もう怖くない草魔法
私は異世界に転生して、草魔法使いになった。
偉大なる草魔法使いはならない。
この世界を変えるほどの革命なんていらないんだ。
ただそこらんのぺんぺん草くらいのお気軽さと丈夫さで生きていこうと思っている。
そう思ったのは、ある世界樹候補の一本から話を聞いたからだ。
遠い昔、魔女、という種族は存在しなかった。人の魔法使いが、より強く、より美しいものを求めて作り上げたのが魔女。彼女たちは、歪で、そうとわかっていて、飄々と生きている。
大概のことには鷹揚で、破天荒な彼女たちは一つだけ許さないことがある。
人の、というより、動物の魔法。
そんなものは、存在しない。
ということにする。
あるけれど、根絶しているし、新しく生まれれば殺すし、情報さえも許さない。
出自を知るがゆえに、同じことを繰り返させない。
歴史に残るほどの魔女の所業は大体これ関連なんだそうだ。
君はさ、とてもそこに近いから、気をつけて。とても心配そうにそう言われた。
君に長生きしてもらって人として生きて人として死んでほしい。
長生き生物から言われると含蓄があるように思える。
魔女のように生きたいわけではない。
それならば、私は?
なんとなく、実家の娘をしているだけで人生使っていいものだろうか?
このまま、結婚とかしてここで生きていく? いや、別に独身でもいいけど。
なんだか、もったいない気がした。
それから、旅に出ることしにした。
義兄が領地の面倒をみてくれるのだから、私はここにいる必要もない。世界が広いのは知っている。でも、実感はしていなかったような気がした。
私は私として世界を知るために旅に出る。
旅に出る宣言に魔女はおろおろするし、父は慌てて素っ頓狂なことを言いだした。義兄は、いってらっしゃいと速やかに送り出す準備をしてくれた。あ、邪魔だった? そういうやつ? ありがたいけど微妙だ。
庭の生き物たちは私が旅に出るという話をすればバタバタと各地に連絡し始めた。うちの故郷いいところなので寄って下さいと頼まれ、代わりに庭は守っておきますからと恩を売られた。どうせなら、領地を守ってくれたまえよ。
学校で知り合った友人たちは手紙を書いておいた。返事もできなくなってしまうからね。近くに行ったら寄るよと書き添えて。
まずはこの国、それからもっと遠くまで。
私は、タンポポの綿毛のようにふわふわと漂って、いつかどこかに。
……って、ちょっと待って、なんで、ついてくんの。相棒!? いつの間に!? 各地の長老にご紹介する任務を請け負ってる? なんで勝手に? ああ、もう泣き落としとか最悪。
私の一人旅は、一人と一株の旅になった。
その旅も騒がしかったのはまた別のお話。
この話はどこまで書けば、完結と打てるのかと検討した結果、俺たちの旅はこれからだ、になりました。ネタがあれば延々と続けられそうでしたが、一旦ここで閉じます。
これまで読んでいただきありがとうございました。
元貴族のご令嬢、現流浪の草魔法使い(特級)とオネエ系無性(美人)のドライアドとの旅。
旅に出て三日後くらいに、あなたねぇ、磨きゃ光るんだから化粧水くらいつけなさいよぉと説教される。とかどうでもいいイベントが盛りだくさんな気がします。雑草枯らしまくりの枯らし魔女(偽)と言われるとか。そして、各地で微妙に邪悪なざまぁをしていくのです。
そんな異世界系ロード―ムービーなお話も書いてみたいものです。