表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パッチワーク  作者: 山田
3/3



ああクソ野郎。畜生。上杉がスリを奪いやがった。

許せない。ああダメだ我慢ならない。

修学旅行でスリを奪いやがった。アイツらぁ あ〜イライラする。

同じ部屋の野郎がチクリやがった。

あ〜 人の嫌がることを、とことんやるのが人間なんだ。

人が信用できなくなった。悪意か善意の違いがわからなくなった。

唯一の信頼の友であるスリは、悪名高き上杉が持っている。

ああ憎たらしい。


私は何もできなかった。スリが上杉へと渡されて行く時、何もできなかった自分を恨んだ。

チクった奴の腹いせに、洗面台にある歯ブラシ同士を絡めてディープキスさせてやった。

二日目の朝に彼らが歯ブラシから変な味がすると言った時、

笑いそうになったが、まだ苛立ちは晴れていない。

上杉。お前は先生という使命を全うしたが、奪う理由は真っ当ではない。

上杉。お前はたまに怒鳴る時がある。それを自分の息子にもしてないだろうな?

行動を恐れる子になるぞ。安定に囚われた人間になって欲しいのか?

あぁ忌々しい。


私の横にはスリがいない。それを思うたびに憤ってくる。

最終日に返してくれると言ったが、もう待てん。

今は消灯してまだ十五分と言ったところだろうか?

彼らは、日光東照宮や華厳の滝やらで疲れ切ってもうじき寝るだろう。

私は、そんなことを忘れて復讐心で目がギンギンだ。

アイツらに仕返しして、スリを今夜中に奪い返してやる。








時計は三時二十分を指している。消灯してから約四時間半ぐらい経っている。

チクった奴は寝ているようだ。今がチャンスだ。

私は布団からそっと立ち上がった。

おそらく巡回は当番制だろう。

上杉の番になった頃合いで、奴の目を掻い潜り、奴の部屋にあるスリを助けるのだ。

この建物の大きさは、他の修学旅行生も兼ねている為、ある程度広かった。

恐らく、歩いて、足音を立てていても上の階の先生と勘違いするだろう。

上杉の部屋は、自分の居る部屋を左に曲がり、角を曲がって二番の部屋だ。

奴が他の部屋の中に入って行った時がチャンスだ。

私は扉の隙間から差し込むライトの加減と声で上杉の様子を探った。

上杉の性格上、怒鳴る為ある程度声を出してしまうのが彼だ。耳を澄ませよう。

じっくりと慎重に観察した。



十五分程度だろうか。彼の声が聞こえ、ライトの明かりが無くなり、真っ暗となった。

チャンスは今だろう。そう思い、私はゆっくりと扉を開けた。

彼は奥の部屋で何か喋っているみたいだ。

よしチャンスだ。

扉をゆっくりと閉め、左の道へと向かって行った。

まるで泥棒をしているみたいだ。奪ったのは上杉だというのに。

何だか緊張する。こんなことを今までやったことがないからだ。

まだまだ彼は奥で何かを言っている。

奥の角に着いた時、そっと角の奥を見た。


誰も居ない。そうわかりホッとし、瞬時に体を角へと隠した。

扉はすぐそこだ。待望のスリはそこにいる。

緊張感とスリの安心感で何だか浮ついた気持ちになった。

私は扉を開けた。電気をつけると、

彼の部屋は布団と固まった荷物だけの質素な部屋だった。

恐らくあの固まった荷物の中にあるのだろう。

そう思い、彼のカバンの中を探し回った。

チャックを開くとシャンプーやら、修学旅行のマニュアルやらがごちゃごちゃに入っており

スリをいち早く見分けるのは困難であった。

整理が苦手なのだろう。

二日目の服と一日目の服が同じ袋に入っている。

奥からの声が消えた。まずい。奴が帰ってくる。

私はとにかくヤケクソで中のものを強引にひっぱり、中のものを確認した。


いた。 スリだ。


一日ぶりとなるが、私にとってスリのいない生活は時が止まっているようだった。

スリのいない時の華厳の滝は、まるで飛び降りる前の人のような自分だった。

ああスリが帰ってきてくれたのだ。

スリとの一日ぶりに抱いた。

たまらない。一日の疲れとやらがスリで全て飛んでいった。

こんなことをしていた罪悪感とやらが失せていく。

もう二度と離したくない。

思わず涙が出そうだ。

しばらくスリと抱き合った。




なぜだろう。足音が大きくなって行くようだ。忘れていた ここは上杉の部屋だ。

スリへの欲求のあまり我を忘れていた。まずい。彼は間違いなくこの部屋へと来る。

けれど、スリのおかげであろうか。やけにこんな状況であっても何とでもなる気がした。

私は布団の中へと、スリと共に入って隠れた。

もうどうしようもない。ここしかないのだ。

布団の中は上杉特有の男臭で漂い、布団で匂いが蓋をされて脳天がかち割れそうであった。

気持ちが悪い。何でこんなことをしたのであろう。彼が近づいて行くにつれ、その思いが強まっていった。


「ふー疲れたー」


ああ上杉だ。終わった。私は変態クソ野郎として生きて行くほどに覚悟がない。

なぜ、よりにもよって布団イベントが三十過ぎたおっさんなのだ。

なぜ娘に煙たがられるようなおっさんの布団の中にいるのだ。

ああ首をカッ切った方がまだマシなのだろうか。

一思い逝ってしまったほうがいいんじゃないだろうか。

今、惨殺死体となった方がまだ幸せなのではないか。

このまま腐り果てたい。


「ドンッ zzz zzz zzz 」


いきなり大きな音が聞こえた。

何だか聞こえる。 上杉だ。

毛布から顔を上げると、布団の前で力尽きているのだ。

まるで失神しているみたいだ。

なんだかこう見ると学校のブラックさがわかる。

近づいたら顔が見える。

頬を見て、思わず叩いてみた。


「ペシッ!」


抜け殻のように反応をしなかった。


なのはともあれ、助かったのだ。

スリを助けることに成功したのだ。








こうして、倒れている上杉を見るのは面白かった。

劣勢から優勢に変わった時、見違えるように気持ちが掌を返したのだ。

今なら何でもしていいのではないだろうか。

スリのこの恨み、この一世一代のチャンスをそう易々と逃していいものだろうか。

否、今がチャンスの時。

彼の頭に盛大な落書きをして行く必要がある。

ああいいことを思いついた。

チクった奴らの歯ブラシをあの口に全部突っ込んでやる。

ああ優越感の絶頂だ。

まるで先生の上に立ったような気分だ。

布団で自殺願望してる奴とは思えないほどの豹変ぶりであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ