花火は冬にあがるもの?(タマゲッターハウス:ハイファンタジーの怪)
とある空き屋敷の地下に謎の通路が見つかり、冒険者たちは調査に乗り出した。
藍さくら様の「真冬の花火企画」参加作品です。
タマゲッターハウスは『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
ギギイィィィ……
きしむ音をたてながら、洋館の重厚な扉がゆっくりと開かれた。
三人組の冒険者たちが中に足を踏み入れた。
細身の少年ラドル、神官の少女リューディア、長剣を持った女性レイン。
彼ら三人は冒険者ギルドからの依頼でここにきていた。
ここは街から外れた場所に建っている洋館だ。
周囲は森に囲まれている。
「この屋敷、外から見ても何となく不気味な感じだね。前の所有者が亡くなってからはずっと空き家だったんだって?」
とラドルがいった。それにリューディアは頷いた。
「そうなんです。ラドルさん。この屋敷のことは私も以前から知ってましたけど。誰も住んでないはずです。ですよね。レインさん」
レインも黙ってうなずいた。
リューディアとレインが最近までずっと二人で冒険者パーティーを組んで依頼をこなしていた。
一か月ほど前、とある事件でリューディアが新人冒険者のラドルと知り合った。
その後にリューディアはレインの承諾を受けて、ラドルを冒険者パーティーに誘ったのだ。
洋館の中を歩きながら、彼らは調査の任務についての詳細を確認した。
レインは依頼者からもらったという図面の写しを取り出した。
「屋敷の管理をしているものが掃除をしているとき、存在を知られていなかった地下への入り口が見つけたそうだ。そこでは通路が長く伸びていて、その先で物音がきこえたらしい。先がどうなっているかを調べるのが今回の依頼だ」
「オレは地下室じゃなくて、地下通路が見つかるってのが変だと思うんだよね。近くには別の建物もないし、どこにつながっているのやら」
地下室への階段を降りると、依頼されたとおり横道が伸びている。その先は右へ左へと道が折れており、分かれ道もあるそうだった。
「ここはまさか、ダンジョンじゃないだろうな。だとすると我々だけだと荷が重いかもしれんぞ」
レインが言った。
ダンジョンとは、地下が迷路状になっていて時折モンスターが湧き出る場所だ。
この街にダンジョンが発見されたことはない。ここがダンジョンだとすると三人だけでは危険かもしれない。
「今のところ、ダンジョン特有の気配は感じられないですよ。レインさん」
リューディアは神聖な力を持つ神官として、特殊な気配を感じ取ることができる。
「ま、無理はしないで慎重にいこう。しばらく進んで、やばそうだったら、早めに退散しようぜ。全部を調べ切る必要はないんだよな」
ラドルが言った。レインとリューディアもそれにうなづいた。
リューディアは杖を掲げた神聖な光が周囲を照らた。
「では、参りましょうか」
しばらく進むと小部屋のような場所があり、そこに古びた机とイスがあった。
机の上には何も置かれていない。
リューディアがイスに近づいた。
「ちょうどいいですね。ここで少し休んで……きゃっ」
リューディアが小さく悲鳴をあげた。急にラドルがリューディアの腕を引っ張ったのだ。
「ラドルさん! 痛いじゃないですか! 急に何するんですかっ」
「よく見ろ、リューディア。あのイスは、普通じゃないぞ」
ラドルの言葉と同時にイスはその場を跳びはねて、ラドルたちに向かってきた。
「ていっ! せやあっ」
ラドルは両手のこぶしを握りしめ、飛んでくるイスを殴りつけた。
両手に装着した魔法の手甲は打撃の威力を底上げしてくれるのだ。
何度か殴りつけると、イスはバラバラになって動かなくなった。
「へっ……。大した事ねーな」
「あ、ラドルさん。さっきは怒鳴ってすみません。……あ、ありが……」
「別にいいよ。リューディアはドジなところがあるから気をつけなっ」
ラドルは、そういうとぷいっと顔をそむけた。
リューディアは黙って下を向いた。
そんな二人の様子をみて、レインは肩をすくめる。
この二人、互いに相手を好いていることはレインには丸わかりだった。
今のラドルの態度は、赤くなった顔を見られたくなかったのだろう。
だがどういうわけか、二人とも相手が自分のことを嫌っているのだと勘違いしているフシがある。
まぁ、それについては面白いから黙っておこう。レインはそう思った。
むしろ、あのイスのようなものが、通路の先でもでてくるかもしれないと考えていた。
彼らは迷路のような通路を進んでいくうちに、通路の先に何かが落ちているのに気づいた。
どうやら女の子の人形のようだ。
「可愛い人形ですね。こんなところに置かれてて、かわいそうです」
「だから不用意に近づくなって、リューディア」
ラドルがリューディアの服のすそを掴んだ。
「レインさん、あれを確認してもらえますか?」
「おう。どう見てもこれは怪しいだろう」
レインが剣を抜いて近づいていくと、人形がむくりと立ち上がった。
女の子の人形は手にナイフを持っている。
そして、ニヤリと笑うと自分の首に傷をつけた。
そこから血がしたたり落ちた。
「き……気持ち悪いです……」
「へたに近づいてたら、リューディアが切られていたかもな。毒でも仕込まれてたら大変だったぞ」
「はぁ、すみません。ラドルさん」
人形はナイフを振りかざしながら、地面をけって飛び上がった。
「フンッ……」
レインが剣を一振りすると、人形の首と胴が分かれて地面に転がった。
血が広がっていく。
レインは涼しい顔で剣を鞘に納めた。
「あの……。レインさん。なんの迷いもなく女の子の首を落としましたね」
「ためらうわけなかろう。ラドル。あれが生きた人間だったとしてもだ。こちらを刃を向けた時点で敵だ」
「そんなもんですかねぇ……」
どこか納得いかなさそうなラドルであった。
「ところでラドルさん、いつまで私の服を掴んでいるんですか?」
「あ、わりぃ」
慌てて手をはなし、ラドルはごまかすように手をばたばたとふった。
「へへっ……、ここは化け物屋敷みたいだな」
「そうですね。ラドルさんがいると化け猫屋敷みたいです」
「だれがネコだっ」
ラドルは目つきや身のこなしから、ネコみたいだと言われることが多かった。
「ま、まぁ、ここが普通じゃないってのはわかったわけだ。ある程度調べたら引き上げた方がいいと思うぜ」
そういってラドルは歩き出した。
ため息をついてリューディアが追い、それを興味深げに見ながらレインが続く。
なんどか奇妙な怪物と遭遇し、ラドルとレインがそれを撃退した。
リューディアも前に出ようとしたが、ラドルはそれを止めた。
「アンデット系モンスターで、もっと手ごわいのがいるかもしれない。なら、リューディアの魔力は温存しておくべきだろう」
進みながら、レインはここまで倒してきた敵のことを考えていた。
レインはリューディアとバディを組む以前に、死体型怪物を倒した経験があった。
さきほどまでの敵はそれらとも様子が違っていた。
人形も出てきたが、それ以外の敵も魔法で動いているような印象だったのだ。
レインには、リューディアが何か事情をかかえているように感じられた。
依頼のことをレインに話した時にも違和感があったし、ここでは何度も不用意にモンスターに近づきすぎている。
なんとなく、今回の依頼がどういうものなのかレインには想像ができた。
まぁ、面白いから黙っておこう。レインはそう思った。
しばらく進むと通路が広くなっている場所があった。
地面に人が倒れているようだ。大人ぐらいの大きさと、もう一方は幼児……いや、赤ん坊に近い大きさだ。
ラドルは、駆け寄ろうとするリューディアの前に手を伸ばして遮った。
「だからぁ、油断するなって。こんなところで行き倒れのやつがいるわけないって。レインさん。片方を頼みます」
「引き受けよう」
二体の怪物が現れた。
小さいほうがラドルにとびかかってきた。
難なくかわして手甲を叩きつけた。
大きい方は、レインの剣で両腕を落とされ、首をはねられ、胴も切り裂かれて倒れた。
動かなくなった二体を見据え、ラドルがレインに尋ねる。
「なぁ、レインさん。今回のこの依頼って、レインさんが受けてきたの?」
ラドルがきくと、レインは首を横に振る。
「いや、リューディアだ。太陽神の神殿経由でギルドに依頼がきたらしいな。だから最初にリューディアが話を受けたんだろう?」
「……は、はい。そうです」
リューディアが答えたとき、通路の先の方からガチャガチャという音が近づいてきた。
それは剣を持ったガイコツであった。
「リューディア、レインさん。あれはオレがやります。まかせてください」
「よかろう。だが、本当にまずそうだったら手を出すぞ」
「はい。それでいいです。ありがとうございます」
前にでたラドルにリューディアが声をかける。
「あ……あのっ……ラドルさん」
「オレはだいじょうぶだ。それにオレの戦い方を見るのが、今回のリューディアの仕事なんだろ?」
「……!」
驚いたような顔を浮かべたリューディアに、ラドルは笑顔を向けた。
「さっきからおかしいと思ってたんだ。リューはドジだけど、同じ失敗を繰り返しはしないだろ。たぶん、オレがこのパーティーでやっていけるかテストしてるんだよな。だったら見ててくれ。これがオレだっ」
ラドルはソリのあるカトラスと呼ばれる短剣を抜き、ガイコツに向かって駆け出した。
ガイコツはラドルに剣を振り下ろす。
ラドルはカトラスでそれを受け流し、ガイコツの首を目掛けて振るった。
ガイコツはしりぞいてかわす。
何度か剣を合わせた後、ラドルは突き放すようにカトラスでガイコツの剣を跳ね上げた。
そして、這うような体勢まで身を低くしてガイコツのヒザを切りつけた。
倒れ込んだガイコツの頭を、ラドルはカトラスでたたき割った。
「ラドルさん……やりましたね」
リューディアが嬉しそうに言った。しかし、隣にいたレインは首を振った。
「……いや、まだだ。ラドルはちゃんとわかっているな」
ガイコツの持っていた剣が浮かび上がり、ラドルに空中から迫った。
「やっぱりそうきたか。これを準備しててよかったぜ」
ラドルは左手で持った札のようなものを右手の手甲に貼りつけた。
手甲から、小さな稲光に発せられた。
「うりゃあ!」
迫りくる剣に右手の手甲を叩きつけた。
空中の剣は稲妻につつまれてブルリと震えた。
そしてその剣は地に落ちて、動かなくなった。
「ふぅ……。これで終わりかな。リューディア。オレの試験をしてたんだろ? 合格だよな」
ラドルはこれまでアンデットと戦った経験はない。
しかし、この地下通路でのモンスターは、まがまがしい気配をまったく感じなかった。
素人のラドルが感じた違和感を、神官であるリューディアが指摘しないのは何か訳がある。
それに出会うモンスターに、リューディアが自分から何度も近づく場面があり、彼女らしくなかった。
一番考えられるのは、新人であるラドルのテストってところだろう。
レインも似たようなことを予想していたようだ。
「あ、あの。少し違うんです。今回の依頼は……」
「その先は僕が話しますよ。リューディアさん。いろいろすみませんねぇ……」
いつの間には通路の奥にフード付のコートを着込んだ人物が立っていた。
手に木製の手持ち看板があり、そこには『ドッキリ』と書かれていた。
「僕は太陽神の神殿から派遣された者です。そちらはラドルさんと言いましたか。ここでやっているのはあなたのテストではなく、配置したモンスター人形のテストだったんです」
その人物は、フードの下の顔に木製の仮面をつけているように見えた。
ラドルはなんとなく怪しげに感じたが、リューディアとも知り合いのようだし気にしないことにした。
その者の話では、いろいろなトラップやモンスター人形をおいて、冒険者の練習場所を作ろうというものであった。
ラドルたちが倒したものは、すべてモンスター型のゴーレムだったのだ。
不慣れな冒険者はここで訓練させ、実戦での生還率もあげることを想定したらしい。
リューディアはラドルとレインに頭を下げた。
「お二人を騙すような形になってました。すみませんでした」
「オレは別にいいぜ。リューディア。いい訓練にもなったし、これで報酬がもらえるなら願ったりだ」
「わたしもだ。まぁ、リューディアはもう少しお芝居がうまくなった方はいいと思うけどね。それで、さっきの人形だけどな……」
レインはフードの人物に感想を伝える。
「戦闘訓練の効果は否定しない。だが、アンデッド系は本物と違い過ぎるのが問題だ。こういうものだと思い込むと、実戦ではかえって危険だ。それにあまり弱すぎると、訓練した者が慢心するかもしれんぞ」
「はぁ、やっぱりもう少し考えないとダメですかねぇ」
「冒険者にはラドルのように、女の子を殴るのが苦手なやつもいる。女の子型モンスターの人形を出せば、いい訓練になるぞ」
聞いていたラドルは「勘弁してくれー」と悲鳴をあげた。
彼を見ていたリューディアがつぶやく。
「やっぱりラドルさんは優しすぎますね。でも、わたしはそんなところが……」
「ん? 何か言ったか、リューディア」
「……い、いえ、なんでもありません」
その後、ラドル達はフードの人物の案内で近道を使って地上に上がった。
そこは空き屋敷の裏庭につながっていた。
すっかり夜も更けており、冬の夜風が冷たく吹いていた。
「寒いな。依頼も済んだし、帰るか」
ラドルが言うと、フードの人物は「ちょっと待ってください」と引き留めた。
「訓練をクリアした人に、こういう演出を見せようと思っているんです」
その言葉の後、夜空に向かって小さな光の玉がいくつか舞い上がった。
そして、それは空中で光の花の大輪になった。
「魔法の花火か。季節外れな気もするが、まぁ悪くないな」
レインがいうと、リューディアはニコッと笑う。
「……きれいですね」
空を彩る光に、リューディアの顔が照らされていた。
リューディアの方を見ていたラドルがつぶやいた。
「……ほんとにキレ……い、いや何でもない。ゲフッ……」
急にせき込んだラドルに、リューディアは不思議そうな顔で見つめた。
レインは、ラドルは何を言いかけたのか気づいていた。
まぁ、面白いから黙っておこう。レインはそう思った。
「なぁ、リューディア。あの花火、すごかったよな」
ラドルは少し照れくさそうな口調でいった。リューディアも微笑みながら答える。
「はい、本当に美しいです。こういうの、見る機会ってあまりないですもんね」
そのとき、レインが軽く咳払いをして話題を変えた。
「さて、花火も終わったことだし、本当に帰るか」
そして、そっとラドルの側によって耳打ちする。
「わたしたちにウソをついてたこと、リューディアはまだ気にしているようだ。あとでフォローしとけよ。好きな娘を困らせたままにするな」
「……え?」
ラドルは顔を引きつらせて固まる。
レインは冒険者ギルドのある方向に歩き始めた。
ラドルがリューディアに寄り添って歩き、微かな笑顔を浮かべていた。
フードの者は、去っていく冒険者たちを見送った後でつぶやいた。
「さて……。神殿への報告書をまとめるか。君達もご苦労だったね」
振り返ると、自己修復されたゴーレムたちがずらりと並んでいた。
フードの者を先頭にゴーレムたちは地下に戻っていき、洋館の周りは再び静寂に包まれた。
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