転生したら異世界そのものになってた
久々に短編書きました。
まだまだ未熟なので、暖かい目で見て頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。
『きゃーーーー助けてーーー!!!』
悪そうな男二人に追われて、走りながら泣き叫ぶ美女がいた。しかし、そこは主に野生の獣が生息するような自然あふれる森だ。近くに彼女を守る救世主はいない。況してやその辺の獣がわざわざ人間を助ける理由もない。
美女は迂闊にも、この森に凶暴なモンスターはいないと踏んで、一人で野草を採りに行ったようだ。
確かにモンスターは大人しかったが、たまたま出くわした盗賊二人に目をつけられてしまったのだ。
『ぐへへへへ、お姉ちゃん。ちょっと俺らに付き合えよ』
下衆な視線で美女を追いかける男達。どうやら女に飢えているようで、捕まえて自分の欲望を発散させるつもりだ。
足の速さでは圧倒的に男達が優勢だ。鍛えられた自慢の肉体ならば、護身術すら習っていない女を捕まえるなど朝飯前だ。
そして、とうとう美女は手を捕まれ、そこにある木を壁代わりにして押し付けた。
『ひーっひひひひ。もう逃げられねえな!』
まるで獲物を捕食するように舌舐めずりをする男達。一方で恐怖で手も足も出ない美女。このまま体を好き放題触られるのも時間の問題だろう。
男の手が、美女の膨らんだ胸部に触れようとしたその時、謎の突風が下衆な男達を空の彼方へ吹き飛ばした。
美女は拘束から解かれるが、その場でへたり込んでしまった。そんな彼女の元に一人の女騎士が現れた。その女騎士が“風魔法”で男達を吹き飛ばしたようだ。
『大丈夫ですか!?』
女騎士が美女の無事を確認する。
『はい……大丈夫です……』
どうやら会話する気力はあるようだ。
『良かった。貴女が無事で』
爽やかに笑う女騎士。美女はそんな彼女に釘付けとなった。
『かっこいい……私の騎士様……!』
『え……?』
美女は女騎士にダイブし、唇を奪った。
『あ……あ……』
男よりも力があるはずの女騎士は、振り払うこともできずに、百合の花が咲き乱れた。
その後の事は、ご想像にお任せしよう。
――さて、とりあえずひと仕事完了だ。
実は女騎士が美女を助けられたのは、俺のスキル“風の噂”を発動したからだ。このスキルは対象者に具体的な危機感を覚えさせて、俺の思った通りに行動させるという超絶便利なスキルだ。
少し前、俺は上から美女が追いかけられる光景を見た。俺は直接人に攻撃することはできないので、他の者に動いてもらうしかない。だからスキル“風の噂”があるのだ。それを、たまたま近くにいた女騎士にスキルを発動させて、今に至るというわけだ。
なぜ、俺がこんな事をやっているのか?
――今から三日前に遡る
『おお、タンスの角に小指をぶつけて死んでしまうとは情けないブフォッwww』
まだ若かった社会人の俺は、信じられない事故で死んだ直後、音楽家みたいな髭を生やした無礼な爺さん(神)に出会った。人の死因を笑うなクソジジイ。このカスゴミボケが。
でもまさか、タンスの角に小指をぶつけることになるとは……我ながら情けないことこの上ない。
『ふはは、お前まじで可哀想だから、今流行りの異世界に転生させてやるよ。それもかつてないほどのチートスキルを持たせてな』
『え、マ?』
『マだ』
それは嬉しい。俺の前世は平凡オブ平凡な人生だったから、何かの頂点に立てる経験をしたことがない。
深夜アニメとかはサブスクでよく見てたから、俺も主人公みたいになれるなんて、夢がありすぎる。
『夢みたいだ……』
いや、本当に夢なんじゃないか。そう思って頬をつねったら……痛くないだと? じゃあやはりこれは夢……?
『今君肉体ないから痛覚ないぞ』
『あ、そうか』
じゃあこのファンタジーの始まりのようなシーンも夢でもなく現実のようだ。
『それじゃ、準備はいいか?』
『ああ、もちろんだ』
特に準備することもないからな。
『本当にいいか?』
『ああ』
『本当にいいのか?』
『あ、ああ』
『本当に本当にいいのか?』
『そう言ってるだろ』
『本当に本当に本当に本当に本当にいいのか?』
『しつけえ!!!』
そうツッコんだ後、このふざけた爺さんは『冗談だ』と笑い、俺を異世界に送る準備を進めた。
『改めて、お前を異世界に送る。ほら行って来い』
終始偉そうな口調の爺さんは、別れの言葉もなしに俺を異世界へと送った。
――これで俺の新たな人生が始まるんだ。楽しみだな。どんな世界なんだろう?
前世の知識と期待を胸に、俺は異世界へと足を踏み入れたのだった。
――目を開けるとそこには、明媚に広がる景色や雑踏の国町村。人間だけではなく、弱肉強食に生きる獣たちが右往左往している。ここまでは地球でもよく見る光景だが、異なる点としては魔法、勇者、魔王等、二次元かコスプレ等しか見たことがないファンタジーがそこにあった。
例えば、険しい表情で禍々しき道へ足を踏み入る男三人と女一人の四人組。あの人達は勇者パーティだ。
例えば、歪んだ笑みで豪華な玉座に鎮座する魔王とその部下達。こいつらが世界を脅かす存在だ。それを打ち破ればこの世界は平和になる。
ん?
よく見たら、勇者パーティが通る道の少し先に落とし穴という原始的なトラップが仕掛けられていた。きっと魔王軍の仕業だろう。
早く勇者達に伝えないと……。
って、あれ?
今更気づいたのだが、何で俺こんなに色んな景色を見てるんだ? それに視点がやたら上から彼らを見下げているようだ。常に宙に浮いてなけれは、そんな視点を見ることは不可能だ。
というか、体はどこに行ったんだ?
俺は視点を動かして、自分の体を探してみるが、どこにもそれらしいものはなかった。
あれ????????
どういうこと??????
やっぱり夢???????
俺はもう一回頬をつねる為に手を動かそうとしたが、
あれ?
そこで俺は気づいた。
自分の体が無いことに。
どうなってるんだ?????
え?
え?
ゑ?
わけわかんねえええええええ!!!!!!
――まあ、何だかんだ冷静さを取り戻したあと、何ができるか色々試した結果、スキルを見つけたり、己の使命感を認識したんだけどな。
自分の使命とは、この世界を守る事だ。具体的には善良な人間を悪党から守ったり、水や食料が枯渇しないように天候を操ったりと様々だ。
確かに、かつてないほどのチートスキルだけどさぁ……思ってたのと違いすぎるんだよなぁ……。
まあ、その使命が一つ達成する度に俺の心は満たされるから、別に悪い気分ではないのだ。そういう精神構造になっている。
だから俺がこうして人助けをするのは、人が美味しい物を食べたり、恋人とイチャイチャしたり、ガチャでSSRを当てるのと同じくらいの快楽を味わえるからだ。
ちなみに今の俺は人間どころか生物ですらないので、食欲や性欲、睡眠欲という概念がない。なのでどんなに美味そうな食べ物があっても、どんなに美しいボディの美女がいても、課金欲を唆るようなガチャがあっても、何も思わないし、眠気も一切感じない。
代わりにさっき言った快楽だけが、今の俺の生き甲斐なのだ。
そういうわけで、今は魔王を倒しに行く勇者を間接的に手助けしてる。先ほど仕掛けられたトラップも、近くにあった大岩をその道に転がすように操作した結果、勇者達がトラップの被害に遭うはずだった運命を、その大岩が肩代わりしたのだ。
すっかり穴にハマった大岩を見て、勇者達は自分たちがこうなる未来を想像してゾッとした。何故なら穴の底をよく見ると、土から生えてきたように槍が置かれていたからだ。もし、この大岩が無ければ、自分達が悲惨な事になっていたからだ。
そんな感じで俺は、彼らを手助けし、いよいよ魔王の元へやってきたのだった。ちなみに幹部達は全員足の小指をタンスにぶつけて寝込んでいるようだ。
しかも、最後の要である魔王は腹を押さえて、冷や汗をかいている。激戦の前に既に倒れそうだ。
疑問に思った勇者達だったが、弱った魔王を勇者パーティ全員で容赦なく魔王をブチのめした。ちょっと可哀想な気もしたが、この魔王だって人に可哀想な事をしたのだ。因果応報だ。
実は、事前に魔王の食卓に下剤を忍ばせたのだ。もちろん直接俺が入れたわけではない。魔王城直属の料理人にスキル“風の噂”を発動して、おやつのプリンに下剤を盛らなければ家族が酷い目に遭う、と思わせたのだ。
部下達全員謀反させる事も考えたが、俺のスキルには一度に沢山発動できないという制限があるので、最も効率的な手段を取ったというわけだ。
ちなみに倒れた幹部達にも、足の小指をぶつけるように操作させてもらった。どうだ死ぬほど痛いだろ。俺はそれで死んだからな。
こうして勇者は魔王を倒して世界は平和になった。
勇者パーティは世界から讃えられ、後世に語り継ぐ英雄となったのであった。
これで終わりかに思われたが、俺の仕事はまだ終わらない。たとえ魔王が滅びようと、第二の魔王、第三の魔王がいずれ降臨する。人類が生殖し続ける限り、悪い奴は無限に溢れてくるだろう。
もし悪い人間だけの世界になれば、この世界はヒャッハー的な世紀末世界になってしまう。それは世界にとって病気のようなものだ。だから絶対に阻止しなければならない。
この世界が終わるまでは――
そして、この世界が終わって、俺がまた天に召されたらやりたい事がある。
それは――
あのふざけた神を一発ぶん殴ってやることだ。
待っていろ。必ずお前の小指をタンスにぶつけてやるからな!
ここまで見て下さり、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
もし、楽しめたのなら幸いです(^^)
改めてありがとうございました。