72:流石は邪神
「……なぜ生きておる」
声に振り返る。
そこには平然と佇む……女王。
余裕ぶった表情だが、王笏を握る手がわなわなと震えているのがわかった。
内心気が気じゃないよな。一世一代の初見殺しがあっさり失敗したんだからな。
なぜ自分で召喚した勇者を自分で殺すのか。
魔王を殺した後でならまだしも……。
「ああ、そうか。お前が――魔王なんだな?」
そうじゃなければただのサイコパスだ。
ならば俺に二ヶ月もの間惰眠を貪らせたつじつまも合う。モンスターにとっては勇者なんか動かないに越したことはないからな。
女王は、黙秘。
この状況でまだ何か言い逃れができるかもと思っているのか?
無理だろ。流石に。
「……お主を刺し貫いたるこの魔剣。名を【千年王剣】という。五本揃いて初めて真なる力を発揮する、少々面倒な剣ではあるが……この剣をすべて刺された者はステータスを無視してかつ回復魔法の効果を受け付けずに、死ぬ……はずなのだが?」
質問に答えず何かと思えば、長々と俺を殺しめた武器の解説をし始めた。
たぶん普通の剣を五本も串刺しにされたとしても余裕で死ねると思うけど。
それに返答するミゼーア。
ベルの肉体を借りて煽りまくんのはやめてほしい。
「え、なに君。まさかそんなジョークアイテムでアギト君を殺せると本気で思ってたの? 【回復阻害】と【即死属性】なんて紀元前レベルの組み合わせで? あ、もしかして笑うとこだった?」
見た目はベルなもので、その傲慢な物言いに女王は一瞬たじろいだように見えた。
しかしやはり見識は高いようで、即座にベルの皮をかぶったミゼーアの存在に辿り着くのだった。
「なるほど……神か。それも邪神か。勇者と手を組み、その女に憑依して力を与えていたか」
「手を組むなんて人聞きが悪いな。まるで君みたいな下等な存在を倒すために僕が出しゃばってるみたいじゃないか。……まあ、そうしてもいいんだけど」
途端に場の空気が凍てつくのを感じた。
一触即発の気配。
俺としても、ミゼーアがパパっと片付けてくれるならそれに越したことはない。
まあ、そううまくはいかないのだけれど。
「……くくく、戯れはよせ。貴様ほどの高位なる存在が下界の政に干渉すれば、たちまちに神格を剥奪されてしまうだろうに。一人の人間を弄ぶ程度ならグレーゾーンのようだが、妾を手にかければ貴様も無事では済むまい?」
ふーん?
自由奔放に見える神でも何かしらの制約に縛られてるみたいだな。
そして魔王は隙間産業よろしく、神の手が届かないことをいいことに世界征服を目論んだわけだな。
勇者とは、そんな魔王に対抗するべく神が下界に介入するための依代なのだと、ミゼーアは補足した。
「僕は別に神の座を退いてもいいんだけど、君を倒すのはアギト君の仕事だから今回は手を出さないで上げるよ。……せっかく時間稼ぎに付き合ってあげたんだ。ちょっとは抗ってみなよ?」
「……感づいていてなお、あえて誘いに乗ったか。なんと傲慢な……そして、我に力を貸すような真似をするとは、流石は邪神といったところか。おかげで、全ての準備がここに整った」
やけに饒舌かと思えば、敵の時間稼ぎに付き合ってたのかこいつ。
勝手なことすんな!
「あだっ! 無言でなぐるのやめてよ!」
バカかこいつ。
お前さんざん煽ってるけど――!
俺、一回こいつに殺されてるからな?
二回目がないとも限らない。
だから早急にぶっ殺して欲しかったんだ。お前が神の座を放棄することも厭わないというならさっさとそうしてほしい。
……まあいい。
もう後の祭りのようだ。
『勇者よ。妾のためによくぞ尽力した。もう、休んでよいぞ……永遠にな』
耳元から声がした。女王の声だ。
目の前にいるのにわざわざ俺にだけ聞こえる声で、なんの変哲もないことを呟きやがって。
耳元からするから、思わず振り返りもした。
そして、そこに女王がいた。
「……あれ?」
正面に目を向ける。
女王がいる。
背後に目を向ける。
女王がいる。
「……双子?」




