75:四匹の豚
女王はすうっと息を大きく吸い込む。
欲望を吐露する。
「人目をはばかることなく、思う存分性欲を開放したい!」
「な、なにぃ!?」
こいつただムラムラしてただけだったあああ!
マジか! さっきの夜のお相手発言で盛りやがったのか!
さっきからあまり性的な面に関して強くない様子ではあったが、ここまでとは……。
これまで、まともなセックスなど数えるほどしかしてこなかったのだろう。
おいたわしい限りだ。同情しよう。
ただ……。
「み、認められるかこの大バカ者が! そのような下らぬ……! いや、否定はせぬ! せぬが、こやつは……! 勇者はダメだろう!?」
「いいや、彼しかおらぬ。なぜなら勇者とは異界の住人。この世界の民ならば妾の女王という地位に恐れ、魔王と共謀したことを憎しみ、真に心を通わすことなどできはしないのだ。しかし彼ならば、我を真に……愛を持って接するだろう」
なんか知的っぽく乙女チックなこと言ってるぞこの女王。
そうだね、でも愛のあるセックスしたいよね。
わかる。凄いわかる。
でもな……。
「愛!? わ、わからぬ! 生物の感情という欠陥……その中でも最も理解できぬのが【愛情】! 容易く壊れ、直ぐに怒りや憎しみの情へと変化する。それでいて、生物の行動はその感情が最も優先されるという……なぜだ……愚かとしか、言いようがないわ!」
ふふん。
鼻を鳴らす女王は慈愛をもって魔王に説いた。
「案ずるな魔王よ。この世を支配したならば、愚かしい行為も……ゆっくり理解していけばいいだろう。妾と貴様は一心同体。よって我が夫はお主の夫でもある。ゆっくりと愛を紡いでいけばよいのだ」
「こ、この妾が、愛を……!? そ、それもよりにもよって勇者などと!?」
魔王がこちらに目をやる。
それを見返してやると、慌てた様子で目を逸らすのだった。
なんかきゃっきゃウフフとじゃれ始めたぞ。
結局、魔王が押し切られる形になってきているようだ。
俺を仲間として迎え入れ、人類を滅ぼした後で3人で愛を育むのだそうだ。
俺の意見など、まるで聞いちゃいない。
まあしかたがない。王たる奴らからすれば、今までは物事の決定権は常に自分にあったのだ。
自分がそういたいと思ったことはほとんど実現してきた。
だが……。
「だめだ。俺は、お前らの仲間にはなれない」
女王も魔王も、誰が発した言葉だろうと顔を見合わせて、ああ、そういえばもう一人いたなといった様子で俺を振り向いた。
「勇者よ。そう思いつめるな。たかが数カ月滞在しただけのこの世界の住人などの目を気にして、お主が命を投げ捨てる必要はないのだぞ」
いや、そんな気はさらさらないさ。
人目を気にしてあの豚共を引き連れてはいけないしな。
そんなんじゃない。
答えはもっとシンプルだ。
「女神に頼まれたんだ。世界を救ってくれってな。だからすまん、お前らの仲間にはなれん」
小さなため息。
魔王と女王は呆れ顔で、剣を肩に担いだ。
殺気が爆発した。
「そうか……ならば死ねっ!」
「死なねーよバカ! 【百鬼夜行】発動! お前ら、来い!」
女神より授かったユニークスキルが展開する。
往年のRPGよろしく、仲間が俺の背後に列となってついてくる。
それは例えどんなに離れていようと、スキルを発動した瞬間には直ちに背後へと現れる仕組みだ!
よしよし、予定通り、よく来たな。
我が豚共!
「ブヒいいいいいいいいぃ!」
「な、何だこ奴ら! なぜ裸体!? いや構うか! その肉壁ごと切り刻んでくれるわ!」
やはりこいつら、分かっていないようだな。
桁違いのステータスにあれほど浮かれてたもんな。
効果がまだ判明できていないとはいえ、ユニークスキルを満足げに眺めていたよな。
無理なんだよ。その程度じゃ。
俺がぶん殴って鍛えた耐久力。
俺を攻撃させて培った攻撃力。
さあ、俺の豚共を倒してみろよ魔王!
言っとくが、俺には無理だぜ?
急な呼び出しに文句の一つも言わず【おすわり】状態で待機する優秀な家畜に、淡々と命令する。
魔王と女王を指差し、叫ぶ。
「蹂躙しろ!」
「ブー!」
一斉に飛び出す四匹の豚は、瞬間に魔王と女王に肉薄した。
その後の光景は、見るに耐え難く目を伏してしまったが、音声は生々しく響き渡るのだった。




