表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

摩天楼は冷たく微笑む

作者: 岸亜里沙


高層ビルの屋上では、巨大な蜷局(とぐろ)を巻くように強い風が舞っていた。


真冬だというのに、その風はとても(あたた)かく感じる。


これから自殺をする私の背中を、優しく押してくれているようだ。


無心で鉄柵を乗り越え、屋上の縁に立つ。


若干の恐怖心が襲うのではないかと思ったが、実際は正反対。


これで全てが終わるのだと思うと、無性に清々しくて、心の中を(おお)っていた悩みは消え、久方ぶりに私は笑っていた。


「サヨナラ」と小さく私は(つぶや)き、躊躇(ためら)いもなく身を投げた。


生まれて初めて感じた、最初で最後の自由。


今日が私の命日。


落下し続ける体とは裏腹に、意識は天高く昇るかのように薄れていった。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆











気がつくと私は、まっ白な天井を見上げていた。


「ここ、どこ?」


「良かった。目が覚めたんだね」


体に力が入らず全く動かない。

声がした方に視線だけを向ける。


そこに居たのは緑色の手術着を着た医師のような年配の男性。


「ここは病院だよ」


「私、死ね、なかったの?」


私は頬に涙が伝うのを感じた。

まだ確かに生きている。


「いいや。君はあのビルから飛び降りた時、一回死んだんだよ。そして生まれ変わった。だから今日は君の命日でもあり、新しい誕生日でもあるんだ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ