魔女集会へようこそ
魔女集会とは魔女の組合の名前であると同時に実際の集会名である。
この魔女集会にはルールがある。
1,遅刻厳禁
2,戦闘厳禁
3,家族及び拾ったものの話厳禁
である。なお、ルールは50年ごとに投票で改定されている。不動のルールが家族及び拾ったものの話厳禁である。昔は変なルールだと思っていたが、今はそれなりに理由があったと知る。
魔女は数年に一度の義務として魔女集会へ参加しなければならない。生存確認や変なことをしていないかという観察も兼ねてのものだ。議題はあって無きが如く。いつものように論文発表や新規魔女のお披露目などがある。
なお、魔女は生まれたときから魔女なので、新規魔女のお披露目は大体赤子自慢である。きゃわいーと黄色い声が飛び交う異空間が発生する。
この伝統により、あら、あなたのことは赤ちゃんの頃から知っているのよ? というカードを常備できることになる。オムツかえたとか、寝かしつけてやったとか武勇伝も追加されがちである。
若い魔女からは不評だが、いつかわかる日がくるだろう。あのふにゃふにゃの可愛いいきものが、憎たらしい反抗期を迎えて生意気言い始めたころに。
今日はあたしも発表することがあって数年ぶりに参加し、大変緊張した。草魔法に含まれない菌類の扱いについてだ。キノコやコケも薬の原材料として栽培することがある。育成書は出回っているのだが、育てる者により成功と失敗があり、何がちがうのかというところで議論はあった。そこに一石を投じた形になる。幸い素人ですがと質問を投げかけてくる者はいなかった。弟子が脅すから……。
発表には連名で弟子の名を入れておいてある。地道に役に立つ研究もしていると知られれば、少しは監視の目も緩むと思いたいところである。
今ここにいない弟子は魔法警察の監視下にある。
弟子はやり過ぎたのだが、その原因はあたしなので反省している。
栄養剤、植物界で異例のヒット。今まで成長に伸び悩んでいた木々を救いし、珠玉の一品。そこまではよかった。
成長しないと悩んでいたのは若い木だけではなく、長命な木々もそうだった。彼らは栄養剤で成長し、もしかしたら世界一になれるかもしれないと思ったのだ。
そうして、世界樹は俺だと種子を投げ合い、花粉を飛ばし合う戦争がはじまりそうなのだそうだ……。植物精霊だけでなく、花人、移動根菜、走行覇王樹も参戦し、世は戦国時代という様相を……。
おっとり種族を駆り立てる世界一の樹を決める戦い。すげぇなと渇いた笑いが出てくる。
魔女界も騒然とした。そして、すぐに栄養剤の出荷元が割れた。当たり前である。そんなことになっているなんて思ってなかったんだから。
玄関に魔法警察が立っていて、呆然としたわっ!
世界を牛耳るなんて人聞きの悪いと弟子(現物)を見せたら黙った。ほんとに、あれ? とでも言いたげな沈黙が痛かった。
その時の弟子は、ご機嫌に水やりをしていた。恰好がどこの農家の人? と言いたくなるようなつなぎを着てでかい麦わら帽子をかぶって、でっかい手袋してた。顔には泥もついてた。
「はへ?」
言う事欠いてそんな間抜けな一言を口にした。
あまりにも世界征服という単語からほど遠いと言うことから穏やかな尋問で済んだのが幸いだ。おいしいお茶が穏やかにさせる効果倍増のハーブティだったことは黙っていようと思う。あちこちから珍しい植物集まっちゃってとごめんなさいしていたが、あたしが聞いてたよりずっと多かった点は後で事情聴取をした。
いや、だって、言うと持ってかれると思ってぇ。などと言ったので拳骨を落としておいた。最近、庭に居ついたドライアドとなにかごそごそしていると思ったら。
ドライアドのほうは除草剤撒くぞとおどしておいた。弟子の父が一撃必殺と開発に余念がなかったぞ。うちの娘は嫁にやらぬと言うが、あのドライアド、無性。おそらく超安全。おそらくなのは、まあ、精神的な恋愛も無きにしも非ずだからだ。
はぁ、全く。面倒ばかりかけてくる娘だ。
あ? 娘は元気かって? 元気すぎて問題ばっかり起こす。いい加減落ち着いてほしい。そうやって笑っているといいよ。ああいうのはな、ある日突然、目の前に落ちてるんだ。暇つぶしが暇つぶしじゃなくなる日が来る。
おばさんはうるさいって? おお、そうだとも、小娘。お前のオムツをかえてやったこともあるからな。あと、犬のぬいぐるみとひらひらドレスと……。一昨年にも髪飾り送っただろ。
なんだって? 会いに来てくれなくて寂しかった。先の娘として妹にマウント取りたい。
……娘? いや、そんなつもりはないというか実母が睨むからマジでやめて。反抗期の面倒なやつに巻き込まないで。
……まったく。家族の話をしたらろくな話にならない。
まあ、幸せそうでよかったとかなんとか余計なお世話だ。次は娘を連れて遊びにこい? 面白そうだからって、いいぞ。振り回されてみるがよかろう。
走行覇王樹。砂漠とか荒れ野に生息。二足歩行して時に爆走するサボテン。一応喋る。語尾にサボとつくとかつかないとか。受肉した精霊という扱いだが、いわゆるモンスター扱いされる地域もある。