新たな公爵となった僕は、絶望の中生きてきた伯母(母の腹違いの姉)に会う。~ザマァが無かった世界で、彼女は絶望のまま仕事だけをして生きていた~
僕の名前は、カイル・アルクエラ。
先日両親の早逝によって公爵家当主になったばかりの若造だ。
今、僕はある人を訪ねている。
その人は僕の伯母であるアリア・アルクエラ。
彼女は、かつて僕の父ガインと婚約していた女性だ。
だけど、彼が彼女の妹のクリスティアーナ(僕の母になった女性)に心を奪われて浮気をしてせいで
彼女の婚約はなくなった。
そして、彼女はずっと公爵家の領地運営を任されていた。
そんな悲劇の女性に、罪人の息子である僕は初めて会う。
僕の両親、そして僕自身の罪を償うために。
アルクエラ公爵領。
その中で、公爵家の屋敷から少し離れた森の中にある、小さな掘っ立て小屋。
いや、もはや掘っ立て小屋とすら言えない、ボロ小屋。
その中に、その女性はいた。
彼女は、ボロボロの服を着ている。
調べでは、まだ三十代後半のはずだが、彼女の肌は荒れ、やつれていて、髪もボサボサ。
そのせいか、まるで五十代、いや、六十代のように見えた。
そんな彼女は、仕事用の机(らしきボロ机)と、ベッド(とかろうじて見える何か)しかない部屋の中で仕事をしながら僕の方を見た。
「あなたは誰ですか?いつもの仕事を持ってくる人ではありませんね」
「初めまして、アリア伯母上。僕は、カイル・アルクエラ。先日、公爵家当主になりました」
「あら、ずいぶん若いのに公爵になったのね」
「はい。急遽僕が継ぐ事になったんです。先日、あなたの腹違いの妹である僕の母クリスティアーナと、あなたの元婚約者だった僕の父ガインが相次いで亡くなりましたので」
「そう。あの二人は死んだのね」
そう言う彼女の目には、悲しみは無い。
どうでもいい、という感情が透けて見えた。
当たり前だ。
この人は、僕の両親のせいで苦しんでいるのだから。
僕は、この人を知るまでに僕に起きた様々な出来事を思い出した。
物心ついた頃から、僕は両親から溺愛されていた。
でも、今ならわかる。
あれは溺愛という名の優しい虐待だ、と。
僕は何をしても叱られなかった。
欲しい物は何でも買ってもらえたし、叶えられなかった我儘は無い。
好きな物だけを食べ、いらない物はすぐ捨てた。
朝から晩まで、両親と遊びまくった。
それが、当たり前の事だとばかり思っていた。
……当時の僕は、本当に馬鹿だった。
呆れるほどに。
そんな僕が変わったのは、貴族が入学を義務付けられている、王都の全寮制学校に通っている時だった。
まず、入学式で。
僕が着て来た服は、全身に宝石がこれでもかとつけられた、金満体質丸出しの服だった。
そして、食べたい物だけを食べて運動なんてしてこなかった当時の僕は、豚のように肥え太っていた。
当たり前だが、僕は周囲の注目の的だった。
もちろん、悪い意味で、だが。
当時の僕はそんな事にも気づかなかった。
注目の的だった事には気付いていたが、僕の美しさ、可愛らしさなら当然、と思っていたからだ。
……僕は、両親から毎日可愛い可愛いと言われていたし、使用人達からもそう言われていたから、自分がどれほど醜い豚だったか気付いていなかったのだ。
それに、保護者として来ていた両親は僕同様、いや、それ以上に太っていて、似たような服を着ていたから。
あぁ、本当に僕は愚かだった。
そんな愚かな僕だから、入学式後に一人の生徒に「カイル公爵令息。その服似合っていないから、やめた方がいいよ。気付いていると思うけど、皆に笑われてるよ」なんて言われた時には切れて殴りかかったが、そいつにあっさり避けられてこけてしまった。
彼は、ルードヴィヒ・グリーン伯爵令息。
僕の運命を変える、のちにたった一人の我が親友となった男だ。
彼は、学校が始まって一月もする頃に僕にいろいろ指摘してくれた。
もっとも、当時の僕は馬鹿にされてる、と思っていたが。
「おまえ、よくそんな口調で話せるな。ってか、さっき話しかけたの王族だぞ。敬語使えよ。俺?俺がなんでお前みたいなやる気がないうえに貴族としての最低限の事も知らない奴に敬語使わにゃならんのだ?」
「おまえ、よくそんなに食べ物を口からこぼすな。食い物勿体ねぇよ。後でテーブル拭くメイドの気持ちを考えろ。こんな事、マナー以前の問題だぞ」
「おまえさぁ、足し算も出来ないのかよ。は?文字も読めない?まじかよ。今まで勉強してこなかったわけ?え、というか机に座った事がない、この学校が初めて?恥ずかしくないのかよ、お前」
「ってかさ、お前の家、公爵家だけどさ、よくそんな金あるな。毎日金がかかった服を用意して、いくら何でも金使いすぎだろ。それで領地運営資金残ってんのか?金は無限にあるわけじゃないんだぞ。え、金ってなんだって?冗談言うなよ」
でも、こうやって言われた事が、僕が変わるきっかけとなってくれたのだった。
当時の僕はようやく知る事が出来たのだ。
目上の人には敬語を使わなければいけない事を。
テーブルマナーなんて物がある事を。
文字が有って、数が有って、学校に入る前に貴族はある程度学んでおく事が当たり前な事を。
物を買うのにお金がかかる事も、領地を運営する事が、貴族の仕事だという事も。
本当に僕は馬鹿だった。
いや、馬鹿ならまだましかもしれない。
僕の脳みその中身は空っぽだった。
ルードヴィヒは、僕のあまりの馬鹿さ加減に呆れていた。
彼は成績が上位で、マナーも完璧な人だ。
口調が悪いのも僕に対してだけ。
貴族としての義務をきちんと体現している人でもあった。
そして、彼は優しい人でもあった。
「は?勉強を教えてくれ、だ?」
学校で何も分からないのを痛感してからさらに一か月後、僕はルードヴィヒにそうお願いした。
これ以上、笑われるのは嫌だ、当時は只々そんな気持ちで彼に頼んだのだ。
「うん。先生からも駄目って言われたし……僕と話してくれる友達もいないから、君に頼るしかなくて」
「ま、そりゃそうだろうな。お前と友達になろうなんて奴、家の事を考えてもいるわけない」
「え、それはどういう……」
「さぁな、後で自分で調べろ。皆知ってることだから。で、勉強を教えてくれ、だっけ」
「うん……僕、何も知らないし……」
「まぁ、比喩でも何でもなく本当に何も知らないからな、お前」
「……お願い、します」
生まれて初めて頭を下げる。
正直ちょっと悔しかったけど、だけど、彼に頼るしかなった。
実は、彼より前に先生に放課後の個人授業を頼んだけれど、断られた。
何かと色々理由を言っていたけど、僕にすら彼らの本音はわかった。
お前みたいな馬鹿に一から、いや、ゼロから教えてやる時間はないよ、そう目が言っていた。
当時の僕は酷いと思ったが、今はこう思っている。
まったくもってその通りだ、と。
当時の僕は公爵令息という立場を利用して偉そうに振舞って教師やクラスメイトに迷惑をかけていた。
この頃には既に公爵家の財政が火の車になりかけており、公爵家はもう終わりだと他の貴族に思われていたにも関わらず、だ。
まぁ、そんなだから僕は先生に個人授業を断られ、にっちもさっちもいかなくなり、ルードヴィヒに頼んだのだ。
なぜ普段から暴言を吐いて来る彼に頼んだのかと言うと、他の人は全員僕の事を無視していて、僕が話しかけると逃げてしまうからだ。
「しゃーねーな。教えてやるよ」
「本当に!?」
「ああ、お前は知らないだろうけど、我がグリーン伯爵家は、独自で学校を運営するほど教育に力を入れてるんだ。俺も、いずれは領地で教師をする機会があるかもしれないから、その練習台にしてやるよ」
「ありがとう!」
「まず敬語!」
「あ……えっとたしか……ありがとうございます、だっけ?」
「そう!後、教わっている時は家名に先生を付けて呼ぶ事。あと、やる気が無いと判断したら、すぐやめるからな」
「はい、グリーン先生!」
「よろしい!手加減しないから、覚悟しておけよ!」
こうして、特別授業が始まった。
「まず痩せろ!多少ふくよかなのは裕福な証だが、お前は太りすぎ!校庭十周!」
「はい、グリーン先生!」
「それは手の汚れを取るための水だ、飲むな!あと、食べる時音を出すな!どっちも基礎中の基礎だぞ!本番では笑われるだけで、誰も注意してくれないぞ!」
「はい、グリーン先生!」
「文字を覚えたら次は算数!足し算引き算!こら、一桁の計算に指を使うな!」
「はい、グリーン先生!」
「いいか、硬貨はな、金貨、銀貨、銅貨の順番で高価なんだ。待て、それは金貨じゃない。銅貨だ。キラキラ光っている方が金貨!模様もきちんと確認しろ!」
「はい、グリーン先生!」
僕は寝る間を惜しんで勉強した。
大変だったけど、知らなかった事を知れるのが楽しかった。
今まで勉強の楽しみを知らなかった事を後悔したくらいだ。
そしてルードヴィヒも、遅くまで勉強につき合ってくれたのだ。
彼との特別授業はとてもつらかったけど、様々な事を知る事が楽しくて止めようなんて気は全く起きなかった。
そして、学年が一つ上がる頃。
ようやく僕は、何も知らない正真正銘真の無知から、テストの成績が下から数えた方が早い位の単なる馬鹿に成り上がれた。
「ま、後は自分で勉強するんだな。今までの熱意があれば余裕だろ」
「ありがとうございます、グリーン先生。先生のご教授のおかげで、僕はここまでなれました」
「今日で俺の個人教室は終わりだからな、ルードヴィヒでいいよ」
そう言って、ルードヴィヒは笑った。
初めて、実家の人間以外で、認められた気がした。
「ありがとう、ルードヴィヒ。本当に……」
「バーカ。貴族が人前で泣くんじゃねぇよ」
そう言ってルードヴィヒは僕の背中をバンバン叩いた。
結構痛かったけど、なんだか嬉しかった。
こうして二学年になった僕は、成績向上を目指し勉強しつつ、かつてルードヴィヒが言っていた僕の家の事を調べ始めた。
……そして、その結果はすぐに出た。
呆れるほどに。
そして、僕がルードヴィヒと勉強して出て来た疑問点。
なぜ公爵家令息の僕に婚約者がいないのか。
両親は僕と一緒に遊び歩いていたのに、誰が公爵家の領地運営をしているのか。
それも、納得のいくものだった。
僕の母クリスティアーナが父ガインと結婚した頃、公爵家には以下の人物がいた。
公爵家当主(僕の祖父)
当主夫人(僕の祖母)
長女アリア(僕の伯母)
次女クリスティアーナ(僕の母)
そして、これに加わったのが、ガイン(僕の父)
彼らについて調べ始める前、僕は両親は他の貴族と同様に政略結婚だったが、それでも絆を紡いで来たいい夫婦だと思っていた。
でも、違った。
僕が小さい頃、公爵家の当主夫妻は僕の両親だった。
だけど、本来はアリア伯母上と僕の父が結婚するはずだったのだ。
当然、伯母上が継ぐ予定で次期公爵家当主になるべく勉強をしていた。
しかし、父ガインは浮気をし、母クリスティアーナに乗り換えた。
しかも信じられない事に、当時の公爵家当主夫妻はそれを認めたのだ。
調査によると、僕の祖父母は長女であるアリア伯母上をないがしろにし、次女のクリスティアーナを溺愛していたらしい。
僕の母は後妻の娘で、前妻の娘であるアリア伯母上とは腹違いの姉妹だったのだ。
それが原因で母だけが愛されていたのだろう。
こうして、僕の両親が公爵家を継ぐ事になった。
なってしまった。
しかし、問題が生じる。
それは、二人とも勉強がまるで出来ない、という事だ。
さすがに学校に入る前の僕ほどではないだろうが、公爵家を継ぐのは難しいくらい馬鹿だった。
そこで、僕の祖父母と両親は一計を案じた。
祖父母は可愛い二人に今更勉強なんてさせたくない。
両親も、今更勉強なんてしたくない。
だったら、難しい事は今まで勉強してきたアリアにやらせてしまえ、と。
そう、アリア伯母上は学校でも常に成績上位だった。
今でも優秀な生徒として伝説が残るほどに。
当然彼女は嫌がったが、鞭で叩き、脅して掘っ立て小屋に押し込め、最低限の扱いのまま仕事をさせられる事になった。
この事実を知った僕は激怒した。
公爵家当主が自らの責務から逃げるだけでも許せないのに、仕事を自身の姉に押し付けるなんて、と。
だが、さらに調査を進めると、恐ろしい事を知る事になった。
母クリスティアーナは性に奔放な女性で、夫であるガインとも関係を持っていたらしいが、他にも何十人もの男娼と関係を持っていた事を。
さらに、僕の祖母、つまり母の母であり、アリア伯母上の義理の母についても知ってしまった。
彼女もまた母同様に性に奔放で、多くの男性と関係を持っていた事を。
だからかもしれない。
母も、僕も。
それぞれの母親には似ているが、父親の、ひいては公爵家が代々継いでいる外見を全くと言っていい程受け継いでいなかったのだ。
……そう、僕も母も、公爵家の血を継いでいない可能性があるのだ。
それも極めて高く。
この事実は、血が大きな意味を持つ貴族社会に置いて、致命的な事だった。
だから僕に婚約者は無かったのだ。
そして、母にも婚約者がいなかったのだ。
まぁ、当然だろう。
当然だが、当事者である僕にとって絶望的な事実だった。
絶望する僕に、ルードヴィヒは教えてくれた。
「お前にはつらい事だろうがな、これはみんな知っている事だ。妻の死後間を置かずに後妻を迎える事も、決まった婚約を姉から妹に入れ替える事も異常だからな。これに興味を持たなかった貴族はまずいない。調べられてあっという間にこの事実は社交界に知れ渡ったそうだ」
「あぁ、だろう、ね。そりゃ、僕なんかが簡単に調べられるわけだよ。ってかさ、こんな僕に友達が出来るわけないし、婚約者が出来るわけないよね」
泣く僕の隣で、ルードヴィヒはずっと傍にいてくれた。
何も言わず、何もせずただずっと。
この事実を知った後も、僕は学校で勉強を続けていた。
相変わらず友達は一人だけだったけど、そのたった一人のおかげで、僕は楽しい日々を暮らしていた。
成績も、ようやく中の上くらいになれた。
だが、ある日公爵領から手紙が届いた事で、僕は帰らざるを得なくなった。
その手紙には、父が亡くなった、という事が書かれていたのだ。
その事実を知った僕は大急ぎで領地に帰ったのだが……なんと母も亡くなっていた。
死因はどちらも糖尿病。
まぁ、僕が学校に行く前から太りすぎてベッドから降りるのも一苦労だったから、当然の結末とも言えるだろう。
今思えば、我が子可愛さとは言えよく入学式に来れたものだ、と思う。
僕はちゃっちゃと葬式を済ませて公爵家当主になると、アリア伯母上について改めて調べた。
あっけなく彼女に仕事を渡していたメイドを見つけたので、そいつを問い詰めて伯母上の元へ向かった。
そして現在にいたる、というわけだ。
「伯母上。勝手とは思いますが、あなたの身に起きた事を調べました。今は亡き両親に代わり、謝罪いたします」
「あら、ずいぶんと礼儀正しいのね。あの二人の子供だから、さぞや傲慢なのだろうと思ったわ」
「はい。私もかつてはそうでした。ですが、唯一無二の親友のおかげで、立ち直る事が出来たのです」
「そう、素晴らしい人と仲良くなれたのね。よかったわね、あなたの両親のようにならなくて」
「はい、おっしゃる通りです」
本当に、ルードヴィヒに会えなかった可能性を考えると、ぞっとする。
もし会えなかったら、僕は両親以上の愚かな領主になっていただろう。
「伯母上、何か望みはありますでしょうか?アルクエラ公爵家当主として、可能な限り伯母上の願いを叶えたいと思っております」
「あら、そんな事を言っていいの?私はあなたに死んでくれと言うかもしれませんよ」
「構いません。伯母上にはそれを言うだけの資格がありますから」
そう、こんな所に閉じ込められ、最低限度の暮らし。
碌な報酬も無い。
そんな中で、両親、そして僕が金を湯水のように浪費していたのに、なんとか領地を存続させていたのだから。
そんな伯母上に、罪人の子であり、自らも罪人である僕が出来る事であれば、何でもしてあげたい。
たとえ、命を失う事になっても。
仮にそうなったとしても、きちんと公爵家の血を継ぎ、優秀な伯母上が公爵家を運営してくれるだろう。
「冗談よ。あなたの命なんて欲しくないわ。あなたが死んだって、私の幸せが帰って来る事は無いのだから。じゃぁ、とりあえず仕事は止めさせてもらって、正当な報酬を請求するわね。それで、小さな一軒家でも買う事にするわ。そこで、公爵家の行く末をじっくり観察させてもらうわ」
「かしこまりました」
「そうそう、分かってると思うけど、今や公爵領の財政は火の車。一応私も頑張ってみたけど、あなた達の散財で借金がドンドン増えているもの。その返済に苦しむあなたを見るのが楽しみね」
「それが伯母上のご希望でしたら」
僕をあざ笑いながらそういう伯母上に対して、僕は頭を下げた。
今まで公爵家をたった一人で支えてくれた真の公爵家当主。
その彼女が望むなら、僕は喜んで笑いものになろう。
「ふーん。ところで、あなたの婚約者は?どうせどこかの下級貴族の令嬢でしょ?」
「いえ、僕に婚約者はいません」
「……は?」
「僕の母は、伯母上もご存じとは思いますが、大勢の男をはべらせていた女性でした。祖母が同様な人物である事も、他の貴族に知られています。そんな僕に相手が出来るわけないでしょう?」
「いや、公爵家って土地が多いから……あ」
「そうです。伯母上もご存じの通り、公爵家の財政は火の車。数年前から領民の脱走が続いています。こんな土地に経済的価値も無いですよ」
「……そう、ね…………」
「アルクエラ公爵家は僕の代で終わりです。僕の仕事は、死ぬまでに少しでもこの領地をよくして王家に返却する事です」
「……」
伯母上は何かを考えている。
しばしの静寂。
「私の希望、訂正するわ」
「なんでしょう?僕に出来る事でしょうか?」
「もちろんよ」
そして、その希望を聞いて、僕の第一声は。
「……は?」
我ながら間抜けな声を上げていたと思う。
公爵領の小さなチャペルで。
「新婦、アリア・アルクエラ。汝、この者を夫とし、生涯愛する事を誓うか?」
「誓います」
あの出会いから一年。
伯母上はだいぶ回復した。
元々美人だったらしく、今では年相応、いや、かなり若く見えるようになっている。
この驚異的な回復には、亡くなった母クリスティアーナが関係している。
母は生前、様々な美容液や栄養剤等を買いあさっていたのだ。
これらの中には、庶民では手に入らないような魔法の力が入っている高価な物も含まれていた。
しかも、封が開いていない物やちょっとしか使っていない物ばかりだ。
恐らく、買っただけで満足したり、すぐに飽きたりしたのだろう。
これを見た時、僕は初めて母の浪費に感謝した。
両親が買っていた不要な物はそのほとんどを売り払ったが、これらは売らずに全て伯母上の為に使っている。
そのおかげで、彼女はかなり回復した。
今日は、そんな彼女が希望した結婚式。
彼女の希望、それは、結婚して子供を産むことだった。
「新郎、カイル・アルクエラ。汝、この者を妻とし、生涯愛する事を誓うか?」
「誓います」
そう、僕との子供を。
すでに彼女のお腹には、僕との子供がいる。
これが彼女の望み。
あの日、彼女は言った。
「私はずっと公爵家を守る為に働いてきた。その公爵家が無くなるなんて嫌。私の頑張りが全て無になる事だけは絶対に嫌!」
そう言って、僕と結婚して子を残す事を提案してきたのだ。
言っておくが、貴族社会においてこのくらい近い親族との結婚は珍しくない。
僕と彼女は親子ほど年が離れているが、それだって珍しい事ではあるが無い事はない。
そう、この結婚は貴族社会では普通の事なのだ。
そして、今僕達は新たな人生を歩き始める。
この小さなチャペルから。
いるのは、僕達二人と神父様、そして僕の親友のルードヴィヒだけだけど、それで十分。
「ねぇ、あなた。これは私の復讐だと思う?あなたにこんなおばさんと結婚させて、公爵家を乗っ取ろうと言う、復讐」
「それでもいいです。僕は絶対に手に入らないと思っていた、妻と子を得る事が出来たんだから」
「そう?じゃぁ、せいぜい幸せにしてもらわないと、ね」
こうして、僕達は夫婦になった。
この後の話をしよう。
僕の愛しい妻、アリアは一男一女を産んだ。
この子達は小さい頃からグリーン伯爵家の学校や公爵家の家庭教師の元で学び、そして僕も通った学校でかなりの好成績を残した。
そして、僕の長男はルードヴィヒの娘と結婚して、その頃には以前の何倍もの収益を得る事になった公爵家を継いで行く事になった。
そして、長男が結婚して家を継ぎ、さらにその子供が公爵家を継いだ頃、アリアは幸せな笑顔を浮かべながらこの世を去った。
その後、僕の元にはぜひ後妻を、という手紙がかなり来た。
その頃には僕もかなりの年齢だったが、それでも国の要になった公爵家と縁を結びたい人がかなりいたからだ。
もちろん丁重にお断りしたが。
そして僕は再婚する事なく、その生涯を閉じた。
お楽しみいただけましたでしょうか?
この作品、なんだか急に浮かんできたんです。
我ながら珍しく、最初に思ったままの内容で書ききれました。
テーマとしては、もしザマァが無かった世界で主人公はどうなるか?
といった感じでしょうか?
よろしければ、ご意見ご感想、レビュー以外にも、誤字脱字やおかしい箇所を指摘していただけると幸いです。
いいねや星での評価もお願いいたします。
追記1(5/14)
誤字指摘が、今までの作品でなかった以上に多い!
ちゃんと確認したはずなのに……ショック!
というか、【おば】が【伯母】【叔母】の2種類あるって知らなかった(マジで)
私のアホー!
皆様、おかげさまで超久々のヒットになりました。
最近全然読まれなくてつらかったのですが、おかげさまで多くの方に読んでいただけました。
本当に、本当にありがとうございます。
追記2(5/15)
なんと、[日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング-短編で1位を取る事が出来ました。
これもすべて、読んでいただいた方、評価をつけていただいた方のおかげです。
本当にありがとうございます!
あと、生まれた子供の数を減らしました。
感想欄で、ボロボロだったのに子供産みすぎ、と言われたので。
たしかに、いくら何でも生みすぎかもしれんと思い修正しました。
ご指摘ありがとうございました。
謝罪(5/17)
申し訳ありません。
今忙しく、感想の返信を書く事が出来ません。
ちゃんと書いていく予定ですので、しばらくお待ちください。
2024年5月14日
[日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング:3位
2024年5月15日
[日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング:2位
[日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング-短編:1位
2024年5月17日
[週間] ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング:4位
[週間] ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング - 短編:2位
2024年5月30日
[月間] ヒューマンドラマ〔文芸〕ランキング - 短編:4位