「理想」
「2人とも怪我はないか?」
「はい、ありません·····」
「無傷や」
全員が教会に駆けつけた。
「お兄ちゃん!大丈夫?」
「おう、大丈夫や。どこも怪我してないから」
俺は体は元気だった。でも心はドロドロに溶けて「何か」に変形しつつあった。
「でも、アゼルも言ってた!怖い顔してる·····。あの日と同んなじ」
雪は真っすぐ俺を見た。
アゼルがさっき言っていた「昔の顔」が今も続いているのだろう。
それに今まで気づきもしなかった。
せっかく家族が、アゼルたちが、如月さんが、色んな人が普通の生き方を教えてくれたのに。
普通に笑えたときにどれだけ皆んな喜んでくれたか。
自分のことのように、家族のように·····。
でも俺はそれを無駄にしてしまった。
それがただ申し訳なかった。
「大丈夫や。お兄ちゃんは絶対帰ってくるから。昔みたいにはならんよ」
大丈夫。俺は平気だ。そうだ、平気だ。いつも通りの朝倉翔。
「ほら、そうやって平気な顔に笑顔、貼り付けてるやん!」
·····やっぱりバレるものなのか。
「そんなことないよ!な、雪」
そう言って頭を撫でようとした。
その手を払いのけ、雪は声を荒げた。
「誤魔化さんといて!お兄ちゃんはいっつも自分で背負いすぎてる!ちょっとは私たちには分けてよ!お兄ちゃんの苦しみも思いも!」
返す言葉はいくらでも思いついた。でも多分どれも結局は誤魔化す、言い訳のように言ってしまうのだろう。それなら本心を·····。
「俺さ、誰も死んでほしくないねん。やから皆んなが背負える分だけ背負わせてるつもりや」
「じゃあなんで?なんでそんな顔してるの?」
「それは覚悟や、勝つための」
殺すための。
「翔、私たちも覚悟できてる。やから背負わせて?」
「いや、この覚悟は俺だけで背負える。やから真弓たちは·····今のまま一緒に来てほしい」
皆んなが傷つかないように。
俺は今、そのままでいい。そのまま昔みたいに堕ちればいい、と堕落しようとしていた。
だってそのほうがいいだろ?
クロを殺して、コピーを殺して、ボスを殺して·····。殺して殺して殺して続けて、その先に俺たちの勝利があるんだ!そのために、皆んなの為に·····俺は堕落しよう。
俺が殺さないといけない。俺が·····俺が!
母と父と誰かにしたように·····。
俺は真っすぐ前を向いた。
「でも·····」
「やから俺は大丈夫やって!皆んなも心の中で色々背負ってるやろ?それと同んなじや。やから俺から1つ頼む」
人はそう変わらない。魂に染み付いたものは、どれだけ擦っても、洗っても落ちない。
「何?」
「俺を助けてくれ」
しばらくの沈黙の後、咲ねえが返事をくれた。
「分かった。そのかわり私が絶対翔のこと守るから」
俺はそれを分かったと答えた。
自分を偽ってこそ、俺は発揮される。守るんだよ、皆んなを。どんな手を使っても。
それが例え、家族を騙そうとも。
そうじゃないと皆んなを死なせることになる。
だって俺は今回、死に戻り前提でやっているからだ。
ユルハはきっと今、コピーを作っている。
そう仮定すると敵は増えるし、ユルハの強さも不明瞭だ。もしゲームマスターと同じくらいなら多分俺たちに勝ち目はない。
だからこの周回で、できるだけの情報を持って死んで、次に繋げる。
そんな事皆んなには言えない。止めるだろうし、全力で俺を守ろうとするだろう。
でもそれだったら、俺は今まで通り守られてばっかりだ。
皆んなが俺に協力してゲームの手助けをしてくれているみたいに、俺も皆んなが死なないようにしないといけない。
俺がどうなろうが関係ない。自分の甘さが皆んなを殺すんだ。俺は俺を殺す。そして勝利を勝ち取ってやる。
どうか、届きますように。
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