄さんが飛び出て捕縛する計画でしょ?」
デビット王子は目立たないようにするため、カーキのコートを羽織っている。
季節は夏なので暑い。
他のメンバー(2兄弟+私)も地味な格好。
「ねえ、ちょっと限界だから出るよ。もう1時間、同じ体勢だからね」
と、モゾモゾする。
「駄目だって」
と、デビットが押し戻そうとする。
「いや、もう可哀想ですって」
と、助ける。
うん、そう。結局、参加したよ☆
「ありがとう、アミス。命の恩人だ」
「いつになったら現れるんだ、犯人は?!」
「テリー兄さん大声、出さないで。
その声は犯人を見つけた時のサイレンだって言ったろ?」
「えっと、計画が破綻したんで変更しましょう。聞き込みです」
「えーそれでは犯人は、いつもカーキのロングコートで中肉中背でフードを被っていて、顔は見えないが金髪で若い……」
「そうです。22時くらいにほぼ毎日」
現場近くに停めた馬車の中で、ラディアから事情聴取している。
思うに、これ最初にやるべきだったんじゃ……?
「デビット殿下はいつも20時まで食事とお喋りしたあと、入浴してから何処かに出掛けますよね?」
「ああ、下町の巡回だ」
「「「「……」」」」
「主にどこです?」
「ラディアの家を重点的に警備……」
「お前だろう!」
「犯人、お前じゃねーか!」
兄王子たちが弟をどつく。
「いでっ、え、ぐはっ、あ、僕?! 僕は、ただラディアの家を守ってただけで、ぐへぇっ、ぎゃっ」
7ヶ月後。2年生、新学期。
「いや~寛大ですね。ストーカーを許してくれるなんて」
「だからストーカーじゃないって。危険から守るために警備してたの! 見守り隊」
「あなたに危険を感じてたんですよ、彼女は」
「むうう……」
「それで、その花束なんスか?」
「今日、編入してくるだろう? 彼女」
「ああ、入学祝い」
「そうじゃなくてプロポーズするんだ」
「プロ、はあ? プリンスジョークでしょ?
今日シルバー感謝dayじゃないから、寒いギャグは寒いって言いますよ?」
「NOプリンスジョーク」
「ひいいいいい((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル」
まともに話せない、からの文通、からのストーカー、からのプロポーズ……童貞の発想、怖ええええええ!
「おはようございます。
デビット殿下、アミスさん。相変わらず仲良しですね」
新しい制服に身を包んだラディアが、第2王子テリーを伴って通学してきた。
校門と校舎の間らへん。
「おはようございます。
いえ、上司と部下です。
御入学おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「テリー兄さん、どうしてここに?
この前、卒業しただろう? もう忘れたのか?」
「ちっげーよ、バカ。
ラディアが俺の子妊娠したから、転ばないようにエスコートに来たの! 初日だし!」
「デキ婚すか?」
「そうなるね。王子の結婚って時間かかるから、式は生まれてからだけど」
「それはそれは、おめでとうございます。
デビット殿下に、お祝いラーメン作って貰いましょ。
ねえ、殿下って、おいいいい! 気絶してるしー。
殿下、起きてください。お気を確かに!」
倒れている第3王子を揺り起こす。
「はっ。
なんか今、強烈な悪夢見た!
乙女ゲームのヒロインが攻略対象キャラ以外とデキ婚って、そんなことあるわけないよね!
あーびっくりした。
えっと、あの、ラディア、大事なはな、話が──」
「デビット殿下! すみません。私、中華麺、蒸し器に入れっぱなしでした!」
「それは大変だ! 乾燥して茹で時間が変わってしまう! 急いで帰らねば!
ラディア、入学おめでとう! 話しは、また今度!」
第3王子は私の手をひき、ダッシュで帰城した。
台所に入るなり蒸し器へ直行するデビットに、私は後ろから声をかけた。
「あの……殿下。
申し上げにくいんですが、ラディア孃のことなんですけども」
「アミス、見てわからないか?
今は中華麺の命がかかってる。
話なら後にしてくれ」
「大事なことなので聴いてください」
「わかっている。テリー兄さんが結婚するんだろう?」
「なんだ理解してたんですね。
今回は残念でしたが、また次きっと、いい出会いがありますよ」
「僕は少ししか傷付いてないよ。
僕にはアミスがいるから」
「あーその、そうですけど、それは恋愛とは違うわけで」
「アミスはオンライン版のアミスルートやってないだろ?」
「え? ええ。リアたん周回任務があるんで。限定イベント制覇、スチルコンプ必須です」
「いいこと教えてあげる」
おやおや?
美しい顔が迫ってきます。そして不敵に笑いました。
どうしたことでしょう?
これは例のkabedonでは?
およよ?
「僕は最初から、ずっと"アミスルート"だよ。
毎日、僕と朝から晩までずっと一緒だって気づかなかったかい?
逃げられるものなら逃げてごらん」
□完□
攻略対象キャラから見ればギャルゲーです(笑)