「勇気」
私は百合さんと廊下を歩き始めた。
言葉は何も交わさず、寒く薄暗い廊下をただ歩く。
着いた先は休憩スペースだった。
互いがベンチに腰をかける。
「今年は寒いですね」
向こうが先に静寂を切った。
「そうですね」
私は目を離さないかった。出来るだけ体全体が見えるようにして。
「それでどうしたんですか?急に呼んで」
少し緊張しながら聞いた。
「えっと·····雪を連れて帰るの止めて欲しいんです」
そう、百合さんは言った。
「なんでですか?」
「·····最近雪の状態が良くなってきたんです。このままいったら退院もあり得るんです。やから今の間はそっとして、変に刺激しないであげてほしいんです」
最もらしい事は言っているけど、要するに雪を連れて帰ると都合が悪いってことか·····。
「すみません、それは出来ないです。お気遣いはありがたいんですけど·····。
雪の事はしっかり見ときますから、連れて帰ってもいいですか?」
私は怪しまれないよう、普通に答えた。
「····そうですか。分かりました」
そう言って百合さんは立ち上がった。
「戻りましょうか」
そうして部屋を出ようとした。
「タッタッ·····」
足音·····!待ち伏せか!
前に飛び込んで奇襲を回避した。
なんで?百合さんは前にいた·····。もう一人いる?
そうして奇襲をかけた敵の姿が目に入る。
「ゆ·····き?」
そこには雪がいた。手にナイフを持って。
······聞いていた話と違う。翔は、雪のコピー人間はハルになっていると言っていた。どうして·····?
「咲さんねぇ·····わかりやすいよ。警戒してんのバレバレですよ?」
百合のコピーがメスを取り出す。
「あぁ、やっぱり気迫ってやつですかねぇ?」
それに応えるように拳を構える。
とりあえず、百合のコピーは殺す。
雪のコピーは·····殺さずにどうにかするしかない。
百合のコピーが飛び出した。
·····速い!咄嗟に攻撃を腕で庇った。
そして蹴りを入れようとするが、躱される。
スピードが速く、力もある·····。かなり厄介だ。
今度は私が仕掛ける。
顔面目掛けて右拳で打つ。それは華麗に避けられる。しかしそれも予想済み。
左に避けたのを確認した、振り下ろされるメスを左手でいなした。
体勢を崩したところに右の肘を入れた。
百合のコピーはフラフラしながら後ろに下がる。
「く·····そ!誘ったな」
「そうやね」
私は思いっきり踏み込んで腹を殴った。
そしてうずくまって、隙だらけの頭に蹴りを入れ、頭と首を壊した。
「バケモンが·····」
そんなセリフを吐いて灰になって消えた。
ふぅ·····。一息つき、雪のコピーに目をやる。
雪のコピーは震えていた。それは恐怖している様に見えた。
ナイフを震える手で持って、コピーが走ってくる。
拳を構えて、攻撃の準備をする。
薄暗い廊下をコピーが走る。覚悟を決めた様に一歩一歩が重々しく。
そしてそこから光る何かが落ちている。
·····私は構えを解いた。そして走ってきた雪を抱きしめた。
「やっぱり」
ナイフは腹に当たるだけで刺さりはしなかった。そして、雪の顔には涙が溢れていた。
雪は最初っから私に倒されるつもりで来ていた。
「お姉ちゃんくうっ·····ごべんなさい」
「大丈夫、やっぱり優しいね。雪ちゃんは」
雪ちゃんと少し話をした。
頭に私を殺せという命令が聞こえること。
でも家族は殺せない。大切な人を殺したくない、傷つけたくない。言う事の聞かない体を頑張って抑えて殺されよう、と。
そうして最後にこう言った。
「私をハルにしてほしい」
理由は本当に雪がずっとハルに会いたがっていたのと、もしかしたらハルなら支配を受けないからだと。
それを支配に苦しむ体で一生懸命伝えてくれた。
「·····分かった」
私はそう答えた。
「雪は優しいね。支配に打ち勝って、最後までみんなのことを思って·····」
そう言って、私が結んでいたヘアゴムを取る。
雪は少し顔を下げて、髪を差し出す。
「これで·····少しは近づけ·····たかな?」
私は労いの言葉をかけた。
「うん。ほんとよく頑張ったね。お疲れ様」
綺麗な髪を束ねてくくった。
「えへへ、ありがとう」
最後に雪は満面の笑みそう言った。
それはそれは良い笑顔で。
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