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宿るはずのない命

作者: すくりです

初めて小説を書きます。一話で完結します。普段文章を書かないので拙い文章であるとは思いますが、最後まで読んでくれると喜びます。

 20XX年。

 科学技術は発展しており、ゲーム業界においても大きな技術革新があった。


 フルダイブ型VRMMO。

 それは体の全感覚をデバイスとリンクすることで、あたかも自身が体験しているようにプレイをできるゲームのことである。 まだゲームの種類は多くないが、新しい感覚のゲームとして多くの人に親しまれている。


「よし、今日もやるかな。」


 そのゲームの一つであるRPGをプレイしている男がいた。

 男はゴーグルのようなデバイスを自身につけてベッドに寝転んだ。

 ゲーム中は実際に体を動かすことはなく、楽な姿勢でゲームをプレイするためだ。


 男はデバイスの電源ボタンを押してゲームを始めた。



 男は気がつくと中世のような町並みの場所にいた。

 道の方を見ると現代の服装とは言えないような見た目の人、大剣を背中に背負って歩く人などが見える。

 男がプレイするゲームはいわゆる剣と魔法のファンタジーな世界であり、自分のキャラクターは好きなようにデザインできる。


「今日も依頼を受けるかな」


 男はそう言うと道なりを迷いなく歩き始めた。


 男はとある建物の中に入っていく。

 ここは冒険者ギルドだ。

 冒険者はこの施設にある掲示板の紙を受付に持っていくことで依頼(クエスト)を受けることができる。


 男は掲示板から一枚の紙を取り、受付に持っていく。


「今日はこれをお願いします。」


「承知しました。こちらの依頼は今日中までとなっています。お気をつけください。」


 受付に座る女性はそう答えて紙を受け取った。

 なんというか人間味のない、平坦な答え方だった。


「ありがとうございます。」


 そう言うと男は冒険者ギルドを出ていった。



 男は自身の持っている剣を斜めに振り下ろす。


「ウギィィィィッッ!!」


 男の剣を受けた敵は悲鳴をあげ、霧のように消えていく。

 そこには紫色の石が落ちていた。

 魔石と言われるものである。


 男は魔石を拾うと、すぐさまカバンの中に入れた。

 カバンの中にはすでにいくつかの魔石が入っていた。


「これで終わりかな。」


 そう言った直後、遠くから悲鳴のような声が聞こえる。

 女性の声のように聞こえる。


「何かあっちで起きたのかな。」


 そう言うと男は声のした方向へ走っていった。



 声のした場所に男がたどり着くと、そこには敵に襲われている女性の姿があった。


「誰か!!助けて!!」


 男はすぐさま女性を助けることにした。 なぜなら、このゲームには特殊イベントというものがあるからだ。

 このイベントは何がきっかけで起こるか分からないが、得られる報酬は普通のイベントより多かった。


 男は自身の剣で敵の頭をはねとばす。

 敵の頭は後ろに飛び、胴体は倒れる。

 その後、すぐに霧となった。


「大丈夫ですか!?」


男が女性にそう問うと女性はすぐに返答した。


「あのっ、ありがとうございます!!」


 勢いのある返事だった。

 彼女はボロボロのローブを羽織っている。

 全体的にカールがかった金色の長髪をゆらし、青い目でこちらを見据える。


「助けてもらっていきなりなのですが、もし良ければ私を町まで連れて行ってくれませんか?」


 男は彼女のことを不審に思う。

 本来、特殊クエストなら彼女と会った時点でメニュー画面に表示されるはず。

 しかし、そのような表示はなかった。

 加えて、彼女の反応。

 このゲームの世界にはプレイヤーだけではなく、NPCが存在する。

 NPCは受け答えは出来るがどこか感情がないように感じる。

 冒険者ギルドの受付嬢がいい例だ。

 しかし、彼女の反応には感情があるように見えた。


 とりあえず、彼女を町まで送り届けることにした。



 二人の男女は、帰り道でお互いのことを話していた。

 彼女はフィオーレというらしい。

 彼女によるとどうやらNPCではなくプレイヤーらしい。

 特殊イベントではなかったのだろう。


「あなたの名前を聞いてもいい?」

「自分はレイと言います。職業は剣士をやっていて、現在はソロでプレイしています。よろしくお願いします。」

「うん。よろしく!」


 彼女は元気そうに答えた。



 町にたどり着いた。


「着きましたね。フィオーレさん、この場所でよろしいですか?」

「はい、、、あの、レイはこのあとどこかに行くの?」


 フィオーレはしどろもどろしながら聞いてくる。


「自分は冒険者ギルドに向かいます。依頼を受けていたのでその報酬をもらいに。」

「そう、、、ねえ、私もレイについて行っていい?」


 フィオーレは不安そうに視線をこちらに向ける。

 彼女に気に入ってもらったのだろうか。 正直嬉しい。

 彼女のキャラデザかわいいし。


「もちろんいいですよ。では、冒険者ギルドに行きましょうか。」

「うんっ!」


 フィオーレは嬉しそうな顔をしていた。



 冒険者ギルドはあっさりと終わった。

 それもそうだ。

 ただ依頼の報酬をもらいに来ただけなのだから。

 フィオーレの要望でその後、二人で食事をすることにした。

 と言ってもゲームの世界の食事はHPを回復するためにある。

 味や匂いはするが食欲が満たされることはない。

 不思議だ。


 二人で提供された料理を食べる。

 フィオーレのフォークの進む速度は早い。

 意外とガツガツ食べるようだ。


「これ、美味しいっ!」


 彼女は笑顔を向けてくる。

 たしかにそれなりに美味しいとは思う。 しかし、空腹感が満たされないのである。

 それなのにあんな美味しそうに食べれるのは、ある意味才能なのかもしれない。


「確かに美味しいですね。フィオーレさんはリアルでは普段どんなものを食べているんですか?」

「あ、えっと、、、今食べているのと似たようなものかな?」


 レイとフィオーレが食べているのはパン、ニ、三種類の具が入ったスープ、焼かれた何かの肉だ。

 ゲームの中ではよく見る食事だが、現実の食べ物と比べると見劣りしてしまう。

 彼女は現実では貧しいのだろうか。

 よく分からないが、あまり現実の話はしないほうがいいのかもしれない。


「それよりもさ、レイの剣術っていうの?あれすごかったね!敵のモンスターを簡単に倒してるように見えたよ!」


 フィオーレは少し興奮したように話しかけてくる。

 レイはこのゲームをかなりプレイしており、それなりにレベルも高い。

 剣さばきもそれに応じて上手く見えたのだろうか。


「そうですかね?しばらく剣でモンスターを倒していれば誰でもできますよ。」

「レイはすごいね。そんな簡単そうに言えるなんて。普通の人だったら絶対難しいよ!」


 そうだろうか。

 実際、この世界でレイより強いプレイヤーはゴロゴロいる。


「ねえ、レイ。今度、一緒にモンスター倒しに行かない?」


 突然の誘いだった。

 今までレイはソロでやってきた。

 ただ単純に友人でやっている人があまりいないからだ。

 そのため、フィオーレのお誘いはレイにとってとても嬉しかった。


「もちろん!こちらこそお願いします!それでは早速パーティーになりましょうか。」

「え?うん、、、そうだね」


 彼女の返答を聞き、レイはメニュー画面を開く。

 メニュー画面からメッセージを送ることでパーティーを組めるからだ。

 しかし、レイのパーティーの欄にはすでにフィオーレの名前があった。


「あれ?なんかパーティー組めてますね。」


 何かのバグだろうか。


「それじゃあ、明日以降で空いている日を教えてもらえますか?」

「私はいつでも空いてるよ。」

「そうですか。それでは早速明日から依頼を一緒に受けましょうか。」

「うん!あと、私に敬語使わなくて大丈夫だよ?私も使ってないし。」


 その後もしばらく他愛ない話をし、その日は解散となった。



 草原には二人の男女と一体のモンスターがいた。

 二人の男女はモンスターを追いかけていた。


「フィオーレ!あいつに攻撃魔法だ!」

「了解!」


 フィオーレは攻撃魔法を放つ。

 モンスターに直撃はしなかったが、魔法がモンスターの足をかすめ、モンスターをよろめかせる。


「ナイス!あとは俺が決める!」


 レイが両手に持って振り下ろした剣がモンスターに直撃する。

 モンスターは奇妙なうめき声をあげ、霧となった。


「よし!これで依頼は達成だな。」


 レイはモンスターから出た魔石を拾いながら言った。


「私、結構疲れっちゃった。」


 相当疲れたのか、フィオーレは地面に座り込んでいた。


「お疲れ様。それじゃあ町に戻ろうか。」


 そう言ってレイはフィオーレにて手を差し伸べた。

 フィオーレはレイの手を取る。

 レイの手にフィオーレの手の感触が伝わる。


「っっ!!??」


 レイは突然手を離した。

 突然力がなくなったせいか、フィオーレは尻もちをついてしまう。


「痛っ!レイ、突然どうしたの?」

「あ、いや、えっと。」


 手の感触があった。

 それだけだった。

 しかし、それはこのゲームの世界ではありえないことだった。

 このゲーム内では18禁に触れる行為は許されていない。

 そのため、キャラクター同士の接触はできないようになっている。

 しかし、体に触れることは可能である。 感覚がないのに力を加えられる、変な感覚ではあるが。


「なんでもないよ。行こうか。」


 レイは再び手を出し、フィオーレはその手を取る。

 やはりその手には肌に触れる感覚があった。


 フィオーレが立ち上がると、二人は町に向かって歩き始めた。


「いや~、モンスターを倒すのって大変だけど達成感がすごいね。」


 フィオーレ額に伝わる汗を腕で拭いながら言った。


「そうだね。その達成感がモンスター討伐の醍醐味かもしれないね。」


 フィオーレの手を取ったことが頭から離れない。

 あれはありえないことだ。

 しかし、フィオーレはあのとき、変な反応を示していなかった。

 彼女には何かあるのかもしれない。


「私、もっと色々なモンスターを討伐したいな。」

「いいね、次は違うモンスターの討伐依頼を受けてみようか。」

「本当!?ありがとう!」


 フィオーレはとても嬉しそうだ。

 このままスキップをはじめてしまうのではないだろうか。


 二人はそのまま町に向かっていった。



 その後も二人は様々な依頼を一緒に受けていた。

 かなりパーティーとしていい感じになってきたと言える。

 ある日、レイとフィオーレは二人で食事をとっていた。

 レイは食事を終えると、フィオーレに話しかけた。

 その頃には、あの手の感覚は頭の片隅に追いやられていた。


「いや~、正直、フィオーレと出会えてよかったよ。」


 少し恥ずかしいことを言ってしまった。 しかし、現実で面と向かって言うのが難しいことでもゲームの中だと意外と言えてしまう。

 恥ずかしいことに変わりないが。


「本当!?」


 フィオーレは食事を終えており、両方の手のひらをくっつけ、自身の唇の前に置いている。


「うん。フィオーレと出会う前はずっとソロだったけど、その時と比べてもフィオーレと依頼をこなす方がずっと楽しいなって。」

「嬉しい、、、私も、レイと会えて良かったなって思ってる。」


 フィオーレの頬は赤く染まっていく。

 彼女も恥ずかしかったのだろう。


「フィオーレ、これからも一緒に依頼を受けていこうね。」

「うん。これからもよろしくね。」


 二人はお互いに笑顔を向け、解散をした。

 その後、フィオーレがレイの前に現れることはなかった。


 フィオーレがいなくなってから二週間が経った。

 ゲームにおいてプレイヤーが突然いなくなるのはよくあることだ。

 リアルが忙しくなったのだろう。

 最初の一週間はフィオーレを心配していたが、その後は、フィオーレはもう戻ってこない、と半分諦めていた。


 レイは冒険者ギルドで依頼が貼られている掲示板を見ていた。

 すると、周りから声が聞こえてくる。


「この依頼、まだあるんだな。」

「ああ、なんでもこの依頼はバグが発生しててクリアできないらしいぞ。」


 レイは、彼らがどの依頼について話しているのか知っていた。

 レイは、とある依頼に視線を向ける。


[緊急クエスト:囚われの姫を救い出せ 期限:二週間]


 彼らが話していたのはこの依頼だ。

 このゲームではバグは度々起こる。

 しかし、基本的にバグは運営側が迅速に修正していた。


 レイはこの依頼の期限に目を向ける。

 この依頼が貼られてから二週間が経つ。 つまり、今日中にこの依頼をクリア出来なければ依頼は失敗となる。


 レイには気になることがあった。

 それは、この依頼が発行されたタイミングだ。

 偶然にも、フィオーレがいなくなったタイミングと同じだった。

 この依頼とフィオーレには直接の関係はない。

 しかし、レイはやけに気になっていた。


「どうせ今日でこの依頼は終わるし、一度受けてみるか。」


 そう言ってレイは依頼を受けることにした。



 レイはとある洞窟に来ていた。

 レイが受けた依頼の概要は、モンスターに捕らえられた姫を助けるといった内容だ。

 そして、姫は洞窟の奥に囚われていることが分かっていた。


「ここ、ソロだと結構キツイな。」


 レイは肩で息をしながら行った。

 ここではモンスターが大量に出現し、今もなおレイを襲ってくる。

 一人で対処するには厳しい状況だった。


 レイが苦戦していると、後ろから氷塊が飛んできた。

 氷塊にぶつかったモンが霧となる。


「君、大丈夫か!」


 そう声をかけたのは両手に二本の剣を持った男だ。

 その後ろからローブをまとった女性と短剣を持った男が現れた。


「ここはソロでは厳しいところだ。君には早めに退却することを勧めるよ。」


 そう言うと三人の冒険者は洞窟の先へと進んでいった。

 確かにここはソロでは厳しいだろう。

 死ぬことのデメリットを考えると依頼を諦めたほうが賢明である。

 しかし、レイは洞窟を引き返すことはなかった。

 ただ、フィオーレと何か関係があるかもしれない、という曖昧な理由だけでレイは先に進むことにした。



 大量のモンスターに苦戦しながら、なんとかレイは洞窟の最奥にたどり着こうとしていた。

 洞窟の奥には、三人の人影があった。

 先ほど会った冒険者パーティーだ。


「やっぱり反応がないな。」

「もう三回も来てるのに、なんでだろう。やっぱりバグなのかな。」


 三人は洞窟の奥の部屋に目を向けていた。

 あの部屋の中に何かあるのだろう。


 レイは足を進め、奥の部屋を覗くようにしてみた。

 すると、そこには姫がいた。

 ピンクのドレスをまとっており、この場で誰が見ても姫だと答えるだろう。

 しかし、彼女は目を虚ろにし、斜め下を見ながら座り込んでいた。

 まるで魂が抜けているようだ。


 レイは彼女に見覚えがあった。

 彼女はドレスをまとってはいるが、今まで冒険を共にした、フィオーレ本人だった。


「フィオーレ?」


 レイは思わず声をかけてしまう。

 姫はその声を聞くと体をわずかに動かし、ゆっくりと視線をレイに向けた。


「レ、、、イ、、、?」


 姫は電源が入ったかのようにその場から立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。

 気づいたときにはもうレイの目の前まで迫っていた。

 そして、姫は何かを言いたそうにしながら、レイをゆっくり、強く抱きしめた。


「やっぱり、フィオーレなんだね。」


 レイは優しくフィオーレの体に腕を回す。

 フィオーレの体温が伝わる。

 体の感触が伝わる。

 息づかいが伝わる。

 レイとフィオーレの体は密着し、一つになっていくようだ。


 フィオーレは静かに、声を出しながら

泣いていた。

 色々な思いが溢れているのだろう。

 レイはフィオーレに聞きたいことがたくさんあった。

 しかし、今はフィオーレとの再会を喜んだ。



 しばらく抱き合ったあと、レイはフィオーレから離れた。

 そして、レイはまだ残っている三人の冒険者に目を向けた。


「あの、しばらく彼女と二人にしてくれませんか?」


 両手に剣を持った男が答える。


「ああ、もちろん構わない。」


 すると、短剣を持った男は口を出した。


「俺は姫をあいつに任せないほうがいいと思う。だって彼女は明らかにN」

「みんな、行くよ、報酬は獲得出来るんだ。彼らを二人にしても問題ないだろう。」


 両手に剣を持った男は短剣の男の話を遮るようにして発言し、なかば強引にパーティーの仲間二人を連れて去っていった。


 しばらくして、レイとフィオーレも洞窟を去ることにした。



 レイとフィオーレはとある店で食事をとっていた。

 ここは、はじめて二人が出会ったときに使った店だ。

 レイはあの日を鮮明に覚えていた。


 フィオーレの服はすでにドレスではなく、いつもの服装であるローブの姿に戻っていた。


 二人は一言も話さずに食事をしていた。

 レイは一体何から聞くべきか、それとも聞かないほうがいいことがあるのかなど、頭の中で考えがぐるぐる回っては消えてを繰り返していた。

 彼女もきっとそうだろう。

 言いたいことがたくさんあって、頭の中でずっと整理しているはずだ。


 するとフィオーレは意を決したように言葉を発した。


「ねえ、レイ。食事が終わったら、外の誰もいないところでお話しをしよ?」

「え、うん、分かった。」


 レイは簡潔に答えた。

 どうやらここじゃ話せないようだ。

 二人は食事を終えると外を歩き出した。



 二人は暗くなった外を歩く。

 そして、誰もいない路地裏へと入っていく。

 路地裏の先には開けた場所があり、そこにはぽつりと一つのベンチが置いてあった。


「ここに、、、座ろうか。」


 フィオーレはそう言うとベンチの左端に座る。

 レイは右端に座った。

 二人には若干距離がある。


 二人が座ってからどれだけ経ったのだろうか。

 路地裏ということもあり、物音がほとんどしない。

 すると、フィオーレは沈黙を打ち破るように言った。


「私ね、実は、NPCなんだと思う。」


 フィオーレが言う。

 レイは何も言わずに聞いていた。


「レイと出会うまで、私はプレイヤーと話したことなかったんだ。あの洞窟にいた時みたいになってた。」


 あの虚ろな目をしていたときか。


「きっと私はバグなんだと思う。周りのプレイヤーとほぼ会話はできないから。」


 そう言うとフィオーレは空を見る。

 レイもつられて上を見上げた。

 空には大量の星がひしめき合っている。

 リアルではほとんど見れないような空だ。

 美しい。


「私ね、レイと出会えて本当によかった。初めて人と話すことの楽しさを知ったし、ご飯の美味しさも知った。他にも、たくさんのことを知ることが出来た。」


 フィオーレはほほえんでいた。

 しかし、言葉を終えるとその笑顔は消えていった。

 そして、彼女は言った。


「でもね、レイとの違いを知るたびに、やっぱり私、人間じゃないんだなって思った。」


 その言葉はなぜか良くない、とレイは思った。

 それを認めてしまってはだめな気がする。


「いや、フィオーレは人間だよ。」

「え、、、」


 フィオーレは少し間の抜けた顔になった。

 しかし、すぐ元の表情に戻る。


「でも、私、他のプレイヤーとかと話せないんだよ?」

「ああ、でも、君は人間だ。」


 レイは繰り返し答える。


「ご飯の美味しさを知ったのも、レイと出会ったときからだよ?それに、私にはレイのリアルを知らない。私にとってこの世界がリアルなんだよ。そんなの、明らかに違うでしょ。私は、作られた存在で、人間なんかじゃない。」

「いや、フィオーレは人間だよ。」

「なんで、、、なんでそんな無責任なことが言えるの!!」


 フィオーレは叫びだす。


「私のことなんて何も知らないくせに!!レイと出会ってから、全てが楽しかった。でも、レイと一緒にいる楽しさを知ってから、一人のときのつらさを知った!孤独さを知った!レイと出会うまではそんなことなかったのに!!」


 フィオーレは声を荒らげている。

 彼女の頬には涙が伝い、地面にポタポタと涙が落ちる。


「なんで、、、なんで私はレイと同じ人間じゃないの?私はただ、レイと普通に暮らしたいだけなのに。」


 フィオーレは下を向いている。

 表情は分からないが、いまだに涙は地面に落ちている。


 レイは、フィオーレのことを抱きしめた。


「やっぱり、、、君は人間だよ。だって、ほら、こんなに暖かい。」


 レイはフィオーレのことを強く、強く抱きしめていた。

 彼女にとっては少々痛いかもしれない。

 しかし、絶対に離さないように抱いた。

 レイとフィオーレの体が今までにないくらい密着する。

 お互いの体温を感じ、心臓の鼓動まで聞こえてくるようだった。


「それに、フィオーレには感情がある。人間の一番の特徴は、感情があることだと思うんだ。感情があるからご飯を美味しく食べれるし、仲間と話すことの楽しさを知ることができる。だから、君は人間だ。」

「なんで、、、そんなふうに、、、言えるの、、、?」


 静かに、フィオーレはたずねた。


「当然だ。でも、色々言ったけど、俺がこんなふうに言えるのは、俺もフィオーレと出会ってから凄く楽しかったからかもしれない。」

「そう、、、なんだ、、、。嬉しい、、、。」


 フィオーレはゆっくりと言った。


「私、レイと同じ、人間なのかな?」

「ああ、フィオーレは俺と同じ、人間だ。」


 レイがそう言うとフィオーレは声をあげて泣いた。

 彼女の涙がレイの肩に落ちる。

 きっと、フィオーレはずっと悩んでいたんだろう。

 ずっと悩んで、言い出せずにいた。

 しかし、今、全てを吐き出した。

 彼女の感情は今、ぐちゃぐちゃになっているだろう。


 どれだけ時間が経っただろう。

 フィオーレの涙は枯れ、声が小さくなっていた。

 フィオーレの小さな息づかいが聞こえてくる。

 泣きつかれたのか、肩は揺れ、レイを抱きしめる腕の力がわずかにゆるむ。


「ねえ、レイ。私ね、ずっと怖かった。」


 フィオーレは小さな声で言う。

 抱き合っているせいか、お互いの顔は見えない。


「私が普通じゃないって知ったら、レイが私から離れてどこかに行ってしまうんじゃないかって思ってて、ずっと言えなかったんだ。」

「突然いなくなったりしないよ。」


 彼女の方の揺れが落ち着いてくる。


「ありがとう。でもね、私、レイにはリアルがあるってことを知ってる。」


 続けてフィオーレは言う。


「本当にわがままだけど、レイにはいなくなってほしくない。ずっと一緒に冒険者を続けてほしい。そんなの、出来るはずないのに」

「大丈夫だよ。俺はずっと、フィオーレの隣にいるから。これからもずっと、冒険者を続けよう。」

「本当に?そんなことできるの?」

「ああ、俺には出来る。」


 明確な根拠はなかった。

 しかし、レイには自信を持って言うことができた。

 レイはフィオーレの肩を掴み、わずかに離れる。

 お互いの目が合う。

 たくさん泣いたせいか、目が少し赤くなっていた。


「ずっと、一緒にいよう。いつか、このゲームは終わってしまうかもしれない。何十年も先かもしれないし、意外とすぐかもしれない。」


 レイはフィオーレから目を離さない。

 フィオーレもレイから目を離すことはしない。


「一緒にたくさん冒険をして、一緒にたくさんご飯を食べて、一緒にたくさん寝よう。この世界が終わるまで。」

「うん。凄く嬉しい。ずっと一緒に、冒険しようね。」


 すると、何を思ったのか、レイの顔は少し赤くなった。

 そしてレイは意を決したように言う。


「フィオーレ、好きだ。愛してる。」


 そう言うとフィオーレの頬は次第に赤く染まってくる。

 そしてフィオーレは優しく笑いかける。


「私も、レイのことが好き。愛してる。」


 そう言うと、二人の顔は次第に近づく。お互いの呼吸を感じる。

 顔に熱がこもっているのを感じる。


 そして、





















 二人は初めて、





















 キスをした。



終わり。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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