76:民衆の声
戦争が終わった。
魔王と、それに手を貸していたジゼル女王を打ち倒し、俺は勇者の役目を終えた。
殺してはいない。
我が従順なる豚共に【殺さない程度に拘束しろ。それ以外の事は好きにして構わん】と言っておいた。
世界をここまで苦しめたんだ。死人も万じゃ足りない。
きっちりと、審判を下さないとな。
「アギトさん、準備ができました」
「お、いよいよか。……緊張するなあ」
魔王を倒した日から今日で一週間。
俺とベルは【時空転移】で一足先に王都へと帰省していたが、残りの兵士達も、ようやく戦地から帰還したようだ。
そしてベルからの知らせは、民衆を広間に集め、戦争の集結を宣言する準備も整ったということ。
勇者である俺が、その宣言を担うこととなった。
民衆の前に勇者として顔を出すのは、何気に初めてなんだよな。
帰還した兵士達の顔色と広間で演説があると聞けば誰でもピンとくるだろうが、その重大な役目を、見ず知らずの俺が成すのは場違いな気がしてならない。
「なあ、いまさらだけど、こういうのってあいつが適任だと思うんだ。ほら、最強の騎士だったやつ」
「ああ、ゾンボルトさんですね。確かに国民の知名度などかなり高いですけど……」
「ほらやっぱり。いいじゃん俺じゃなくても。こういうのは適材適所って思うんだよね、俺」
別に今から俺が民衆の支持を得る必要もない。
我が物顔で魔王討伐を喧伝しようものなら、俺を祭り上げたがる輩が少なからず出てくるだろう。
女王無き国にの新国王になれと。
実際に王宮の大臣やら文官らの中にはそれを目論む者もいた。
俺は国政なんて何も知らん。
王になったところで頭のいい奴らの操り人形となるのが目に見えている。
よって、一生遊んで暮らすだけの金を報酬に貰って、後は異世界観光に勤しむと決めているのだ。
「それはダメです。アギトさんが世界を救ったという事実を隠す必要もないんですから」
しかしベルはそんな俺のわがままを許してはくれない。
「いや隠すじゃなくてさあ、ちょっと『勇者はこの方でーす』みたいな紹介してくれればいいんだからさあ」
「ダーメーでーす。決まったことをグチグチ言わないっ。ほら、行く行く!」
背中を押されて、グイグイ部屋を追い出されてしまった。
こんなことを言うのも今更だって分かってはいたけど、ちょっとはとり合ってくれてもいいじゃないか。
あまり人前に立ったことがないから緊張するなあ……。
――それは大気を震わせ、この身を強く打ち付けるほどの大歓声だった。
城のなんか高いところから広場に集まる民衆を眺めるためのスポットに赴けば、眼下には見たこともない数の人人人……。通勤ラッシュだって目じゃない。どこかしこも地面が見えないくらいひしめき合って、そして誰もが、大口を開けて熱狂していた。
世界を救った勇者を賛美する特大の咆哮だ――。
それは全て俺に向けられているのだと分かる。
期待に答えたくなって自然を手を掲げてみた。
民衆の咆哮は一段階ギアを入れ替えて、より強大な絶叫となって俺の心臓を高鳴らせる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
俺もなんだか嬉しくて、訳わかんなくなって、ガッツポーズで彼らと一緒に大いに叫んだ。五分くらい喚き散らした。
「ぜぇ……ぜぇ、の、喉が……ベルすまん、回復してくれ……」
「ふふふっ、何してるんですか、もう」
しゃきんと回復魔法の優しい光。
俺は喉の調子をすっかり取り戻すと、再び民衆の前に立った。
ベルが静粛にするよう合図を出し、ぴたりと歓声は収まる。
俺はゆっくりと……話始めた。
まずは魔王を倒したこと。ここでもう一度大歓声が上がって、それから魔王とその協力関係にあった女王ジゼルについても赤裸々に語った。
磔にした赤裸々な姿も大衆に晒した。
魔王とセットで。
裸に剝かれて穴という穴になにやら色んなものを突っ込まれて乳首ピアス開けられて変なヨガみたいなポーズで拘束されて終始オホオホ言って白目剥いてたけどとりあえず人前に出すもんだから服を着せて罪人のそれっぽく磔にさせた。
誰もが息を呑み、涙した。
そして歓声とは違う、怒号がこの場を支配した。
「殺せ! 八つ裂きにしろ!」
「人類の汚点! この世から消えてなくなれェ!」
「死ねええええ!」
ベルが静粛を呼びかけても一向に興奮さてやらぬ民衆。
まあヒートアップも無理はない。でもそれじゃあ話が進まないわけで……。
「【ミニッツ・ラヴァー】発動―—!」
女神を召喚することにした。
プルガチャ。
スキル【ミニッツ・ラヴァー】が発動しました。
これより通信を開始いたします。
ワンコールで出やがった……。向こう暇なの?
『も、ももももしもし!? アギト様!? うそ、そっちからかけてくるなんてびっくりしちゃいましたあああああ! そっちは今どうなって……うわ! 人がいっぱいですねえ! ゴミのよう!』
耳がキーンとするほどやかましい! あと民衆をゴミと言うなよ!? それ悪役のセリフだから!
「んな!? なんだこのお美しい声は!?」
「何言ってんだ? 何も聞こえないぞ?」
「いいや聞こえる! あ、頭に直接!?」
民衆は女神の声が聞こえる組と聞こえない組でざわざわしだした。
というかそっちから見えるんならさあ。……俺からも見えなきゃ理不尽じゃね?
「おいバカ女神。ちょっとそっちの通信もライブにしてくれよ」
「あーはいはい。できますよー。それ!」
そんな軽いノリと共に、女神はいとも簡単にパっと映像を空中に浮かべて見せた。
俺の意図を汲んでか、青空に超巨大画面で投影して、民衆にもその姿をあらわにする。
白い薄布を巻いただけだというのに決して局部は見せない謎の着こなし。
金色の長髪は何よりも美しく、そして一目でその存在を理解させる全てを許す柔らかな表情。
そしてなんとまあ……役者だな、こいつ。
『世界の皆よ、我が子らよ。よくぞ今日まで耐え抜きましたね。魔王の脅威は去りました。世界の平和は勇者の手によって為されたのです!』
再び――大絶叫。




