草魔法の呼び声
世の中には、知らん方が良いことがある。しかし、目にしてみるまで知らなきゃよかったとわからないもんである。
理由は不明だが、異世界転生して草魔法使いな私、魔女の弟子をやっている。平和な日常を送っていたのに永劫口にしてはいけない秘密を(強制的に)手に入れてしまったのだ。
それは山奥の屋久杉のような縄文杉のような巨大杉に寄生した植物(現地原産)を退治してしばらくしてのことだった。
魔女お気に入りのお茶の栽培と引き換えに手にした植物図鑑を読んでいて疑問に思ったことがある。
あの植物やっぱりおかしくね? と。分類的に締め殺しの木、元の世界的に言えばがじゅまるみたいなやつである。亜熱帯に生息してそうな植物がなぜあんな所にという疑問もあるが、それは棚上げしている。なんせ異世界、植生一緒じゃない。おかしいところは成長速度。聞き取りによると一年くらいで広がった、らしい。
らしいなのはドライアドの時間感覚あてにならない、と魔女が言っていたからだ。その証拠のように、年輪がどのくらい増えたとか、昼と夜がなんかいあったとか言いだす……。わりと異種族あるあるだそうだ。
もしかしたら、一年が十年かもしれないが、それにしたって栄養剤で元気になって襲ってくるなんてのはありえない。魔女は寄生植物の一部を採取して帰ったようだけど、私には持って帰るなよと厳命してきた。ので、こっそり、葉っぱをくすねた。ばれてないと思ったら、弟子、変な植物増やしたら庭を焼くからな? と釘を刺された。ばれとるがな。
庭を焼かれては困るのでドライフラワーのようにかさっかさにしてある。山奥到達記念と思って栞にでもしようかなと思っている。
それはともかく、魔女にこれ変じゃね?と訴えたら難しい顔でため息をつかれた。
遺跡探索行くぞって?
魔女が言うには200年くらい前にヒャッハー! した草魔法使いがいたらしい。その人のラボが残っていて、今回出てきたっぽい。
マジもののバイオハザードじゃないですか。やだぁ。お留守番してますね! と言ったのに強制的に連行された。今回は父もついてきたがったが、やっぱりお留守番だ。家を守るのが父のお仕事って魔女……。父がきらっきらした目で見てるの全く気がついてないのが、魔女クオリティ。
それはさておき、今回は同行者が増えた。魔女の知り合いだという魔法使い。私よりは年上そうだけど、つよそうでもない。私の十倍は年上、あ、そうですか。
魔法使いというのは、男の魔女ではない。
魔女は魔女という種族として確立されている。女だけの種族であり子供を作るなら他種族と交わって、女なら確定魔女なんだそうだ。
魔法使いというのは、その他種族の魔法を主体に使う職業。男女ともに存在する。その理論で言えば、私も魔法使いである。草魔法使い(自称)は草魔法使い(正式名称)だったのだ。わかってて名乗ってるとおもっていたと魔女に呆れられた。
また来たのか! となぜかドライアドに歓迎された。わかってる。栄養剤だな? と賄賂に渡しておいた。今度は成分を変えたものだから、味見してレポートを提出してもらうことにした。わかりやすいように5段階評価で。
ご機嫌なドライアドたちに見送られ、魔女と魔法使いと私は森の奥に進んだ。
道なき道をかきわけ、我らは未知の洞窟、じゃなかった、草魔法使いのラボを見つけた。くそじじい、あんなところに作りやがってと魔女が言っていたのでもしかしたら既知の魔法使いかもしれない。そういえば、魔女、草魔法にも詳しかった。過去のロマンスか!?と思ったけど、魔女だしな……。三百年生きている女は一味違う。
さて、洞窟である。
洞窟っぽい湿っぽいなんかとかくらいなんかがあった。コケが! 色々な種類のコケがっ!
あ、なんで首根っこ掴まれたの私。どうして、ごりごり引きずられてるの私。ねぇ、魔女助けて。迂闊に触んなバカとかなんだ、この魔法使い。この、ええと、ショタじじい! いや、ショタというには年がいってるか。いい上位互換の語彙がない。無念だ。
魔法使いに引きずられるから魔女に手をつながれるという変更があったもののおまえは自由にさせんという強い意志を感じる。なんで連れてきた。
いざというときに全部枯らすため? あ、そういう破壊行為要員。そんな感じ。私、そんなに攻撃魔法得意じゃないんだけど。白い目で見られたのなんで?
洞窟内のあちこちに扉があり、その一つ一つが別種の植物の家だった。中身は腐ったり、繫栄したり、そのままだったり色々。中身を確認するごとに元の植物はなんだったのかとか、どういった変化がされているのかとか調べさせられた。本業と言われればそうなんだけど。
……そうなんだけど。
寄生植物とかグロイ。中身、言いたくない。桜の木の下に埋まっているモノとか、あれ系。すでに骨。
あの野郎、禁忌に手をつけてやがったとか魔女が毒づいておりまして……。背後に燃える怒りの炎。魔法使いもいらっとしているようで。
あの、私、帰っていいですかね? あ、ダメ。そう。
最奥にいたのは一本の木だった。洞窟の天井は抜けていて、そのまま上に。
そして、生っていたのが。
ポトリと落ちたひとつは。そのままぐしゃりと潰れた。潰れたまま、うごめいて、木に戻っていった。そんな跡が床一面にあった。赤黒い床の模様はすべて……。
魔女が苦い顔で、帰るぞという。魔法使いは慌てたように処理しましょうと言いだしていた。わたしもあれを放っておくほうがまずい気がする。正気値削られる何かだ。
あそこまで作ったやつが、なにも仕掛けもなく、処分させるわけがないだろと。
私にも近づくなよと魔女は釘を刺していたが、言い方がわざとらしい。なんかあるのかな、あの木と植物専門の鑑定を使えば、ニセヒトの木と名前が出た。
……。
見なかったことにした。調べなきゃよかった。
よくわかんないですねぇと首をかしげておいた。おそらく、魔女はこれの正体に気がついていて黙っている。魔法使いは、うまれたものが何かまではわかっていないだろう。
草魔法だけではないとはいえ、こういうモノを作れてしまうということを外に知られるのは大変まずい。危機感を覚えるなんかだ。黙ってるに限る。
トラップは床に植えられていた種で踏んで発芽、対象者に寄生する。で、死んだらここに戻るようになっている……。ゾンビ爆誕。これ、たぶん、草魔法だけじゃなくて他の魔法も混ぜて作った植物。
わかったことを魔女に伝えれば、燃すか?と言いだしたが、燃やしたら胞子が飛ぶそうだ。思わず天井を見た。ああ、飛んでくね。悪夢が。
魔法使いも表情を引きつらせておうちにかえることに同意してくれた。
どう考えてもバイオハザード案件。私のしたことはまだかわいかった。
帰り道、魔女が言うには、この草魔法使いは元々は普通の魔法使いだったそうだ。飢饉などがなくなるように収穫が増える麦など作ったりもしていたらしい。ただ、成功を焦るあまり、反動を軽く見た。無尽蔵に収穫できることもなく、土地が痩せてなにも作れなくなったりもした。そうしたことの責任を全部かぶされて辺境に追いやられたらしい。
魔女と知り合ったのは魔女がまだ駆け出しのころだそうだ。
お茶を振舞ってくれたんだ。そういう魔女は懐かしそうで悲しそうだった。
洞窟はそのまま保存することにした。だって、変更すると別種の植物に進化しそうだったから。入り口だけ鉄格子をつけてきた。魔法使いが大活躍。元々閉鎖するつもりで、その要員として連れてきたらしい。まあ、魔法使いの組合との兼ね合いもあるみたいだけど。
ドライアドの迅速すぎるレポートを手に私たちはおうちにかえることにした。あなた方、根が植物だからおっとりしているんじゃなかったの? 手紙の返事? 一年後くらいだと迅速という生命体ではなかったの? お近くのドライアドに頼むと三日で返事が返ってくるよ。おかしくない?
それどころか、性別不明ドライアドに同居したいわぁとにじり寄られている。今のところお断りしているけど……。
はぁ、疲れたと思ってベッドに入ったときに、その手はにょっきりと生えてきた。
へ? と思っているうちに床からなんか生えてきた。唖然としてそれをみていれば、髪みたいなものがうごめいて伸びて……。
ああ、窓に!窓に!
その後、悲鳴を聞きつけた魔女により、床から生えた植物はポイ捨てされました。犯人は、寝ぼけていたと申告しております。
魔女の団体→魔女集会(一個の団体)
魔法使いの団体→魔法使い協同組合連合(複数の協同組合の集合体)