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空飛ぶ悪魔を処理するフィルター魔法について

 あたしには弟子がいる。

 ぶっとんだ弟子だ。むしろ、なんでおまえ貴族のご令嬢なの? というやつだ。

 生い立ちを聞けばかわいそうなのに、生身の弟子を見ると、あ、うん、という気分になる。野生児だ。それも割となんも考えてない系。


 さて、我が弟子。幼少期にやってきた。お腹空いたからこの草で肉を食わせろといってきた。持ってきたのは薬草。普通の薬草ね?と調べたら、異常な薬効があった。外に出してはいけないレベルの危険物。引きつりそうな顔で、どこで手に入れたかと聞けば、草魔法で作ったという。

 悲鳴をあげなかったあたし、偉かった。とりあえず、家にあるソーセージを与え、夜に食べようと楽しみしていたタマゴも提供しておいた。

 やばい幼女があらわれたもんだと頭を抱える。


 地味も地味な草魔法であるが、これは、植物の魔法である。あらゆる植物の生成に関与できるという。人というのは、植物で生きている。人ならず、肉になるような家畜だって植物を食べている。だから、お肉も野菜など暴論をかました知り合いの魔女がいたが、それはさておき。

 それくらい、植物というのは大事なのである。

 その植物育成の草魔法が最下層に置かれているのは、二つの理由がある。

 植物というのが本当に地味に当たり前にしかみえないこと。

 植物というのが世の根幹にあると知って、改造を尽くされた過去があること。


 よりよく収穫できるようにという方面ですら、生態系をぶっ壊すのだ。そりゃ、草魔法最高とかやらねぇよ。

 その当時に作られた毒を極めた植物とかあるんだよ。天然だからって体にいいってことない。


 幸いこの草魔法、適性がぶっ壊れてるような人はめったにいない。


 いないはずだが、今、目の前で卵喰ってる。そうかそうか、スクランブルエッグおいしいか。あれはお湯で作るのがコツでね……じゃなくて、だ。

 このなんもわかってない顔の危険生物を野に放つわけにはいかない。育てなきゃ。

 倫理大事。常識も大事。

 だというのにあたし自身の倫理も常識も自信がないときている。失敗したらごめんな、世の中の人と腹をくくった。

 その間に幼女、食事終了。にぱっと笑ってごちそうさまという。

 ああ、なんか、口が汚れて、全く、と拭いてあげたらお母さんみたいと言われた。

 なんか、ずきゅんときた。

 これは別の知人の魔女が浮浪児を拾ったときに言った言葉だが、今ならがっしり手をつかんでわかると言えそうだ。

 わかんないな、ひまなの?と言ってけんかしたけど、詫びの手紙を送ろう、そうしよう。


 まあ、そんな弟子。どこからやってきたのかと思えば、ワープホールからきていた。誰か大人が細工したあとがある。調べると領主館につながっていた。

 当主ってだれだったっけ?と思えば、あのめそめそ生物と思い当たる。あの子も小さいとき来ていたものだ。なんか、花をもらったことがある。いや、毎回もらったような? 孫にもらうみたいで嬉しかったが、ある日を境に来なくなり、結婚しただの子供がいるだの聞いた、ような?


 魔女も300年もやってると10年や20年くらい前まで最近で、そして、最近のことほど忘れる。ボケ始めたかと慄くが、魔女の寿命的にまだ200年くらい残ってるから……あれ? 200年しか残ってないの!? 半分過ぎてんの?

 今更なことに気がついて、終活を意識できたのはいいかもしれない。怠惰を極めて成果が中途半端で死ぬとか恥ずかしい。後世の魔女に笑われる。あたしが今まで笑ってきたみたいに。


 そんなこんなで始まった通い弟子との日々は、穏やかさとは無縁だった。あれするな、これするな、ちゃんとしろだのなんだの。過去のあたしが見たらおまえもそうだったぞと突っ込まれそうなくらいだが、棚上げである。貴族のお嬢が野猿でいいわけがない。つてを頼って礼儀作法の本を読みこんだり、領地をあちこち見回りして地理情報を手に入れたりとやることが多かった。

 ついでに問題があったところを直したりもしたが、そこはいつか弟子が継ぐ地だしなと出世払いにしておいた。


 そうして十数年、なんとか、最低限貴族のご令嬢を作り上げた、というのに!

 婚約破棄されて家を追い出された。とやってきた、この気持ちよ。その父も一緒に追い出されてるとかどうなんだ。

 さすがに、貴族社会に殴り込みはできないが、呪いくらいはと各種用意したが使わないと言う。


 自分でやってきたのでと、いい笑顔で庭を荒らしてきたという。それでいいならいいけど、と軽く流した。

 流しちゃダメだった。


 効果がやってきたのは、その日から半年後だ。

 変なもやがあると相談が来た。場所は領主館周辺。風が吹くと白いものがふわふわまき散らされるという。

 いやな予感がした。

 人によってはくしゃみが止まらないとか、涙がとまりませんとか、なるらしい。


 弟子がふふふと嗤っていた。邪悪過ぎた。

 そうだ、こいつ、真正の草魔法使いだったわ。至高の毒とか作っちゃうやつらの系譜に連なるものの復讐が庭を荒らす程度で済むわけがなかった。


 ご近所迷惑はダメだろと説教した。反省してますと言う顔をしているが、あれはえーいいじゃないかって顔だぞ。


 あたしは事情聴取し、新たなる魔法の開発をした。

 花粉だけ通さない風魔法。

 それで領主館を包む。これで無事、花粉が外に飛んでいくことはない。面倒だが、週一でかけなおすことになった。全く、仕事が増える。

 しかし、なぜか周辺住民からは感謝された。弟子の仕業というのをきちんと隠蔽したのがいいのだろう。


 まったく、この弟子といると落ち着く暇もない。

 その父も相変わらず泣き虫で困る。涙目で、やることやってきたんだからそこは評価する。そういったら感極まったように泣かれてやっぱり困った。

 元々ここは雨が多い土地で、川の氾濫が多かった。それを水魔法を使う領主を置いて穏やかにさせて何とかやっていた。それが、別の属性の魔法を使う領主となると今までと同じようにはできない。

 家を追われたと言われてもそのあたりはちゃんと管理していて、まじめなんだかなんかなと。


 むくわれても、いいと思うんだ。


 弟子とその父がいる生活はそれなりに楽しいが、やっぱり、家に帰そう。

 まず、家にいる後妻とか娘を追いだして、という話をしたら、ぎゅっと手を握られた。

 は? 一緒に帰りましょうってなに?

 え、お母様になって? 今までそんなこと言って、言ってたな。お母さんみたいとかな。

 昔から好きでしたって何? 嫁がいただろ。嫁が。

 男作って逃げたぁ? 外聞悪いから病死にしてる? 初耳だわ。そっちの娘も衝撃受けてるだろ、言い方考えろ。

 あ、ああ、まあ、ちょっと考え、ええっ、なんだその怖い薬、自白剤? は、や、やめ……。

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