「開演」
ナタを力の限り振り下ろした。
「そうだよね、あの魔女に洗脳されてるんだもんね。私が解放してあげる!」
ユルハはまだそんなことを言っていた。
「お前なんやねん、真弓は魔女じゃない。俺の大事な家族や」
そう言ってもユルハは、止まらなかった。
「大丈夫」やら「解放してあげる」やら「自由にしてあげる」やら、愛のような感情のこもった気持ち悪い言葉を次々に吐く。
「当たれやカス」
攻撃は軽やかにかわされる。
「今ここでダーリンが私を傷つけたら一生後悔しちゃうから駄目!」
いい加減うんざりだ。冷静に考えろ。あいつの言動から俺に強い愛を抱いている。崇拝に近いぐらいの。
それを利用すればいい。俺の言う事なら信じるはずだ。
「ホンマはこんなことしたくないねん。でも·····真弓助けへんとまた·····また酷い目に遭わなあかんねん」
ユルハは哀れむような目で俺を見た。
「そっか·····。でも大丈夫。私がいる、私がどうにかする。貴方が私にしてくれたみたいに、私が貴方を救ってあげる」
ユルハはまた気色の悪い笑顔で笑いかけてくる。いい感じだ。このまま行けば殺れる。
「でも雪が人質に取られてて·····。俺だけじゃどうにもできんくて·····」
「大丈夫、雪ちゃんはクロと皆が保護しに行ってるから。心配しなくてもいいよ」
その言葉を聞いて安心したように見せ、ナタを落とす。
ユルハが俺をそっと抱きしめた。
大丈夫だから、私に全部任せて、だから私の胸で泣いてもいいんだよ、と言った。
俺はそれに乗っかって、泣くふりをした。
──今や。
袖に隠していたもう一本のナタを持つ。
それで首を切ろうとした·····。
首にナタが触れた瞬間、ユルハが俺を強く押した。
くそっ、気づかれた!
でもまだチャンスはある。
ユルハは避けるのに必死で体勢を崩している。
俺はそこには渾身のナタを振り下ろす。
·····マジか。
その一撃は命を掠めもしなかった。
腕で防ぎやがった。普通、腕も切り落とすぐらいの威力のはずなのに。
「ごめんね、こんな事させちゃって。もうさせないから」
ユルハは俺の腹を殴ってうずくまった所に、後頭部を打った。
俺はプツッと意識がきれた。
「助けられなかったから、これくらいの罰は受けないとね。もう大丈夫だから。もう誰にも邪魔されず、平和に過ごせるから」
病院 地下3階 物置き
私は裕太に病院に雪が居るから、雪と一緒にいてあげてとメッセージを送った。
そして今から展望台に行く。
時間がそこそこかかるけど、関係ない。
翔のところに行こう。
「行ってくるね。大丈夫、裕太が来るから」
そう言って雪の頭を撫でる。雪は私の撫でる手を押さえるように触れて、心地よさそうな笑顔になる。
「うん、裕太と一緒に待ってるから。帰ってきてね」
「うん!」
そう言って私は病院を出て、走り出した。
雪が降っていた。雪は、いつもより冷たく感じた。
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