死んで
後はユルハを確認するだけ·····
体を精一杯動かす。少し動いただけで息切れを起こしてしまう。
「そろそろ·····終わりやな」
最後の一仕事をするため、如月さんのもとに移動する。様子を見ていなかったからどうなっているのか、全く分からない。
もしかしたらもう·····いや、あの人なら大丈夫だ。
近づくにつれて、鉄と鉄がぶつかる音がする。
声も聞こえてきた。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
ユルハの声だ。
俺は、2人を視認できるところまで移動した。戦いはユルハが優勢だった。力でねじ伏せるような戦い方をしていた。
如月さんがどんな技を出しても、関係なしに斧を振り回す。カウンターを狙われても、距離を詰められて攻撃を出させない。かなり戦い慣れているように見えた。
だが、ゲームマスターほどの力と威圧感はなかった。あれはもっとこう·····ドス黒くて、何か異質なものを感じた。
兎にも角にも、戦ってみないと実力が分からない。俺は、ユルハに気づかれないようにピストルを構えた。
不安定な手で、照準を合わせる。
ユルハが無防備かつ、如月さんに当たらないように。
「ふぅ·····」
息を吐いて集中する。
動きを予測して、隙を見つけろ。大振りの横薙ぎ、攻撃をいなされたあとに出す柄での攻撃。
奴は今、殺すことだけを考えている。
感情が支配している状態。なら、殺意が高ぶる時·····
「うらぁぁぁ!」
如月さんの刀が弾かれた。ユルハにとっての絶好のチャンス。そして·····殺意が高ぶる時!
「パンッ」
俺は完璧なタイミングで撃った。斧を振り上げ、胴体がガラ空きの状況。視線も意識も如月さんにいってる。
反応できるわけない。当たる!
「キンッ!」
甲高い音が響いた。鉄のぶつかる音だ。
目で見るよりも先に、音で俺は失敗を悟った。
ユルハは、俺の撃った弾丸を切りやがったんだ。それはあまりにも予想外だった。当たると確信した弾を切られたんだ。俺は、もう笑うしかできなかった。
「バケモンがッ」
奴は、薄気味悪い笑顔を浮かべながらこちらを見る。
「ダーリンのためなら、バケモノにでも何にでもなるよ!」
俺は如月さんに駆け寄って、様子を見る。
切り傷が、至るところにあった。そして、胸を大きく斬られていた。
「大丈夫·····じゃなさそうですね」
「お互いにね」
俺たちは理解し合った。互いに長くないことを。
「やっぱ強いわ。腕力の強さ、反射速度の速さで全く攻撃が通らん。小手先の技もきかん。でも戦い方的には、一方通行みたいな戦いしてる。あの力さえ、どうにかできたら勝てる·····って感じ」
ユルハは、あの豪腕と反射速度が武器。だけど、それに頼りすぎて何も考えず、ただ目の前の敵を倒す、狂戦士みたいな戦いをしている。
なら、事前に作戦を立てて、罠を仕掛けるのはどうだろう?
そういうタイプには、罠みたいなイレギュラーには弱いと思う。でも、さっきみたいな不意打ちは駄目だ。反応されるかもしれない。
今、悩んでも仕方ない。
ナタを構えて戦闘態勢に入る。
「ダーリン、戦わなくてもいいんだよ?そんなにボロボロになって·····早く終わらせて病院行こう?」
如月さんが先手を取る。俺も、その後に続いて攻撃を仕掛ける。だが、数が増えたところで戦況は変わらない。あらゆる攻撃が弾き飛ばされる。
1人は、片腕で出血が酷い。もう1人は体力が僅か、そして胸に大きな傷があり重症。
相手は疲れた様子すら見せない、万全の状態。
結果は分かりきっていた。
こちらは攻撃を喰らうばかりで、防御に徹している。しかも攻撃を受けた感触から、万全の状態でもこの力強い攻撃を防ぐのは困難だと感じた。
「どうしたの?押されてるよ!!!」
小手先の技、カウンター、フェイントも対応されてしまう。このまま戦っても埒が明かない。
そこで、如月さんが提案をしてきた。
「僕はどうなってもいい。攻撃に巻き込んでもいい。攻撃を通すことだけ考えよ」
要するにこれは捨て身というやつだ。
確かに、このままやっていても押されていって、負けるだろう。
なら·····今、使い果たそう。どうせ、死ぬんだから。
俺は提案に乗った。俺もどうなってもいいから、と伝える。その言葉とともにピストルを渡す。
「これであいつを撃ってください。弾が補充されるまでの4分。俺が稼ぎます。頼みましたよ」
そう言って俺はユルハの方に歩いて行く。
「なあ、なんでお前は俺をダーリンって言うんや?」
時間稼ぎついでに、この謎について質問する。
こいつとは会ったこともないはずだ。
「昔のこと覚えてる?ダーリンが私の家に預けられた時のこと」
誰かの家に預けられたこと?そんなこと覚えがない。
ましてや、俺の親が他人に俺たちを預けるなんてことないだろう。
「その反応的に覚えてないね。なら思い出させてあげる」
そこから、思い出話が始まった。
ユルハは昔、誰からも気味悪がられていた。それは例外なく親も。いつも「どうして普通に生きられないのか」、と怒鳴られていたらしい。
学校では、いじめられることはなかった。喋りかけられることも、ただ置き物のような存在として扱われていた。でも、よく陰口は聞いていた。
家に帰れば、蔑むような目で見られる。言葉を交わしてもくれない。褒めてほしくて、テストでいい点を取っても。頭を撫でてほしくて、頑張って一番になったかけっこも。足を擦りむいて泣いて帰ってきても。
何も言ってくれなかった。褒めてくれなかった。頭を撫でてくれなかった。心配してくれなかった。
「私は愛されていない」
その悲しさだけを皆んながくれた。誰も私を見てくれない。このまま死んでも、誰も何もなかったかのように過ごしていくのだろう。
ずっと身体が寒かった。ずっと一人ぼっちだった。人肌を求めても皆んな私を拒否する。だから、私は私を抱きしめるしかなかった。
少し大きくなって私は、愛されるように努力した。まずは、挨拶からしていくことにした。最初は誰も返してくれなかったけど、徐々に皆んなが挨拶を返してくれるようになった。
たまらなく嬉しかった。私を見てくれたんだと。私を意識してくれたんだと。
でも、そんな幸せもすぐに終わった。
私は、虐められるようになった。挨拶が変だと言う理由で、水をかけられた。話しかけられて、しどろもどろな反応をすれば、髪を引っ張られた。
私はそんな中、仲良くなれるようにずっと笑顔を作っていた。笑顔はみんなを幸せにする、と誰かが言っていたから。何をされても、ずっと笑顔でいた。
でも、ある日を境に笑えなくなった。誰かが私に嘘の告白をしたから。私に「好きだ」と言った言葉が嘘だったから。
初めて、「愛されている」と実感したのに。嬉しくて涙も溢れたのに。やっと、努力が報われたと思ったのに。
「好きなわけないやん!」
その言葉が私を現実に·····いや、地獄に叩き落とした。そこから、私は笑顔も口を開くこともなくなった。
ただ呼吸をして、死んだように過ごしていた。
そんな日々が続いていた時·····救世主が現れたの!その人は、私を人として見てくれた。話を聞いてくれて、笑ってくれて、心配もしてくれた!
私を、私として見てくれた。そして教えてくれたの。
「皆んなに愛される人じゃなくて、誰かに愛される人になれ。そのために、自分らしく生きろ」
周りの目なんて関係ない。誰でもいい、好きな人でもいい。その人に愛される自分になれって、言ってくれたの。
そう言って、私を地獄から引っ張り出してくれた。自分だってボロボロだったのに、私に手を差し伸ばしてくれた。
「それが、翔!貴方なの!!!」
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